第十三話『雑魚パーティはとことん雑魚です』
パーティがとっても心配なレベルなことは充分にわかった。
ということで次はおサルさんについてどれくらい情報を持ってるのか訊いてみよう。
「スピーテコについてわかってることはある?」
ないとは言わせないよ? ないと言ったやつは自白が早かった順番にソロップに帰らせるからね?
「好きな食べ物はプノって聞いたよ〜」
プノは甘くて細長く、少し曲がった赤色の果実で、俺も大好き。これはスピーテコと気が合うな……って、
「俺は片想い中の青年かっ! なんで好きな子についての情報訊いてるみたいになってんの?!」
俺のストライクゾーンにおサルは一匹たりとも入れません。もっといい情報ないのか。
「はいはーい!」
素晴らしいねイグナさん。執拗いけどそのぶかぶかローブさえサイズに合ってれば完璧だ。
「はいイグナ」
「ボスは一匹、その下の中ボスが七匹、その下に群れのリーダーが各五匹、さらに下っ端が各百匹いるって聞きますよ!」
つまり三千五百匹以上。それが今少し遠くに見える木が鬱蒼と茂る森に棲息しているらしい。嘘でしょ。
「俺たちじゃ無理かもしれないってことは考えなかったの?」
「いえ、それも考えたのですが……アルテが大丈夫だって言うので……」
「おい爺言葉! なんてこと吹き込みやがる! 理由はあんの?!」
このお方酷い。自分一人の判断で俺含め五人の命がプノの代替品と消えるんだぞ?!
「スピーテコは火属性。そしてこちらにはその有利属性のルアクがいる」
「やっほ〜」
なんだこいつら。もしかして勲章ってお金で買いました?
「『やっほ〜』じゃねぇよ! 有利属性たった一人で群れを消しされんのか?! 無理だろ! 俺は不利属性たった一体で有利属性の敏腕戦士何万人も葬った魔獣知ってるよ?! お前ら知らないの?!」
ここで知らないとあっては話にならない。暗黒の龍、もちろん知ってるよね?
「あー………………」
百歩譲ってただ知らないならまだマシだった。そうじゃなくて知ってるふりして「あー、あれね」って言おうとして何も出てこないのやめろ。嘘だろ、こいつら話にならない。
「んでどーすんの? 俺がいくら強化したって数が知れてたら所詮雑魚の悪あがき程度にしかならないけど?」
「「「「ゑ?」」」」
なんだろう、一瞬こいつら全員ぶん殴りたくなった。「え?」はこっちのセリフなんですけど?! なに、みんな俺を頼りにしてた感じ? じゃあさっきのアルテの自信もただの痩せ我慢?
「えーっと、今から辞退とかダメかな……?」
「ダメに決まっておるじゃろ」
「えぇぇ、ちょっと、一回受けたのにそれはないですよぉ。約束を破るなんて酷いですぅ」
ちくしょう! だから契約なんて嫌なんだ! すーぐこういうこと起こるんだから。ていうか俺一回した約束破ってここまで来てんですけど。
「しかもニーヴェさん、もう着いてます」
「ゑ?」
やっと言えた。しかも無意識で。
だがそんなことより。遠くに見えていた森が今は間近にある。
「ウキキッ、ウキッ、ウホウホウホ」
「キキッ、キキッ、キャッキャッ」
「ウキャッ、ウキャッ、オハッハハー」
最後のやつ絶対俺らのことバカにしたろ。
「ああああぁぁぁもう! こうなったらやってやるよ! たとえプノの代わりになろうともなっ!」
「ウホッ、ウホウホッ」
もう俺のこと嘲笑ってるようにしか聞こえないんですけど。こいつらがスピーテコか。なんて言ってるかわかんないけど腹立ったから一匹残らずぶっ倒してやる。
「…………あ」
「なんじゃ? このほぼ不可能なクエストの攻略法でも思いついたか?」
「ちげぇよ! ただ……ちょっといい事を思いついたってだけ。攻略にはそんなに関係ないと思うけど」
さてと。この広い森全てに届くような魔法を唱えないといけないからまた長い長い詠唱をする。
「なんですかそれ。もうこんな人放っておいてさっさとやりましょう」
「さんせ〜」
「ウキッウキッ」
俺が詠唱する間にどれだけルアクは詠唱するだろうと考えると、自分のやってることが本当に馬鹿らしく思えてくる。
「ウキャーッ!」
ルアクの詠唱によって杖から放たれた水属性の光線がスピーテコの脳天を貫く。そしておサルさんは白目を向いて倒れる。
「いいねルアク、その調子っ!」
イグナはローブの袖を引きずって土まみれにしながら杖を振り、ルアクに賞賛を贈る。忙しそう。
「おい、フュール! 気をつけろ!」
立ち止まっていたフュールにスピーテコが近づいていたのを払い、喝を入れるアルテ。
「ひぃぃぃぃ、ごべんなざぁい!」
そして怯えて何も出来ずにその場に立ち竦むフュール。おいおい、「こんな人放っておいてさっさとやりましょう」って言ってたの誰よ。
もしかしてパーティの足引っ張ってるのこいつじゃないのか。フュール以外の三人ならもっと高難易度のクエストもクリアできたりするのかも。
「ふんっ!」
防御魔法の詠唱を行う土魔導士のアルテ。詠唱により出現した障壁に群がるスピーテコはまるで障壁に群がるおサルさんだ。
『「まるで」の意味とは?! 同じこと言ってない?!』
うるさい黙れ。
『おべゃあ! 酷いなっ!』
邪魔だ、天使ニーヴェ。いつもそうだが今は特に。詠唱中に来るんじゃない。
そして障壁がレストランでの俺の聖水の流れくらい早く割られると、アルテはおサルさんに群がられてしまった。
「ウキャキャ、ウホウホ」
「うわぁぁぁ! やめてくれ!」
「アルテ、今助けに行く〜」
その言葉に何の緊迫感もないのはしょうがないとして。なんだ、やっぱりアルテも弱いのか。
ルアクの水魔法によって何とか救出できたから良かったものの。
おっと、ようやく詠唱が終わった。さぁ始まるぞ、俺のさっき思い描いた世界が!
「さっきから何唱えてたんですか?」
「まぁ見てなって。今に効果は現れる」
森の高い木の上から雨のようにスピーテコが降ってくる。地獄の光景だ。
「ウキッ、ウホウホウホ!」
「え、今なんと? スピーテコの鳴き声と人間の声が一緒に聞こえた気がしたんじゃが?!」
そう。これがまさしく俺が望んだ世界。スピーテコの話している言葉がわかる。
『クッソどうでもいいわ!』
うるさい黙れ。
『おべゃあ!』
その「おべゃあ」ってなんだよ、気色悪い。
『あの、一応言っとくけど僕は君の心の中にいるんだから、君の精神や感情を反映してるんだよ?』
なるほど俺が気色悪いってか? うるさい黙れ。
『……』
あの、俺の脳内の隅っこでうずくまって泣きじゃくるのやめてもらっていいですか?
もういいや、こんなやつ放っておこう。
ちなみに、ほんとならあいつらに人語だけを喋らせる予定だったんだけど、ちょっと失敗して猿語も残っちゃったんだ。
「ウホッ、ウホッウホッ」
あ、アルテを煽った。そんなことして、どうなるか知らないぞ? アルテの方が。
「なんじゃ? クソザル共が。ぶち殺してくれるわ!」
「ウキーッ!」
アルテが斧を振り回し始めた瞬間、スピーテコが何十匹もアルテの顔面や脚にひっつき、斧が当たらないところから上手く邪魔をしている構図になった。
「うわぁぁぁ!」
アルテ引っ付かれすぎ。威勢だけはいいんだから。
「アルテ!」
イグナが杖を振って炎を出す。さっきはビビって離れたスピーテコだが、全く離れない。
「えー、なんで?」
「ウキャキャ、ウホウホウホ!」
知ってた。イグナの火力じゃ火属性には効かない。
「ウホッ、ウキッウキッウキッ?」
サルにも言われてんぞおい。ローブのサイズが合ってたらもっと火力出るのでは?
「うるさい! あなた達に勝ったら買うんだから!」
「あの、イグナさん?! ちょっと前に杖買うって言ってなかった?!」
それは嬉しい計画変更だけどね。
「気が変わったんです! サイズに合ったローブなら、おサルさん達も倒せるはずです!」
本人も思ってたのかい。
「フュール、いい加減動いてくれな〜い? 庇うの疲れたんだけど〜」
「嫌です! こんなの怖くて戦えません!」
「ウホウホウホ」
「ウホッ、ウホホッ」
「僕への集中砲火すごいな! それと『ウホホッ』に対する人語長いなっ!」
おお、ツッコミ仲間が増えた。
ただ、少し真面目な話をすると、今のとこ有利属性のルアクだけがまともに戦えている。しかし他の三人――いや、フュールを除き二人はゴミ同然の立ち回りしかできていない。フュールは言うまでもなくゴミそのものだ。
という予想を遥かに下回った状況なんで、俺がやってやります。




