第十二話『スーパーを冠する物は大抵が小並です』
声のした方を振り返ってみると、そこには黒い鎧を纏った青年騎士、青いローブとハットに身を包んだ少女魔導士、大きな斧を持った大男、眼鏡をかけて体より一回り大きな黒いローブに半ば埋もれている少女魔導士がいた。
「ニーヴェさん、でしょうか? 違ってたらすみません。でもその真っ白なローブと頭部の2倍ほどの直径のある真っ白なハットが目立ってたのと、耳に着けていらっしゃる装飾品が珍しかったのでそうかなと思いまして」
そうそう、俺の帽子よくデカすぎるって言われるんだよね。これくらいあると陽射しモロに受けなくてもいいし、何かやらかした時に顔隠してすぐ逃げれるしね。ま、ローブもハットも真っ白なせいですぐ覚えられてお縄だけど。
そんで耳の装飾品。これはアズが「お守り」とか言って買ってきてくれたんだけど……普通の装飾品ならだいたい俺たちのパワーアップをしてくれる一種のアイテム。ただしこれはただの装飾品じゃない。何の効果もない珍しい装飾品なのだ! はっはっはっ、自分で思ってて悲しくなってきたぞ。
「そ、ニーヴェは俺だよ。今日はなんで俺に話しかけてきてくれたのかな?」
友達作りの一段階目のように話を進めていく。しかも小難しい感じの友達作り。
「あの、俺たちこれからクエスト行くんですけど、ついてきてくれませんか? もちろん報酬はお支払いするので!」
おう報酬は当たり前だ。もし無償だったら「いいよ」とも「嫌だね」とも言わずにアズと一緒にナリアトに走って行っただろうからね。
「えーっと、それは……いつもはお断りだけど、今はそうじゃない……つまり歓迎ってことなんだけど……一応内容だけ訊いてもいい?」
我ながらめちゃくちゃ回りくどい言い方だったな。今までズバッと断る意志を持ってただけに、いざ受けるとなると少し申し訳ない気持ちになってくるのは何故だろう。
『それはいい事をすることに恥じらいを覚えているんだ』
出たな悪魔ニーヴェ。よし来い。今から少しだけ俺は正義の味方だ。
『とりあえず内容聞かなくてもいいのか?』
あ、そうか。そう言えば質問してたんだった。ごめん、ありがとう悪m――はっ! 危ない、悪魔に礼を言うところだった。
あまり悪魔にベタベタだと意味不明な契約させられるから怖い。俺は契約には慎重なんだぞっ!
『お前は悪魔をなんだと思ってるんだ……?』
「内容ですか。それはですね……ソロップ郊外に森があることはご存知ですよね?」
残念だけどソロップ郊外なら奇声の聞こえるレストランの所在しか知らない。首を横に振った俺に、歳が同じくらいのその騎士は少し呆れ顔で言う。
「そうなんですか。まぁ森があるんです。あるということにしてください」
そんな言い方するなら前置き要らなかったろ。
「その森に棲んでるスピーテコっていう猿の魔獣たちが、たまに街に入って来て悪さするんだって〜」
青い魔導士はキリッとした表情に似合わない気だるげな話し方でそう教えてくれる。いや外と中のコントラストが違和感でしかないわ。
「そいつらを倒すというクエストを受けてきてな。まぁ儂らでも余裕は余裕なんだが、もしもの時のためにとリーダーが言うんで助っ人を頼みに来たと言うわけよ」
大男はまだ若いのに爺言葉?! ギャップがありすぎてついていけない……! あ、「ギャプッ」じゃないからね?
「どうです? 受けてくれます?」
黒いローブの魔導士が俺より結構下の目線から言うが――
「いやあんたはもっとサイズにあったのを買え!」
――ローブに埋もれてるのが気になって話に集中できない。
ちょっと待ってください。この俺が完全ツッコミに回るなんてどういうパーティですか? 誰かツッコミ役回ってよ。一人は疲れるから。
まぁ戦闘時の負担考えると俺はこういう時に負担多い方が平等なのかもね。
ちなみにスピーテコなんて聞いたことないから大したことなさそうだと思ってる。そして略奪してるらしいからお宝貯め込んでる可能性が高い。つまり報酬を多く得られるチャンス。
――俺クエストをこんな風に考えたの初めてなんだけど?
「わかった。受けるよ。そうと決まれば早く行こう。俺も用事があるんだ」
「えっと、ニーヴェ? 私はどうすればいいのかな?」
そうだった、忘れてた。別に散財以外だったら何してもらってもいいんだけどなぁ。
「とりあえずここに留まってて。二日もあれば戻ってこれるから」
「……うん、わかった」
アズは少しだけ気に入らなそうな表情を浮かべた。おそらく一緒に行きたい気持ちがあるんだろう。
でもここまで俺が多大な迷惑をかけてきたんだ、少しだけ散財しない程度に好きなことをする時間がアズにあってもいいでしょ。
それと一番大事な理由が。
戦闘時にいられると邪魔だから。
「なんかめちゃくちゃな悪口言われた気がしたんだけど?!」
「気のせい、気のせいだよアズ。そ、そんなの誰が言うんだ。俺がぶっ潰してやろうか」
「ニーヴェ優しいね。もしそれができるなら――お願い!」
なるほど俺は俺をぶっ潰せばいいのね。
「よし、しばしの別れの挨拶はもう大丈夫そうですね。そろそろ行きましょうか」
「おう」
そして俺たちは歩き出す。略奪猿から街を守るために。
『ちょっと待て、俺との話を一旦置いておくのはいいが、最後まで置いてけぼりは勘弁してくれ!』
なんか後ろで悪魔の囁きが聞こえたけど俺は耳を貸さないことにする。悪魔との契約はよく考えて結ばないと。
『だからなんで俺と話したらすぐ契約させられるという認識なんだっ!』
森に向かって歩き始めてから少し経って。立ち込める沈黙に我慢できなくなった俺はパーティのみんなと仲良くなりたいという名目で実力を計ることにする。
「ということで自己紹介しない? 俺みんなのことなんて呼べばいいかわかんない」
「さっき唐突に話始まったのに『ということで』はちょっとよくわからないですがいいですよ」
しまった、痛いところを突かれた。そんなことはおくびにも出さずに自己紹介開始。
「お、俺はニーヴェ! 白魔導士で、じ、自強化、そうそう、自強化できない白魔導士! これまで貰った勲章はゼロ! どうぞよろしっ! よろしく!」
我ながら最高の自己紹介。ちょっと挙動不審になったり声が裏返ったりしたけどそんなの気にならない程度だし完璧だ。
「すごく冷や汗かいて痛いところ突かれたみたいな表情で、挙動不審で声裏返ってて痛いところ突かれたみたいな話し方でしたけどよろしくお願いしますね」
え、今の十数秒でバレたのか?! こいつら人の心を読めるのか?!
『いい加減バレバレだったのを認めろ』
…………。
『無視かっ! 良心的に教えてやったのにこの待遇かっ!』
だいたいお前のどこに良心があるんだ、悪魔。
「じゃあ僕が。フュールです。風属性持ちの剣士です。僕らのパーティはこれまでに何度か勲章を貰ったことがあります。まぁ結構な下級クエストばかりですけどね」
なるほど俺によく助けを求めに来る部類のパーティな。自分たちの強さをよく理解していらっしゃるのでそこは素晴らしいと思う。たまに自分たちが強いとか思ってて俺はただの保険とか言ってくるやついるけどあれは本当に腹立つ。
結局クエスト中は俺に頼りきりなのはだいたい一緒だ。
「次は儂。アルテ、土属性持ちのタンクじゃ。儂がいればどんな攻撃も通らんから本当はお主なぞ要らぬのだが、まぁ保険でな」
え、パーティの中で考え方矛盾してるやつ? こんなの初めてだわ。半分のメンバーの時点で処理しきれないんですが残りの半分はどうすれば?
「じゃあ私〜。スーパーヒーラーのルアクだよ〜。水魔導士〜」
おいおい、スーパーってついてるものはロクなものじゃないぞ。それの証明にこいつにスーパーニーヴェ平謝りを見せてやりたい。
――恥ずかしいからやっぱ嫌だわ。
「次は私! 火魔導士のイグナです! このクエスト勝ったらそのお金で新しい杖を買います!」
お前は自分のサイズに合ったローブを買えよっ!
てなわけで、思ったより膨らんじゃった心配を何とか抑えながら、愉快な仲間たちと共におサルの根城に突撃してきます。なんだかサーカスみたいだね。




