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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第二章『ソロクエストへの道のりは長いです』
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第十一話『白魔導士の懐はピンチです』

 目が覚める。ここはどこ? 私は――ニーヴェ。自強化できない雑魚白魔導士。良かったちゃんと覚えてる。


「――じゃあなんでここがどこかわからないんだ?」


 地面が嫌に弾力があったので下を確認すると、地面だと思っていたそれは長椅子だった。


 窓からは光が差し込み、遠くで何かが騒いでいるような微かな音が聴こえる。


 匂いで確認。ほのかな獣臭、何かを焼いたような香ばしい匂い、そして誰かの口内のような匂い。


「あー、ここ俺が聖水ブチ撒けたレストランだわ。こんなとこで寝てたんだ」


 それならグリアはどこに? ちょうど階段を見つけたので二階に行ってみる。


 二階にはドアが三つあった。

 恐る恐る手前の一つ目を開けてみる。


「……わお」


 目に入ってきたのは肉の黄金郷。一歩、また一歩と足が勝手に進んでいく。バレてはいけないのでドアを静かに閉め、寝る前に食べたハーフステーキでは一割も満たせなかった腹を満たす意志を固める。


 これ全部ネッセスの肉なんだ。そんなことを思ってしまうと少し気分が悪くならないこともなくなってきたので心変わりしないうちに満腹へ突っ走る。


 うん、生でも美味い。そう言えばネッセスの肉って生で食べても良かったっけ……?


 ――とそんな恐怖の話は置いといて、暴食の限りを尽くす。腹が痛くなったって全部アズのせいにすればいいんだ。そして治療費払ってもらえばいいんだ。


 今、俺とアズの財布は運命共同体だけどそれでも――って結局自分の支出じゃねぇか。


 そんな馬鹿みたいなことを考えつつ腹八分目まで食べて満足する。


「えーっと? そう言えばこの部屋めちゃめちゃ寒いな」


 食べるのに集中していて気づかなかったが、肉を保存しているとあって本当に寒い。火属性の魔法だろう。熱を司るのは火属性だし、それもあって大抵のレストランの経営者は火属性持ちだ。


「ううっ、寒……早く出るか」


 そうして俺は一つ目の部屋、肉の貯蔵量が()()()()()()()ほどになった冷凍室を出た。


 さて二つ目の部屋はどうだろう。


 何がとは言わないけど今バレたらヤバそうなので静かにドアを開ける。そのドアの先には――


 ――着替えを持って下着のまま立ち尽くすアズ。


 こ、れ、は、ま、ず、い。


「へ、変態っ!」


 部屋の中の物を投げられたが、それが顔面に直撃するすんでのところでドアを閉めて防御。そうだった。俺は冒険に着替えなんて必要ない主義の人間だけど、アズは寝間着くらいはと、家を出る時に女の子のプライバシー用鞄に色々詰め込んでいたのを今思い出した。


 ヤバい、まずい、殺される。早く逃げるか隠れるかしないと。寝てすっきりした頭で考えろ。今から行くべき場所は……!




 ガチャ、バタン。


 ということで三つ目の部屋にやって来ました。見回したところ、ここはおそらくグリアの寝室。しかし誰もいない。隠れ場所にはもってこいだ。やっぱり日頃の行いがいいからこういう時の運も格別にいいよね。こんなこと考えてるから人生ロクなこと起きないんだけ――


 ――ガチャ。


「え」


「ニーヴェ? 覚悟しときなさいよ?」


 ふっふっふ、こうなった場合の抜群の対処法があるのだよ。必殺、スーパーニーヴェ――


 ――平謝り。


「ごめんなさいごめんなさい。着替えしてたとは知りませんでした。ノック忘れてました。今度からは気をつけて二度とこんなことがないように努力します。と言うより俺アズの下着姿とか見てないし別に見たくもな――」


 ボコッ、ボコッ、ドスンッ。


 バキッ、ペキッ、ミジャッ。


「ギャプッ」


 なんか結構固めの物が潰れた音したし。てか必殺・スーパーニーヴェの時点で失敗する気しかしなかったし。謝り方は悪くなかったはずなんだけどなぁ。


「反省してね?」


 満面の笑顔が鬼面の修羅に見えるんですけどどういうことでしょうか。


「う……とりあえず視界がハーフな状態から立ち直れたらそうすることも考えてみるよ……」


 潰れた顔もだし、抉られた鳩尾みぞおちもだけど、とりあえずアズの手の中指に殺された俺の水晶体が痛すぎる。


 眼って大事なんですけどアズさんはご存知ないかしら? 痛すぎてネッセスと同じ悲鳴上げたわ。


「とりあえず着替えたみたいだし、グリア探さない?」


「……そうね。私たちをここに泊めてくれた彼には感謝しないと」




 そうして階段を降り、レストランの外に出る。ただし入ってきた時の出入り口ではなく、キッチンを抜けた先――つまり牧場があると俺たちが判断した方向――にある出入り口から。


「いやぁ朝の光って眩しいねぇ」


 おはよう、誰一人として俺を褒めないみんな。おはよう、誰一人として俺を認めない世界。おはよう、事ある毎に俺を背水の陣に追い込む神様。


「ほんとね〜。ところでグリアはどこかしら? この広い牧場から探すのは至難の業だと思うんだけど……」


「いや、甘いなアズ。それでもやるんだよ。ほら、俺はあっち行くから、アズは向こ――」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 地面が揺れ轟音が鳴り響くが、それよりも気になるのは。


「ギャプッギャプッギャプッギャプッギャプッギャプッギャプッギャプッギャプッ」


「ひ、ひえぇぇぇぇ!」


 さすがにこれは怖い。潰されかけた眼すら元に戻って見開かれるほどの大量のネッセスが群れをなして我先にとこちらに向かってきているのだから。


「おはようございまーす! 大丈夫ですよ! この子達は賢いのでぶつかりませ――ああああぁぁぁっ! 止まって! お願い! ちょっと! ダメだって! みんなぁぁぁ!」


 「賢い」って言葉は当てにならないってことを思い知らされた瞬間だった。


「良かった、止まったんだね」


 アズ、そこじゃないだろ。確かに止まるか止まらないかは問題だ。ソロップの人たちに危害が加えられるかもしれないから。だがそこじゃない。


「そこじゃないでしょーが! レストランが! いくらかかったと思ってるんです?! あなた方がどれだけ頑張っても稼げない程度のお金ですよ?!」


 残骸を前に怒鳴り散らすグリア。でも俺たちに非はないでしょ。どう考えてもネッセスのせいじゃない?


「なるほどお前は人間が一生遊んで暮らせるような金の百倍稼ぐことができるんだな」


「はぁ?! ということはそれくらいのお金持ってるってことですか?!」


 そうだよ。あと五日もしたら家売った時のお金が手元に来るし、万々歳だよ。俺をナメるな。財力だけはある。


「てことで食事と宿提供ありがとな。これからもレストランと農場経営頑張れよ!」


 グーサインとウィンクでグリアを激励。


「よし。アズ、行くか」


「うん」


「ちょっと待ってくださいよ! さっきの『頑張れよ』はこのタイミングで一番ムカつくやつですよ?! というか無銭で飲食と宿泊しておいてその態度は何ですか?!」


『ギャプーーーッ!』


 あああネッセスのクセ強ボイスの大合唱は心に違和感刻み込まれるからやめてくれぇ。


 それに礼はした。「ありがとう」。その言葉だけで世界は救える。


「じゃあな!」


 追いかけられないように走って逃げる。


「えぇぇ?! 本当に待ってくださいよぉぉぉ! 最低のクズですねあなた達! 末代まで呪いきってやりますからね?!」


 残念だったな。俺は一生独身をキメ込むつもりだ。故に末代とは俺のこと。俺にしか迷惑かからないんだもんね!





 さてと、感謝してもしきれないくらいの恩人から逃げてきた訳ですが。


「さすがに金が足りなくなってきたな……」


 さっきレストラン――だった残骸――に二千万ゴールド置いてきたから、残り一千万ゴールドもない。

 グリア、このお金で一つの街みたいなレストラン建ててね。あれだけあれば余裕で建てられると思うから。らしくない事して恥ずかしいけど、俺だってたまにはこういう事もするんだよ?

 ただ――


「これじゃ目的地に辿り着くには厳しいかもだな」


「え、なんで?」


 普通なら全然足りる量だ。だけど俺たちは何故か行く先々で大金を使い込まなければ切り抜けることができないという呪いみたいなものにかかっているのかもしれないので、あくまでも保険としてもう少し持っておきたい。ちなみに今回も伏線じゃない。


「俺たちは経由地一つひとつで何十万とか何千万とか使ってきてる。それこそ湯水のようにね。だからだよ」


 普通の宿屋とレストランなら合わせて百ゴールドいけば上等だったよ。


「そっか。どうやって貯めるの?」


 さてどうすっかな。お手伝いとかの楽々クエスト何個もこなしてお小遣い稼ぐか? いや、それなら何日かかっても破産が怖くて次の街に進めない。


 やめろアズ。そんな期待に満ちた真ん丸な双眸をこれ以上俺に向けないで。思考に時間をかければかけるほどにどんどん俺が追い込まれていくからいつまで経ってもいい案が浮かばなくて詰むパターンを突き進んじゃってるから。

 よし、とりあえず期待が大きくなりすぎる前にわからない程度の適当さで何か言っとくか。


「えーっと、じゃあ、とりあ――」


「すみません、白魔導士のニーヴェさんですよね?」


 おっと邪魔者。クリュー以外は大歓迎だぜい。パーティ用クエストへの助っ人依頼ですか? 今なら()()()()()()()よ。

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