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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第二章『ソロクエストへの道のりは長いです』
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第九話『Re:計画は狂うのが道理です』

 漆黒の空の下で立ち往生中の俺たち二人に夜風が気持ち良く吹いていく。


「いやぁ気持ちいいね〜」


 よくそんな呑気にいられるな。まぁ俺の為に我慢してくれたんだし、今回は感謝してるけど。けど元はと言えばクリューのせいだからね? 俺とパーティ組みたくてホイホイ来ちゃったんだから。それも俺の強さのお陰――はいごめんなさい一旦思考停止します。


「ニーヴェ? さっきから白目向いてるけど大丈夫?」


「……」


「……」


「……」


 パチンっ!


「ふぁいっ?!」


 ダメだ割と徹底的に思考停止してた。もう少しで川を渡れそうだったのに。なんかお金要求されたから困ってたんだよね。六モンだったっけ。そんな通貨単位聞いたことないし。


「ふぅ、やっと戻ったぁ。寝ちゃダメだよ? 私が怖いから」


 なんて自分勝手な。そして一つ気になることが。


「あの、アズさん? なんで()()()()()()()()()()()()()()んでしょうか?」


 もしやそれは。


「あ、ホントだ! さっきニーヴェの頬はたいた時の名残だね!」


「はぁ?! どんな力で叩いてんだよっ!」


 こいつやばいわ。やっぱり置いていった方が身のためかな?


「なぁ俺の左頬まだ残ってる?」


 死ぬほど痛いんですけど。もしその時吹っ飛んでたとしたらこれはファントムペインかな?


 そんなどうでも良くないけどどうでもいいことは置いといて。


 カサ、カサカサっ。


 草むらが囁いている(詩的表現)。


「な、何? 何なの?」


 どうせまたイルヴィーか何かだろ。


 待てよ。もしイルヴィーなら……もう投げる剣はない。これほどまでにクリューというただの投擲物とうてきぶつ所持者を恋しがったことはない。


「これは……まずい。アズ、歩け――走れる?」


 もしアズが首を横に振ろうなら、俺は簡単に見捨ててソロップまで一目散だったけど。

 こういう時に首を縦に振ってくれる彼女はやはり――


 ――一筋縄ではいかない足枷だ。


「ちくしょっ。まぁいいよ。とりあえずあの草むらの囁きが収まるか、中の何かがこっちに出てくるかするまでは、すぐに逃げられるように待機」


 中の何かを刺激しないように声をひそめて言う。


「了解。というか、あの葉っぱが擦れる音のこと『草むらの囁き』って言ってんの? センスないわぁ」


 俺の……詩的表現……。


「うるせぇ馬鹿っ! お前みたいな何回も同じ間違いする大馬鹿者に言われたくないね!」


 カサカサカサ。


「――あ」


 やべぇやらかした。本当の馬鹿を名乗る権利は回り回って俺が頂きました。この権利ってどこで棄権できるんだろ。


 俺の大声に反応して草むらを囁――葉を擦って出てきたのは――


「ギャプッ」


 丸々太り、毛並みの揃いというものをご存知ないかのようにボサボサな褐色の毛に包まった、()()()()()()()()魔獣。

 あ、こっちを向いた。


「ギャプッ、ギャプッ」


 こいつはおそらく、旧自宅とナリアトの酒場でご馳走になった食用魔獣と同種。名前はネッセス。とにかく()()()()()()()()


「ちょっと、あれどうするの? 攻撃してくる?」


 残念ながら知らない。ネッセスに関してはよく食べてるから名前と匂いだけ知ってるってだけ。そうだよ匂いでネッセスってわかったんだよ? これが暴食白魔導士クオリティよ。


「わかんない。ただ唯一わかったのは……」


「わかったのは、何?」


 ()()()()()()()()だなんて言えないっ! そんなこと言ったら今度は左頬じゃなくて他の部位が吹き飛びそうだからね(もちろん比喩で)。でもそれが気になってしょうがないんだよ!


「……な」


「な?」


 やっぱり言えない。


「なんにもなかったからとりあえず逃げろぉぉお!」


 ごめんねネッセス。後でまた機会あったら美味しく食べてあげるからね。


「えぇぇっ?!」


「ギャプッ! ギャプッ! ギャプォォォォオ!」


 だから鳴き声の癖が強いんだよっ! この鳴き声がトラウマになって今後美味しく頂けなかったらどうすんだ!


「やばい、追いかけてきてる!」


「嫌ぁぁぁあ!」


 アズって基本何でも怖がるよね。俺には湯気が出るほどのビンタするくせに。


「ギャプッ! ギャプッ!」


 やばい疲れてきた。勝負服のローブが重い。さすがに脱ぐ訳にはいかないしなぁ。


「はぁ、はぁ……もう疲れたぁ!」


「まだ十分と走ってないんだぞ? 頑張れ!」


 自分のことは棚に上げるマンとは俺のことだ。


 でもアズはローブも鎧も来ていないし、何も重たい物を持ってない。それなのに疲れたなんて、女の子ってそんなことで通るんだから楽だよね。

 今たぶん世界中の女性に反感を買われた。俺への反感ってプライスレスだから。なかなか買えないんだから買えたことに感謝してね。

 ――はいこれで世界中の人の大半に反感を買われた。反感売るのって簡単ね。でも出来れば自主回収させてくれない?


「ギャプッ!」


 やばい追いつかれる! 変声へんごえモンスターに突撃される! そして俺の真っ白な――本当のこと言うと汚れ始めた――ローブがさらに汚くなる! 最終的に新しいの買わなきゃならなくなる! はいもうおわかりですね。お金もったいない。


「タダで済むんだから走れ!」


「意味わかんない!」


 そんな感じで走り続けること三十分ほど。


「あ、明かり!」


「ソロップだ!」


 ようやく目的地! 無事につけて良かった!


「ギャプゥウ!」


「お前は喜ばなくていいんだよ!」


 というかネッセスって農場で飼われてるんじゃなかったっけ? もしかして脱走犯? それは良くない。()()()()()()()()()()()()()()()


 すごい勢いで門をくぐり抜け街道を駆け巡る二人と一匹。みんな――と言っても深夜のため人通りは少ないが――何事かと思いながら、それを訊くことも止めることもできずただ避ける。迷惑かけてごめんなさい。でも全部このネッセスが悪いんです。なんかついてくるんです。


「嫌ぁ! 誰か止めてぇ!」


 アズの悲痛な叫び。そりゃそうだ。俺だってもう足が限界なんだもん。


「ようやく見つけた! 止まれ!」


「ギャプッ! ギャプッギャプッ!」


 目の前に腕を広げて立たれると、俺たちは道の端の方にそれるしかない。もう少し詳しく言うと、それによって立ち塞がる、赤茶色の髪と瞳の彼にネッセスの激突を受ける囮になってもらうしかない。


 さぁ早くぶつかれ。面白いから。大丈夫、ウケるって。


「ギャプッ! ギャプッ!」


「よーしいい子だ。ほらほら」


 その男性の前で急ブレーキをかけて、ぶつかるどころか擦り寄るネッセス。


「ぶつからないんかい!」


 あ、しまった、ツッコみたい精神がついに口を支配するようになってきた。


「あ、この子を連れてきてくれてありがとうございました。それにしても、ぶつかって欲しいと思ってたんですか? もしそうだったら最低ですねあなた」


 何その言葉の前半で感謝して後半で貶して俺の精神を揺さぶる方式。


「あっはは冗談ですよ。全面的に感謝してます。私はソロップの縁辺部で農場兼レストランを営んでます、グリアと申します」


 レストランってことは……こいつネッセスと仲良くしてたけど、未来の食材だろ?! 途端にネッセスが可哀想になってきた。


「いやぁ肉――ネッセスが一匹逃げ出して、明日の食材に困ってたんですよ。この子明日捌く予定だったんで」


 一回肉からネッセスに言い直した意味が言葉の後半で無下になってるよ。というかもう日付変わってると思う。


「お礼をいたしますのでよろしければついてきてください」


 なるほど俺たちが連れて来たこいつをすぐに捌いてくれるのね。なんか本当に申し訳なくなってきた。


 しかし腹が減った。思えば酒場から半日経ってるけど何も食べてない。


「アズどうする?」


「もちろん、行くよ」


 使命感のある瞳で空腹を訴えかけるアズ。そうと決まれば行くか。


 とりあえず食欲と睡眠欲が思考を邪魔するので順番に満たしていこうと思う。

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