表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの王子、恋をする  作者: 雪うさこ
第41代目部長
9/9

新しい恋、こんにちは。



「もう、いい加減にしなよ?かんとく。あんなに騒いで。連れて行かないんだから……?」


外に出て、そばのベンチに腰を下ろした小針は、大橋の言葉なんて耳に入っていないのだろう。

大きくため息を吐いた。


「あの、菜花さんって若いのかな……」


「あの人は4月から配属された人だよ。市役所職員じゃなくて、県庁の人なんだって。おれは事情は分からないけど、葱市は中核市でしっかり運営しているから、勉強してこいって追い出されたんだって」


「追い出された」という表現は適切ではないが、大橋は志田から聞いた難しい話をそう解釈しているらしかった。


「そうなんだ。いつまでいるのかな」


「さあね。元々は県庁の人なんでしょう?そんなに長くはいないんじゃないの」


「そうだよな。そうだな」


「ってかさ。お前の嘘酷すぎ」


大橋は口を尖らせる。


「な、なんでだよ」


「本好きそうな顔しやがってさ。漫画しか読まないくせに。しかもなに?あれ。仏像の本なんて読むのかよ」


「よ、読むさ!仏像は大好きさ!大好きさ〜!」


小針はメガホンを持ち上げると大声で叫ぶ。

そばを通っていく親子が不審な目で見ていた。


「ママ。あの人、変なもの持っているよ」


「見るんじゃありませんよ」


「ああ、もう!かんとくといるとだからヤダ。おれまで変人扱いじゃん」


「すまん。とわ。つい。興奮してしまって……」


小針はしゅんとした。

本当に嫌なところ。

自分でもわかっているのだ。

興奮すると何を仕出かすかわからない。

この気持ちを持て余すので、大声で叫んでしまうのだ。


「だけど。あの人と出会った瞬間。バッハが降りてきて、これは『運命だ』と確信したのだ」


「それって、この前も言っていたじゃん」


「……ぐ。この前はこの前だ。今回は違う!断じて違うのだ」


「はいはい。0勝50敗の記念すべきお相手が菜花さんだとはね」


「失恋するとは限らないじゃないか」


「あのね!かんとく」


大橋は真面目な顔で小針を見る。


「世間一般とおれたち葱高校は違う訳。いい?普通の恋愛って男と女の関係なんだよ?男と男なんて葱高校の中だけの常識なんだから。そんなこと、他所でやってみなよ。本気で変人扱いだからね!」


「とわ……」


「おれたちがどんなに苦労しているか分からないだろう?もう。嫌になっちゃうし」


彼はそう言い放つと立ち上がる。


「ほら。帰るよ。電車の時間になっちゃう」


「本当だ。……とわ。すまない。また配慮のない言葉だった」


小針は素直にそう謝る。

そう。

大橋は、白木とお付き合いをしている。

二人は、1年生の頃から仲がよかった。

それは小針でも承知のことだったが、二人がいつからそういう関係になっているのか、小針には分かり兼ねる。

しかし、現時点で恋人の関係であることは理解していた。


白木はずっと大橋を見守っていた。

いつか報われるといい。

そう陰ながら応援していたのだが、3年生になる頃から、二人が纏っている雰囲気が変わってきたのに気が付いた。

きっと、それは二人の関係が変化した証拠だったのだろう。


だけど、大橋たちには大橋たちの悩みがあるようだ。

いつも恋はするけど、結局は実ったことのない小針には理解のできないことであるが……。


「別にいいよ。悪気がないのはわかっているしね」


大橋は、ふと笑みを見せると自転車置き場への向かう。


「帰ろう」


「そうだな」


夕焼けの空は燃えるように赤い。

小針の新しい恋の幕開けは突然だったのだ。



第一部終了です。お付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ