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幸せの王子、恋をする  作者: 雪うさこ
第41代目部長
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第41代目部長。



「暑い……。夏なんて嫌いだ」


気怠そうに呟いた男は、眼鏡を外してからタオルで顔を拭った。


男は、身長173センチの痩せた体型だ。

白い開襟のワイシャツに、紫紺色の学生服ズボンを纏っている。

この制服の色は独特であるが、歴代の先輩たちから受け継がれた誇流べきあおい高等学校生徒である証なのだ。

彼は黒縁の眼鏡で、黒髪を真ん中で分けている冴えない、さほどオシャレでもない風貌であった。

その横で、アイスを頬張っていた小柄な男はしらっとした顔をして無言だった。


「おい、無視かよ」


「うるさいな。本当。かんとくは」


「何?」


「本当のことじゃないか」


「だから、」


「だったら教室の中に入ればいいじゃん。ベランダにいるから暑いんだろう?」


「どこにいたって暑いの!」


文句を言われた黒縁眼鏡の男は、首から下げている厚紙で出来たメガホンを手にして大声で叫び出した。


「暑い〜!あ、つ、い〜!」


すると、後ろの窓が豪快に開いて、丸められた紙でぽんと頭を叩かれた。


「何をする!ひらく!」


「うるさいんだよ!かんとく!こっちが参るだろうが」


振り向いて視線をやると、そこには少し茶色掛った髪の男が眉間にシワを寄せて立っていた。

身長168センチ。

中肉中背で人当たりの良さそうな顔。

切れ長の瞳は猫を彷彿させる。


小針は、先日後輩たちが「拓先輩はクールビューティーだもんな」と噂をしているのを小耳に挟んで妙に納得してしまったことを思い出す。

この部活のメンバーで、他校女子高校生の人気投票ナンバーワンの男、佐野拓だ。


彼はあおい高等学校3年生。

合唱部、いや葱高等学校では合唱部を「音楽部」と呼んでいる。

その音楽部の副部長である。

彼の手には丸められた課題曲集。

現在、音楽部は8月末に開催される地区予選コンクールに向けて目下練習中である。


そして、この馬鹿みたいに騒いでいる男は……。


「部長のクセに、示しがつかないだろう?いい加減に部長としての自覚を持てよ」


そう。

彼は、葱高等学校音楽部代41代目部長の小針結助ゆうすけだ。


みんなに「かんとく」の愛称で呼ばれている。

部長として、50名余りの部員を束ねなくてはいけないため、部長に指名された際、自ら編み出したグッズ、お手製メガホンがトレードマークであるためだ。


だが、そんな時代錯誤の代物なんて誰が受けれ入れるだろうか。

正直、「かんとく」という愛称は、敬意を表するというよりは、ちょっと馬鹿にされていると理解したほうがいいのかも知れないのだが、本人はそこまで気がついてない様子だと、彼の隣でアイスを頬張っている大橋冬和とわは思う。

彼は、三人の中でも一番小柄、身長165センチ。

銀縁の眼鏡をかけており、黒い髪を揺らす。

痩せていて貧相なイメージも与えるが、くるりんとした二重の瞳は、小動物のような愛らしさがみて取れた。


「とわもサボっているな。練習するぞ」


「は〜い。拓ちゃんは厳しいんだもんな〜」


大橋はアイスを頬張ってから、音楽室に戻る。

小針も仕方なしにそれに続いた。

総勢50名の男子高校生の群れは暑苦しい。

なんだか午後の練習が憂鬱に感じられた。



いつもありがとうございます。

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