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雪の序章

 しんしんと雪は降り積もる。都市(ポリス)から離れた森の中、一軒の小さな家で二人は暮らしていた。小窓から漏れる光が夜の闇の中に浮かんだ。


「坊や、雪は降っているの」


 その母の声に、まだ幼く見える少年は、窓から振り返った。


「うん、随分冷えてきたよ。母さまは大丈夫?」


 母親はベッドの上でニッコリと微笑んだ。しかしこの少年の母親という割には、随分と老いているように見えた。顔も手もしわくちゃで、背中も少し曲がっている。


「今は大丈夫。でも準備と心構えだけはしておきなさい。もうすぐ母さまはいなくなるのだから」


 母親の不穏な言葉に、少年は走り寄ると、ベッドに顔を伏せた。


「ねえ母さま、やっぱり都市に行こう。修理してもらおうよ」


 母親は少年の赤い髪をなでると、優しい声で説いた。


「可愛い坊や、よくお聞き。命は修理できないの。年老いて滅び行く、それが命あるものの宿命」


 少年は涙を浮かべて母の顔を振り仰いだ。


「でも母さまがいなくなるのは嫌だよ。僕ひとりじゃ寂しい」


 しかし母親は笑顔で首を振った。


「ひとりにはなりません。坊やのことは、神さまにお願いしてあるから」

「神さまに?」


「ええ、母さまが神さまによくお願いしてあるから、後のことは心配しなくて良いのですよ」


 神さまのことは長い年月――そう、人間の幼年期を何十回も繰り返せるほどの、本当に長い年月――母から繰り返し聞かされてきた。それは子守歌であり、おとぎ話。内容をそらんじることさえできる。だが少年は母に甘えた。この幸せな時間が、もうすぐ終わってしまうのであろうことを予感しながら。


「ねえ母さま。また神さまのお話聞かせて」

「いいですとも、オメガの息子よ。それは優しい神さまの物語。鉄のハートと歌う世界の物語。始まりはそう、ごうごうと吹き付ける酷い吹雪の中……」

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