ノック-3
駅から村までは3時間ほど歩く。
村へ着いた時には空に星が輝いていた。
真っ先に迎えてくれたのはモドガノフの涙だ。
「コロッツィオ!!!よく戻ってきました!!」
「父さん!くるしいよー!」
抱きしめていた腕をほどき、肩に手を置きコロッツィオを突き放す。
「なぜ勝手に飛び出したんです!!!どれだけ心配したかわかっているのですか…私は…私は…」
「ごめんなさい…」
泣き崩れるモドガノフの体をおこす。
そこで初めて帰ってきたのがコロッツィオだけでは無いことに気がつく。
「?この方は誰ですか??」
「この人は旅で出会ったフウゼツ。」
「は…はじめまして…フウゼツ・ミュタです。」
「コロッツィオの父。モドガノフです。」
自然と差し伸べられた手にどうすればいいのか戸惑うフウゼツ。恐る恐る伸ばす手を優しく握るモドガノフ。握る手と手。言葉がなくとも伝わる感情がそこにはあった。
「って!!違うのよ父さん!父さんに聞きたいことがあるの!」
「な!何です突然?」
「とにかく話が長くなるし…みんなに迷惑だから…家で話したいんだけど。」
そこで初めて周りにみんながいることに気がつくモドガノフ。取り乱してしまった事を恥じ、こほんと咳をして、2人を家へ招いた。
「で…話とは何ですか?」
「恵の森へ行きたいの。」
突拍子のない言葉に流石のモドガノフも目が点となってしまい、冷静になるのに少し時間がかかった。
「恵の森へ…?あそこは我らにとって触れることのできない場所…どうしてまたそんなところ?」
「信じてもらえるかわからないんだけど…」
コロッツィオはモドガノフにこれまでの経緯を簡潔にまとめ話した。モドガノフも初めは驚きを隠せなかったが、イザナの話をしたところで顔色が変わった。
「まさかソーサーまで出てくるとは…それは相当な事態ですね…。」
「父さんはソーサー種族の事知ってたの?!」
「ソーサー種族は我々の親族に当たります。…まぁ、この事実を知っているのは部族長だけです。」
「そうだったんだ…」
「大体のことはわかりました。マリーはザルアへもう1つの鍵を探しに行ったんですね。」
「うん。」
暗殺計画がはびこりマリーにとって危険な地であることは流石に伏せた。これ以上は父に心配はかけられないと思ったから。
モドガノフは困り果て、ため息を一つ。
「我らの知らない神話の続きがつづられようとしている今、どうこう言ってられませんね…。わかりました。お前に鍵を渡しましょう。そして恵の地の場所もお前に伝えましょう…」
「父さん!!ありがとう!!」
「まさかお前が神話に巻き込まれるとはね…。」
ポンポンとコロッツィオの頭を叩く。
夜も遅いことから旅立ちは明日になった。
一晩眠りにつき明日への準備をする。
久しぶりの自室にくつろぐ。
ベッドに寝転び天井を眺め、ここ数ヶ月に起こったことがまるで嘘のようだった。
脳裏に浮かぶのは、霜月と弥生との戦い。
霜月のレベルの高い白魔法。
自分よりも歳は幼かった。それなのに繰り出される魔法は一流。高度な魔法もそつなくこなしていた。
思い出しただけでも悔しくて仕方がなかった。
コロッツィオは勢いよくベッドから体を起こし、モドガノフの部屋の扉をノック。
すると優しい父の声が聞こえた。
「入るよ?」
扉を開けるとそこにはモドガノフの書斎が広がっている。机いっぱいに積まれた魔導書。
小さい頃よくマリーとこっそり入ってわけもわからず見ていた。
「どうしました?」
「父さん…私もっと皆を守りたい…」
いつも自信に満ち溢れた娘からの弱気な言葉に驚く。
「どうしたんです?お前らしくない。」
「あたしね、今までこの村で過ごして魔法センス抜群だと思ってた。けど…外の世界に行ってわかったの。ちっぽけだって…」
コロッツィオの瞳は少し潤んでいた。
今まで見たこともない娘。
どれだけ悩み、どれだけ悔しい想いをしたのかモドガノフには理解できた。
「いつものワガママだと思いましたが、今回の行動は正解ですね…成長しましたね。」
嬉しそうに笑う父の顔にとうとう我慢していた涙が流れる。
「皆を守りたい…そうだな。お前は賢い子です。自分の立ち位置や振る舞い方は、もうわかっているのではありませんか?」
コクリとうなづく
「それに私が見る限り、だいぶと使える魔法も増えています。申し分ないじゃないですか。」
「ダメなの!!…これじゃ…こんなんじゃ足りない…」
「…そうなると今持っている魔法の高度化と究極魔法ですかね…」
「究極魔法?!!」
「究極魔法も魔法の高度化もひたすら暗記です。」
「ってことは魔導書読んだらいけるってこと?!暗記は得意!!」
「まぁ高度魔法はそれでいいんですがね…」
困った顔のモドガノフに察する。
究極と言うのだから、そう簡単には目に触れることができないのだろうか…。それとも暗記のレベルが桁外れなのか…。不安だけが頭をめぐる。
「究極魔法の魔導書…ないの?」
「ありますよ。」
即答され驚く。
モドガノフが魔法演唱を始めると、目の前に光の玉が現れ、その中から一冊の本が出てきた。
本はボロボロに擦り切れており、年代を感じる。
そして何よりも分厚い。
「こ…これ?」
「そうですよ。これ一冊に究極魔法群の演唱と印が記されています。私もこの中の1つしか習得できていません。」
「全部で何個あるの??」
「五つです。」
「たった?!え?!五つでこの分厚さ??」
コロッツィオの驚く姿にクスクス笑うモドガノフ。想定していた通りの反応だった。
「そう。けれども究極の名前がつくにふさわしい魔法ばかりが載っています。どうしますか?」
「え?」
「持って行きますか?」
「でも…これ…父さんの…」
「えぇ。わたしもまだこの本を読んでいる途中です。けれどもお前の方がこの本を持つにふさわしい。」
そう言って本を渡される。
「あ…ありがとう…とうさん…」
「けどまずはこっちですよ。これの応用が究極魔法だからね」
そう言ってもう一冊分厚い本を手渡される。
むしろこっちの方が分厚い。
けれども今のコロツィオにとっては燃料投下。
やる気がみなぎるのであった。
そして夜は更け、小鳥がさえずり少し冷たい風が窓からやってくる。
「コロッツィオ!そろそろ起きなさい!!何時だと思っているんですか?!」
久しぶりに聞く父親の大きな声。に懐かしいな…と感じる。
「起きなさい!!!恵の森へ行くのでしょう?!」
驚きでコロッツィオはようやく目を覚ます。
そう。父の声は夢ではない。これは現実なのだ。部屋に入った父は呆れ返っている。
「コロッツィオ…まさかお前はあれからずっと魔導書を読んで居たんですか…?」
自信満々で魔法を一つ覚えたことを報告すると、呆れながらもモドガノフは笑ってくれた。
急いで朝食をとり、恵の森へ出発しようとした時だ。頭にだれかがかたりかけてくる。
『コロッツィオ!コロッツィオ!!』
「な?なにこれ?!」
「どうしました?」
父には聞こえて居ないようだ。フウゼツを見るとコロッツィオと同様に慌てて居た。
「これがイザナさんの言ってた通信ね…フウゼツ。大丈夫?いけるって返事して。」
フウゼツはコクリと頷く。
そしてコロッツィオも心で通信開始の返事を出す
『コロッツィオ?!フウゼツ?聞こえてる??』
声の主はミンキュだった。
そしてその内容は驚きしかなかった。




