北の大地-1
「いってらっしゃい」
コロッツィオ・フウゼツ
マリー・ジョージ・ミンキュ
それぞれの背中を見送り、残ったのはサマーティー・グビド・イザナ・キシュ・アリナだけになってしまった。
一刻を争う事態だというのにゆっくりした時間が流れる。…というのもソーサーの2人は滅法朝に弱いらしく今さっき起きたばかりである。目の見えないソーサーは身支度を整えることができない。昨日までのあの身なりは何処へやら…。メグが2人の身支度を行なっている。
その間居間にはグビドとサマーティーだけとなった。タバコをふかすグビド。
ソファーに座るサマーティー。
長ソファーに眠るキシュ。
サマーティーにとってグビドはふとした時にやってくるワイルドなおじさんだった。
名前は知っていてもあまり会話はしたことがなかった。不意にやってきて父と酒を酌み交わし喋っていることが多かった。見た目が怖くていつもビクビクしていた小さい頃は、顔を見るなり自分の部屋に逃げていた。グビドが帰った後にはお土産が沢山あった。どれもサマーティーの喜ぶものばかりだ。
けれどもある日を境にグビドの顔を見ることはなくなった…。
そう、シャザンヌが死んだと言われたあの日。
「あの…」
サマーティーの小さな声。
グビドはサマーティーに視線を向ける。
「なんだ?」
「なんで俺なんですか…?俺は…」
「お前しかいないんだよ。キシュを助けれるのは…」
少し怒っている。
サマーティーは怖気づく。そんな姿を見てグビドはため息を一つつき、サマーティに近づく。
「!!」
背中に走る突然の痛みにびっくりするサマーティー。
「でかくなったのは外見だけか?!」
びっくりして振り向くと優しくそして悲しげに笑うグビドの顔が見えた。
「お前しかいないんだよ…」
「俺…しか…?」
「そうだ。俺が本当は行きたいところだったが、イザナに止められた。娘が大変だって時に…俺は何もできやしね…」
娘…
サマーティーの胸が疼く。
「あの…キシュって…」
「あいつと俺は確かに血は繋がってねぇが、俺の娘には変わりない。」
強くはっきりとグビドは宣言する。
その姿に尊敬しか持てない。
扉が勢いよく開かれ、疲れ果てたメグと長い身支度を終えたイザナとアリナが2人の前に現れる。
「時間がありません!!早速行きますよ!」
突如と慌ただしい時間が始まる。イザナは部屋へ入ってくるなり魔法を唱え始め、理不尽にグビドをせっつかせる。グビドがキシュを抱きかかえ、イザナと共に魔法で消えた。
そしてアリナとサマーティがその後に続こうとした時、メグがサマーティーのそばへ歩み寄る。
「気をつけて…」
「母さん…」
ぴしゃっと両頬を挟まれる。
「サマーティー…しっかりしなさい。過去にとらわれてはダメ!考えて進みなさい。」
ニコッと笑って、サマーティーの背中を押すメグ。母のその笑顔はとても力強かった。
アリナが手招きする。
伸ばされる手を握りしめる。
強く引っ張られ体が密着する。
「離れないでくださいよ。」
そう言って呪文を演唱し、杖を一振り。
空間が歪む。
目の前が歪む。
それは何とも言えない感覚。吐き気を覚える。
サマーティーはとっさに目を瞑る。
それは一瞬の出来事だった。
「…つ…着きました。」
息切れのアリナの声。
瞳を恐る恐る開けると、辺り一面緑と花に囲まれた広い場所だった。
「こ…これが?これがソーサーの地…」
驚きのあまり、口が開いてしまう。
「あの。離れてもらえますか?」
気がつくと、両手でアリアの左手にしがみついていた。すぐに両手を離す。笑って謝ると、少し呆れた溜息。
するとイザナとグビドがやってきた。
「よく頑張りましたね。」
「人を連れては初めてでしたが、やはり難しかったです…」
「離れ離れにならなかっただけ素晴らしい出来です。」
-ちょっちょ。
その会話を聞いて、身の危険を感じたサマーティー。イザナが城へ案内してくれた。この場所から城までは少し歩く必要があるようだ。
サマーティーは興味津々で辺りを見回す。ここは原っぱで、少し先に家がポツポツあるのが見える。そしてその先には大きな建物。こんな建築今まで見たことがなかった。とても簡素で装飾というものがなかった。だがとても効率的に感じられた。いつもの癖でサマーティーは無意識にカバンからペンとメモを取り出そうとしていた。
「やめろ。」
横を歩くグビドのきつい口調に驚く。
前を歩くイザナの声が続く。
「ごめんなさいね。私達はこの世界から姿を隠し生きているの…」
「…なぜ?」
咄嗟に質問してしまった。
「この土地と神の血を守るためよ…。」
土地と神の血…??
全く理解ができなかった。
「理解できなくて当然ですよ。わかっているのは私達の中でもほんの一握りなのですから…」
そうこうしていると、次第に人のいる地区に近づく。歩いているのは瞳を閉じた人々。そしてメガネをかけたルラ。人々は少し戸惑いながら一礼をしている。チラチラ見られてる気がして居心地が悪い。
するとイザナはクスクス笑って謝った。
それもそうだろう。閉鎖した場所なのだから物珍しいのだろう。
少し歩いたところに一つの小屋らしき場所にたどり着いた。そこには2人のルラ。
イザナを見つけると同時に、2人同時に規則正しく、ひざまつく。
「お待ちしていました。」
「ありがとう。」
そう言って、イザナは小屋の中へと入っていく。人が10人ほど入れる広さの小屋には何もなかった。地面に魔法陣が描かれているだけ。
みんなが魔法陣の上に立つので、サマーティーも魔法陣の上に進む。全員が魔法陣の中にいることを確認し、アリアが呪文を唱える。
空間は歪むもそれは一瞬の出来事。
気がつけば、目の前には王座。そこにはイースとよく似た男性とストレートロングのルラ。そしてイースが立っていた。
「母上おかえりなさいませ。」
「ただいま。…それよりもわかっていますね?」
「はい。全てはイースから聞いています。」
「命の時は待ってはくれません。今すぐに神殿に向かいます。」
「わかっております。イコワ様には待っていてもらっています。」
「今言おうとしていました。イトワありがとう。」
「いえ。」
「あと。これも頼めますか?」
イトワの横にいたルラがイザナの元へ向かい、通信機を受け取る。
「通信ですか?これは?」
「ええ。そう。これの制御を頼みたいのだけど大丈夫かしら?」
「はい。…しかし誰の…」
「説明すれば長くなります。」
「それでは、儀式が終わってから聞くことにいたします。」
「悪いわね。助かるわ。」
「いえ。」
そうして一向は神殿へと向かう。




