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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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彼女の目的-3


がらんと広い広間。

時を刻む針の音だけが響く。

用意してもらったお茶はすっかり冷たくなっているのに含むと広がる花の香り。


疲れていた。


体力的にも精神的にも。

皆、何も考えたくない気持ちだった。


2階から扉が開く音が聴こえて、ジョージは座っていたソファーから立ち上がり階段に向かった。

イザナとグビドが階段から降りてきている。


「ん?お前は…」

「キシュは?」

「大丈夫だ…今は寝ている。」


グビドの答えにみんなが安堵する。


「あ…あの…これからの事を」


おどおどとフウゼツが切り出す。

小さな声は、隣にいたマリーにしか聞こえなかった様子。


「はいは〜い。フウゼツ君が話の〜続きしよ〜だって〜」

「あ…ありがとうございます」


辺りを見回し、サマーティーがいないことに気がつくコロッツィオ。


「サマーティー呼んでくるわ」

「俺が行く。」


席を立とうとするコロッツィオを止め、階段の近くにいたジョージはそのままサマーティーの部屋へと向かった。


ジョージの声はいつもよりきついとコロッツィオには感じ取れた。けれどもサマーティーに対する気持ちは皆同じなのかもしれない。けれどもサマーティーにも事情がある…それを許せるか許せないか…

きっとジョージは許せない方なのだろう。


サマーティーの部屋の扉をノックする。

するとすぐに扉が開かれた。

いつも崩さないセットされた髪はぐちゃぐちゃ。笑顔の消え、赤く腫れた瞳のサマーティーが出てきた。

それでも言わずにはいれなかった。


「ちょっといいか?」


サマーティーはうつむき何も答えない。

ジョージはうつむくサマーティーに向かい冷静を装い尋ねる。


「お前何やってんだよ?キシュのこと遊びだったのか?」

「…違う…」


その答えに苛立ちが抑えられなかった。

いや…どんな言葉が帰ってこようとも結果は同じだっただろう。思わずジョージはサマーティーの首根っこを掴む。

大声で罵りたい気持ちだけは抑える。

これが今できる精一杯だった。


「違うって…ふざけてんのか?!違うかったらあの女のこと庇うと…」

「わかんねーんだよ」


小さく低い声が弱々しく響く。


「俺だってわかんねーんだよ…気持ちがまだ整理できてねーんだ…」


ここまでに情けないヒトの姿をジョージは見たことがなかった。同情すら湧いてきそうになる。


けれども頭によぎるぼろぼろのキシュの姿。

そしてその場のサマーティー。

キシュよりもあの女なのか…と落胆した自分。


あの時の気持ちは同情を一瞬にして消しさる。

そして訪れるのは悔しさと後悔。


「甘えんな…」

「…俺の気持ちはどうなんだよ…」


握っていた手を離しジョージは階段へ向かう。


「今後のこと話すから降りてこい。」


情けない気持ちでいっぱいになった。

ジョージの気持ちを考えれば考えるほど酷い事をしている自分が見えてしまい逃げ出したくなる。

けれども現実はジョージの言う通り甘いものではない。どうすることもなくジョージの後を追いサマーティーは階段へと向かう。




「きたきた〜。それじゃフウゼツ君よろしく〜」

「あ…僕って…わけじゃ…」


そのオドオドした態度にイライラするコロッツィオ


「あんた何なのよ?サッサッとしないとまずいんでしょ?」


きつい物言いに怯えるフウゼツ。


「…それでは…」


そう言うと瞳を閉じ、すぐにひらける

ヒトが変わったようにオドオドした態度が消え、祠の時のようにテキパキと話し始めた。


「では、今後のことを決めよう。その前に君」


フウゼツはちらりとコロッツィオを見る


「な…何よ?」

「君はエンテの眠る場所を知っていると言っていたが本当か?」

「…エンテが眠ってるかどうかは知らないけど、恵の森は膨大な魔力が湧き出る神聖な場所よ」

「そうか…。それでどこに?」

「南よ。オーランソ大陸の南。具体的な場所は私は知らない。」


みんなの残念そうな雰囲気が流れる。


「…父さんなら知ってるはず。」

「それなら、鍵も手に入って好都合だ。」


「あの…」


申し訳なさそうにマリーの声が挟まれる。

みんながマリーに視線を送る。


「あたし、このままザルアに行こうと思うの…鍵の片っぽはザルアにあるんでしょ?それに…」

「わかってる!姉さんの両親探しもできるんだもん…」

「もちろん鍵が第一優先だよぉ!鍵が見つかったらすぐ向かうから〜!」


「そうなると、二手に別れる必要がある」


フウゼツの提案にすぐグビドが意を唱える。


「悪い。俺とイザナそしてサマーティーは別行動だ。キシュを叩き起こす。」


まさかの発言でびっくりするサマーティー。

思わず声が漏れてしまった。その声にグビドの冷たい視線が帰ってくる。


「お前しかいないんだとよ」


「彼女の精神を現実に戻すことに何のメリットが?

今はとにかくエンテ探しを最優先したいのだが…」


フウゼツの冷たい問いかけはその場に居た皆を唖然とさせた。しかしフウゼツの問いは至極当然だ。彼の目的はシャザンヌ。いやアベドの行動を止めること。

決してキシュを助けるためではない。


「彼女がシャザンヌ…いえアベドを止める鍵だからよ。」


ピクリとフウゼツの眉が動く


「彼女が?アベドを倒す??」

「えぇ。そう。この子は今のシャザンヌを封印した張本人よ…」


全く相手にしなかったフウゼツもその言葉には反応をした。


「…信じられない…」

「けれども現実よ…この子の力は未知数。」


「…なるほど確かにメリットの方が大きそうだ…そうなると、エンテ探しに人数が限られるな…」

「ひとまず、私とねぇさんは別行動することになるよね…」


「私とジョージがマリーさんについて言ってもいい?!」


突然のミンキュの申し出に一同ビックリ。


「ど…どうした?ミンキュ??」


思い悩むミンキュは言っていいのかどうか悩んでいる。そんなミンキュをみてマリーは優しく話すよう促した。


「ポリアンは危険すぎる…。実はポリアンはマリーさんの暗殺依頼を暗部にしてきたの…」

「え…?」


それはポリアン王家がマリーを殺そうとしていることだった。マリーの頭は真っ黒に色づく。


自分を殺すように指示があった事実。

ただそれだけが頭にこびりついた。


殺される存在

それは忌むべき存在ということ…

なぜ自分がそこまで拒まれているのか理解できなかった。悲しみと同時に知りたい気持ちが強まる。



「そんな事情があるなら攻撃の手は激しくなりそうだ…そうなるとこの子には私がつこう。」


フウゼツはコロッツィオと向かうことを承諾してくれた。


「それでは決まりだな。それぞれ別れて行動しよう…。」

「けど…どうやって連絡を取り合うつもりなの? 公式の電波や魔導波はレルエナが傍受して…」

「これをお使いなさい。」


イザナの手のひらには小さな透明なクリスタルが埋め込まれたピアスが沢山あった。


「私達ソーサーであなた達の意識伝達を助けます。強く念じることで会話ができます。」


そう言って一人一人に手渡される。

ピアスなので、耳に穴を開ける必要がある。ほとんど穴が空いていないのでメグとコロッツィオが穴を開けることに。

準備が整ったのはいいがもう夜中。

そしてみんなは疲弊しきっていた。

今夜は休み明日旅立つこととなった。

みんながそれぞれその場から立ち去り、最後にイザナとグビドがその場を去ろうとした時



「…すみませんグビド殿。」


聞き覚えのない声が自分を呼び止めたことに驚くグビド。振り向くとそこにいたのはジョージ。


「グビド殿。私はドラグーン帝国のジョージ・ロロスティア・エルナドールと申します。率直に申し上げる。弟を救う術を教えてください。」


ジョージは深々と頭を下げ続けるがいきなりの申し出に何が何だか訳がわからないグビド。


「エルナドール?お前、エレファの親戚か?」

「…はい。王は私の大叔父にあたります。」


困った表情のグビドは顎髭をいじる。


「…とにかく顔を上げろ。弟を救うってなんだ?」


「私の弟は何者かに操られた後、精神深部に傷をつけられ意識が戻らないままです…」

「精神深部?」


その言葉には隣にいたイザナも反応する。


「…シャザンヌの仕業ね…」

「助けることは…できるのですか?グビド殿」


強い眼差しにグビドは困り果てる。


「俺はどうにもできねーよ」


その言葉は今までの希望を打ち砕く

グッと強く唇を噛み締め、眉間のシワはいつもより強く浮き出ている。


「…俺にはな。こいつがどうにかしてくれるだろ。」


そう言って、後ろにいるイザナに親指で指差す


「どうにかしてくれるだろって…あなたね…。」


呆れてため息を漏らしながら、ジョージの前に出てくるイザナ。


「精神深部の傷を癒すことはできるわ。けれども私たちがあなた達の住むところへ出向くことはできない…。」

「それは…私達が出向くということでしょうか?」

「えぇ。そうなります。」


ジョージは焦りが出てきた。

今この状況ではすぐに行動ができない。

ポリアンでの行動がすぐ終わる保証もない。

自分の想像通りに事は運ばない…

自分たちがポリアンへ行っている間にどうにかしてもらおうと考えていた。

ジョージの焦りに答えるようにイザナが言う。


「精神の深部への攻撃を受けて、生きているのなら安心しなさい。これ以上悪化する事はないはずよ。」

「それは…どう言うことです?」

「ゆっくりではあるけど回復しているはずです。ただそのスピードが遅いだけ。だから、安心してポリアンへ行けるはずよ。」


その言葉は安心をもたらしてくれた。


死なない


その一言がどれほどの救いをジョージにもたらしたかは計り知れない。ジョージの瞳は涙で潤む。


「ありがとうございます。」


「よかったな。」


優しく微笑むグビドは先程のサマーティーに対する態度からは考えられないほど人当たりがよく頼り甲斐のあった。ジョージは喉につっかえていた疑問を素直に聞いた。


なぜキシュを助けるのにサマーティーなのか


突然の質問を立て続けに投げかけられて流石にグビドも笑った。


「サマーティーとキシュ…そしてシャザン。あの3人は幼馴染なんだ…そして複雑な関係が築かれている。キシュの逃避に向き合えるのはあいつしかできないんだよ…」


その答えに自分が入る隙もないこと納得せざるを得なかった。グビドは、また笑った。


「ありがとうなキシュを大事に想ってくれて」


大きなてが頭を撫でる。

柄にもない事をされて驚くがなぜか拒む気にはならなかった。


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