〓ここはどこ?〓
− ここはどこ?
ふわふわと浮遊する丸めた体
虚ろな気分。けれども暖かい。どれだけの時間このやり取りをくりかえしたのかわからないほどにキシュは考えるのをやめていた。
今いる場所はまるで水の中。
ただただ静かで暖かい。ちらつく光が眩しくて疎ましかった。
奥へ
さらに奥へ
下があるならあるだけ下へと向かった。
気がつくとキシュは立ち上がっていることに気がついた。
− いつ立ち上がったの?
瞳を開けると見知った場所が広がっている。
いつも夢に出てくる森。ほんの少しの月明かり
嫌な気持ちになった。
ここはいつも恐怖に怯えて逃げなくてはいけないから。
− ほら
− 来た
あたりが暗闇に塗り替えられる。
その瞬間、鋭い牙が体のあちこちに食い込み、弾け飛ぶ血しぶき。持ち上げられた体。
けれども不思議と痛みはない。
飛び散った血は気がつけばきらめく星屑に。
鋭い牙はボロボロと崩れ、空へ
− あれは私
− 私の過去
− 過去の恐怖
− 思い出したの。もう全部。だから怖くない。
体を持ち上げていた牙が全て消えキシュはゆっくりと落下し、暗闇の中へと落ちていった。
− 私、あの時悔しかったの、どうしてサマーティーが振り向いてくれなかったのか。なんで姉さんだけなの?姉さんのことが嫌いだった。丈夫な体。全てが美しく、太陽のように暖かい心。全てが疎ましかった。
− だから私死のうと思ったんだ…。禁じられた祠へ行けばたくさんの魔物がいるっていってたから。だから行った。そしたら殺されるから。
− けれど違った。
あたりが眩しいのが瞳を閉じていてもわかる。
静かに瞳を開けるとたくさんの明かりが輝く街中。
沢山の人で騒がしい。
楽しく笑う人たち、酒を酌み交わす。
キシュは1人、あたりを眺めながら街を徘徊する。
孤独
− いつだってそうだった。
− 何をしても虚無だった。
− 鍛えた力を使って父さんの仕事を手伝う。けれどもそこに何か意味があった?
− なかった
− 得るものは?
− 何もなかった。
− 言われたことをただやっていただけ。
− 周りで起こることが全てブラウン管を通して写っているようだった。そこに私はいない。
ふと目を向けた先の店先にあるテレビ。
そこに流れていた映像をキシュは釘いるように見つめる。
楽しそうに笑うサマーティー。
楽しそうに笑うマリーにコロッツィオにジョージそしてミンキュ。
− けど変わったんだ。
目の奥が急に熱くなり、溢れる涙。
− 変わったの。孤独が消えたの。
− 私がいたのそこに。私が!
「けれどもお前は虚像だ」
ざわめきの中はっきりと聞こえた。
振り向いた先にいるのはシャザンヌ
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
腰に力が入らない。
その場で崩れる。頭を抱え、シャザンヌを見えないように地面に頭をつける。
「偽りの虚像。誰もお前のことは知らない。マリアンヌ。お前は誰からも愛されない。孤独の中で暮らすのよ。」
耳を塞いでも、どれだけ大きな声で叫んでも聞こえてくる声。
− やめて!やめて!!!
高らかに美しい笑い声は心をズタズタに切り刻む。
− 痛い!痛い!!
揺れ動く地面に飲み込まれて行く。
− 助けて…だれか…助けて




