〓まほうつかい2〓
1時間はゆうにすぎただろう。
コロッツィオは自分の予測よりもはるかに遅いマリーを少し心配して、木の陰からマリーのいる方へ目をやった。すると小さな声が聞こえ出した。マリーだ。
だんだんと近づいてくるその姿。いい距離に近づいたのを確認してわざと草を揺らした。
「コロッツィオ??」
マリーはその音めがけてかけてくる。
それを確認してコロッツィオは移動する。
近づいてくるマリーは高い木の前で立ち止まっている。
「コロッツィオー!!どこ〜??も〜こうさんだよ〜〜!」
コロッツィオはなかなか結界の外に出ないマリーに苛立ちを覚えた。草むらにわざと見つかるようにして動いた。
「そこ…なの??」
マリーはおどおどしながら結界の外に出ることに戸惑って少し考えて一歩踏み出た。
「コロッツィオ〜〜?出てきてよ〜〜!」
マリーは音のする草むらの方に近づく。コロッツィオは草むらからそっと抜け出した。ここでマリーが恐怖で泣き出せば作戦は大成功。けれども聞こえたのは鳴き声ではなく叫び声。
コロッツィオは驚いてマリーの方へ振り向くと自分たちと同じ背丈の狼のような獣が近づいていた。
はじめて見る獣にコロッツィオは足が動かなかった。
− 怖い…どうしよう。どうしよう。
マリーを助けることができない。魔法は使えると行っても回復魔法だけでまだ防御魔法は勉強中だ。
どうしようどうしようが頭を渦巻くただ涙を浮かべて見ることしかできないなんて…
その瞬間炎が現れた。狼の尻尾を燃やす。
驚いた狼は情けない鳴き声でその場から去って行った。
何が起きたのかコロッツィオには理解できなかった。
何もないところから炎が現れた。それは攻撃魔法の発動のほかなかった。
− 誰が?
コロッツィオは見ていた。それがマリーから発動されていたことを。あまりにも予想外の出来事にコロッツィオは恐怖し、声が出てしまった。
その声はマリーを驚かすには十分の大きさだった。
「コロッツィオ…?」
マリーが近づいてくる。怖い。
攻撃魔法を使えて回復魔法が使えない種族。
それは自分たちが最も恐れている悪い奴ら。
ザルアだ。
得体の知れない恐怖がコロッツィオを襲った。
「こ…で」
「え?」
「来ないで!!あっち行け!!」
とっさに出た言葉。マリーの悲しそうな顔が映った。けれども悪魔なんだ。ザルアはソリティアを殺す悪魔。そう教えられた。
近づこうとするマリーの手はピタリと止まり、コロッツィオは後ずさりする。
頭上から葉っぱがひらりと落ちてきて勢いよく鋭いなにかが頬をかすめた。
驚いて手を当てると血が出ていた。幸い軽いものだったがはじめての痛みに耐えられなかった。
「コロッツィオ〜〜!!避けてぇ〜!!!」
マリーの大きな声にただ従った。体を完全に地につけ、コロコロと動かした。
頭上に炎と鳥の鳴き声が響いたかと思えば黒焦げ一歩手前の怪鳥が落ちてきた。マリーは息を切らしてとうとう腰を落としてしまった。
さっきまでの怖い感情なんか忘れて急いでマリーの元へ駆け寄る。
「姉さん!」
「ほっぺぇ……大丈夫ぅ?いたく…な〜い?」
「全然平気だよ!それより姉さんの方が大丈夫?!」
「へい…き…だよぉ。ちょっと…つかれたぁだけぇ…」
2人はひとまず結界の中へ戻った。一歩踏み入れただけなのにここまで違うものなのかとコロッツィオは驚いた。そしていかに自分の悪巧みが駄目なものか痛感した。そう思ったらポロポロ涙が出てくる。
疲れたマリーは驚いてどうしたのか尋ねてきたがひたすらごめんなさいとしか言えなかった。
コロッツィオが泣き止んで落ち着いた頃にはマリーの疲れも少しは癒えていた。はじめに口を開いたのはマリーだった。
「ごめんねぇ。びっくりしたよね?」
「…うん…」
「あたしねぇ…みんなとちょっと違うんだって…」
「…うん…」
「ざるあ?ってお父さんが言ってたんだぁ。…ざるあって…」
マリーの言葉が詰まった。
ふと目をやると真っ赤な顔でたくさんの涙がポロポロこぼれていた。
「あたじぃ…みんなをたべ…ぢゃう…あ…あぐま…なんだ…っで…」
その言葉。その涙。
どれだけの時間マリーは自分を追い詰め苦しんでいたのかコロッツィオには見当もつかなかった。それなのに自分はマリーの心をえぐる言葉を投げつけた。
罪悪感が襲う。
「…まじゃない。」
「でぇざんはあぐまじゃない!!!!」
「ぞ…ぞれなの…ぞれなのに…あっ…あだじぃ…」
声が突っかかる。でも言い切りたい。
鼻水が邪魔で何度も鼻をすする。
目の前が霞む。ちゃんとマリーの顔が見たかったから何度も目を拭う。
「ごべぇんなさい!!ごっ…ごめんなさい!!」
はじめこそキョトンとしていたまりーだが、コロッツィオのごめんなさいが暖かくとても嬉しくて、また大泣きをしていた。
2人ともお互いの肩を抱き寄せ大泣きした。
そのあと2人で手を繋いで家へ戻った。
家へ着くとにっこりと笑った父が出迎えてくれた。
そして説教の嵐。
父はコロッツィオが結界の外へ出てすぐに駆けつけたよう。その頃にはマリーが魔法を出して魔物と戦っていたらしい。それから色々と教えてくれた。
実はマリーとコロッツィオは血が繋がっていないこと。マリーは夜な夜な父と一緒に魔法の基礎を学んでいたこと。マリーはみんなの前で魔法は決して使ってはいけない約束をしていること。
「本当はお前がもう少し大きくなってから話すつもりだったんですよ。」
父の呆れた声にしょぼくれるコロッツィオ。
「けれどもコロッツィオもすっかり成長していますね。今回の件は私も悪かったね。」
父の顔を見るとにっこり笑って手を広げていた。
コロッツィオはわーんと泣きながら父の腕に飛び込んだ。マリーもコロッツィオに抱きつく。
それからコロッツィオは回復魔法の勉強の傍攻撃魔法についても勉強をしていった。そこでだんだんとマリーの凄さを理解していった。
当時5歳のマリーは炎の攻撃魔法で怪鳥を退治した。
それはものすごいことだった。
コロッツィオ同様いやそれ以上の実力を有することを示していた。
− 姉さんはあぁ見えて努力家だからな…
− …それもだけど人1番守りたい気持ちが強いのかも…
コロッツィオは、マリーの顔をまた見つめる。
「いつもありがとう。」
マリーとコロッツィオの昔話。




