〓まほうつかい1〓
気がついたら知らない天井。
とてもふかふかで気持ちいい布団の中でコロッツィオは目が覚めた。
− なにがあったっけ…
頭の中で映像が流れる。
墓地を通ったこと、渓谷に抜けれたこと。現れた敵
− あ。そうだった…
嫌な気持ちでぼんやりとした頭が切り替わる。
自分の非力を見せつけられ、悔しい気持ちがぶり返した。ふと横に目をやると静かに眠るマリーの姿が見えた。
− 姉さん…
マリーの時空魔法。
時空魔法はそう簡単に出せる代物でないことをコロッツィオは知っていた。村の中でも時空魔法を扱えるのはほんの一握り。特に長けていたのは亡くなった母だったと聞いていた。コロッツィオはまだ時空魔法を使えない。時空魔法は努力とかそんなもので使える魔法ではない。扱える血が必要なのだ。
父も母も扱えたのでいずれ自分にも扱えるとは思っていたが、まだ使えない。けれど姉さんは…
容易に使えた
− それもそっか…
13年前…。コロッツィオは記憶を遡る。
「コロッツィオ〜〜!待って〜!」
半ベソかいて私を必死に追いかける幼いマリー
みんなと違う瞳に髪。魔法だって使えない。そんなマリーのことをコロッツィオは忌み嫌っていた。
「ついてこないで!」
「そんな〜!やぁだぁ〜!!」
「知らないっ!」
駆けていくコロッツィオ。
とうとう大泣きしてしまうマリー。
そんなこと御構い無しで、コロッツィオは森の中へ本を抱えて行ってしまった。
マリーが居てると魔法の勉強ができない。
いつも邪魔ばかりするのだ。
少ししてコロッツィオは振り向いて、誰も居ないことを確認した。木の下に座り込み持ってきた本を開く。
本はたくさんのことを教えてくれる。魔法の仕組み、使い方。本を読み、印と演唱文を暗記する。
暗記は簡単。
すぐに覚えたての魔法を演唱してみる。
もちろん結果は大成功。コロッツィオは達成感を感じ得意げになった。
5歳にして初級魔法は全てマスターしていた。
普通の子なら5年以上かけるところコロッツィオは1年で、魔法の基礎から演唱までやり遂げていた。
自分は村長の娘なのだから当然!
コロッツィオはそう思っていた。けれども…マリーは違った。同じ時期に魔法について勉強を開始したのに全然できない。同じように演唱しているのに魔法は成功しない。なんでこんな簡単なことができないんだろうか?と不思議でならなかった。初めは同情したものの数ヶ月経つと苛立ちへと変わっていった。
村長の娘なのに…
魔法が使えないのにいつもヘラヘラ笑ってる。
いつのまにか日は西に沈み空はオレンジに染まっていた。急いで家へ戻る。
迎えたのは困った顔の父。
「コロッツィオ…。またマリーを置いてけぼりにしましたね。」
「だって姉さんが一緒だと勉強できないんだもん!」
「勉強って…あなたは一日中ずっと勉強してるじゃないか…たまにはマリーと遊びなさい。遊ぶのも勉強の1つですよ。」
「…はい…」
全然納得できない消え入りそうな返事。
− 遊ぶことが学びの1つってどういうこと?
お手伝いさんの作った食事が食卓に運ばれる。
美味しそうな匂いにつられてマリーがやってくる。
無邪気に笑うマリーと目が合う。嬉しそうに笑ってコロッツィオの側に駆け寄り、両方の手を握る。
「コロッツィオ〜!お帰り〜〜!明日は一緒に遊ぼうね!!」
怒られたの聞こえてたはずなのに、何食わぬ顔で笑うマリーが疎ましい。けれども父の視線がある。
「…わかった…」
マリーは大喜び。その反面コロッツィオは口を尖らせ、視線をマリーからズラしている。
食事も早々に終わらせ、お風呂に先に入って自分の部屋に駆け込んだ。
食べるのが遅いマリーは当分帰ってこない。
− 父さんは姉さんばっかり甘やかしてる…なんで?ずるい…
うつ伏せでベッドにダイブして、バタバタと体を動かす。こんなことをするしか自分の気持ちを発散する方法がなかった。気がついたら眠っていた。
喉が渇いて目が覚めた時はいつのまにか明かりは消え、周りは真っ暗で静かだった。隣にいるはずのマリーがいなかった。
いつもと違う事態に急に不安になった。
コロッツィオは台所の前に父の部屋へ向かった。
暗く長い廊下。
夜中に歩くことなんてないから怖かった。
鳥の鳴き声にびっくりした。
父の部屋には明かりが灯っている。
扉に近づくとマリーの声が聞こえた。
ノックをしようとした手がピタリと止まった。
耳をそっと扉に当てる。
「明るきほ…き…き…ず。そ…風。しの…だい…。その強き…よ。我に…つ…さを与えたまえ〜!」
ところどころ聞こえる声。それが魔法演唱であることはなんとなくわかったが、自分の知らないフレーズだった。けれども声の主がマリーであることはすぐにわかった。高らかに楽しそうに唱えている。コロッツィオの知らないマリーがそこにいるのだと思ったら少し嫌な気持ちになった。
− 姉さんだけ特別授業…ずるい…
扉は開けず、そのまま自分の部屋へと戻る。その足取りは重かった。変な気持ちが渦巻く。布団に入っても眠れずにいた。結局朝が開ける少し前に睡魔が襲いかかりぐっすり眠ったがマリーとの約束のせいで早くに起こされてしまった。
開かない瞳のまま食卓に座り、たっぷりの木苺のジャムがついた白パンを頬張る。
いつも通りのコロッツィオ。
楽しみが溢れ出てソワソワするマリー。
横目で見ていてイライラが酷くなった。
痛い目に合わせてやりたい気持ちでいっぱいになる。
それがダメなことだなんて微塵も感じてはいなかった。コロッツィオはどうすればマリーに意地悪できるかずっと考えていた。
「あまり遠くへ行ってはいけませんよ。」
「はーい」「は〜い!!」
父の言葉でコロッツィオは思いついた。
− 結界の外に出て怖い思いをすればいいんだ!
その思いつきを早く実行したくてコロッツィオもマリー同様ワクワクし出した。
「何で遊ぶ〜??」
「かくれんぼしよ!あたし隠れるから姉さんが探して!あそこの高い木までだよ!」
「わかった〜!!じゃぁ数えるね!」
何も知らないマリー。
10までゆっくりと数える。
コロッツィオは思いっきり走る。すぐにマリーの声は聞こえなくなる。走って走って結界の端っこにあたる高い木までたどり着く。父との約束を破ることに少しドキドキしながら一歩踏み出し結界の外へ。
はじめての外の世界は中の世界と何にも変わらない。
コロッツィオはすぐに戻れるように高い木の裏に隠れた。きっとマリーのことだここまでたどり着くのに時間はかなりかかるだろう。それに絶対に近づけば声で分かりそうだ。そう思って、こっそりと持ってきた魔法書の切れ端をポケットから取り出して勉強を始めた。
「…きゅ〜〜う。じゅ〜〜〜!!も〜い〜〜か〜〜い???」
返事はなかった。マリーはやるに満々でコロッツィオを探し出す。木の陰。草むらの中。朽ちた大きな木の中。どこを探してもコロッツィオは見つからない。
「どこに隠れたんだろぉ…」
ふとマリーの目には高い木が見えた。
「あそこまでだよねぇ…まずあそこに行ってみようかな…」
マリーは一生懸命探しながら高い木を目指す。
その道のりは長く、そして怖かった。けれどもこれは久しぶりのコロッツィオとのお遊び。
そう思うだけで怖い思いは薄れて行った。




