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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
81/164

針は動く-2


皇子の声が聞こえた。


ミンキュの動きが止まる。

皇子の落胆した顔が浮かぶ。それだけで足が、体が動かない。


ー何が助けになるかもだ…


ミンキュにとってはキシュたちを助けるよりも皇子の事が大事だった。見つからないよう扉の横へ横へと身を隠す。


突然の来訪者に驚くも、それを好機と捉えるシュアトル。ミンキュとコンタクトを取れるかもしれない。

こんなところに足を運ぶ者たちなのだから、例の怪しい一向であることに違いないと確信していたのだ。


シュアトルが戦闘体制に入ろうとした。


「ほっておきなさい。」


その一声はその場にいた3人の行動を止めた。

恐怖・困惑が彼らを止める。



心が混乱した。

その声は聞き覚えのある声だ。

サマーティーの頭は混乱する。


怒り、当惑、懐かしさ、愛おしさ…


全ての感情が渦巻いた。

視線を声の先へと向けた途端、怒りの感情がひいた。


「…な…んで?どう…なってんだ??」



恐怖心が全てを包む。

立っていられない。

この時初めてわかった。

キシュがいつも夢で逃げていた恐怖の存在を。


「キシュ!!キシュ!!!大丈夫??」


マリーが駆け出してキシュの肩をだいた。

第二皇子の元へ向かうシャザンヌはキシュ達を無視して話し続ける。


「もうここにようはないのよ。皇子いきましょう。」


その手には炎の宝珠がしっかり握られていた。


「シャザンヌ!!!」


サマーティーは咄嗟に叫んでいた。


シャザンヌが立ち止まり、サマーティーを不思議そうに見つめる。


「?お前は何者だ?なぜ私の名を知っている?」



ーシャザンヌ?


…恐怖の中、頭が割れそうに痛んだ。


「俺だよ!!サマーティーだ!!忘れたのか?!昔一緒に遊んでた!!!」

「サマーティー……サマーティー…」


シャザンヌは何度も名前を口ずさみ、そして何かを思い出したように軽快に呟いた。


「あぁ。ゼルベルダの息子か。」

「シャザンヌ!!なんで?!死んだっ…

「そうか。お前たちが今までちょこまかと動いていたのか。」


サマーティーを無視するシャザンヌ。

その顔には笑みが浮かんでいた。

そして両の手に炎が揺らめく。


「あぶ…ない!」


サマーティーが炎に包まれる前にイザナの防御魔法が放たれた。


「?!い!イザナさん!!」

「まだ生きてるのね!!早く治癒しないと!!」


イザナの元へコロッツィオの足が向かおうとしたその瞬間、炎が襲う。魔法の耐性は強いはずのコロッツィオでもかなりの痛みを伴った。


「コロッツィオ!!」


皮膚が焼け、その場にうずくまるコロッツィオの元に

ジョージが駆け寄り回復剤をふりかける。


混沌とする中、甲高い笑い声は響く。


「お前たちのおかげで、どれだけ私が不快になった事か…はは…はぁ…殺しておこう。」


シャザンヌは右手を左に引く。

その手には大きな炎。


ーだめ!!


強い気持ちがキシュを突き動かした。

恐怖を投げ払い、シャザンヌに向っていった。

そんなのにお構いなしにシャザンヌの右手の炎は放たれ、炎は無数の玉に変わりキシュに直撃した。


「キシュ!!!!」


イースがくれたお守りがキシュを守ってくれたおかげで傷は深くなかった。


「私の炎を直撃したのに立つの…。面白い」


シャザンヌはキシュにターゲットを絞り攻撃を始めた。その間にコロツィオはイザナの方へ這い寄る。

シャザンヌは別のものに集中していた。シュアトルは

交戦のチャンスとしてジョージとマリーとの戦いを始める。腰に持っていた銃を取り構える。


「ここは通さないんだから〜!!」




シャザンヌの炎を素早く交わし、ダガーを抜こうとするキシュ。


「キシュ!!やめてくれ!!」


サマーティーが叫んだ。

それは他のみんなを驚かす。


「なんで?!!!」

「やめてくれ!!彼女は…彼女は殺さないでくれ!!」

「なにいってんの?!!!正気?!!」



一瞬の隙。


焼けるような痛みが体に走る。

剣がキシュの左足を裂き、あたり一面に血を撒き散らしていた。


「キシュ!!!!!」


流れ出る血が止まらない。

キシュはその場に崩れた。


ー俺は…俺はどうしたらいいんだ?!!


「本当…おふざけがすぎるわ…。お仕置きが必要ね」


シャザンヌがキシュを見下して、剣を振りかざす。


キシュにとってそんな状況はどうでもよかった。

ただただシャザンヌの言葉が頭を駆け巡っている。


聞き覚えのあるセリフ。

聞き覚えのあるその声。


『本当…おふざけがすぎるわ…。お仕置きが必要ね』



何かが割れる音がした。

音はどんどん連鎖し、破裂する。


大量の記憶の波が襲う。


楽しく笑う声。

柔らかな日差し、そよぐ草木。


目の前に飛び込む映像は今まで忘れていた幼い頃の記憶。


無邪気に草原をかける…

それを追いかける人…大好きな人。

とても大切に暖かく見守ってくれる姉さん…

そしてもう1人、こっそり思いを持った人がいた…。けれど叶わないことは知っていた。だってその人の好きな人は…そう…大好きな私の姉さん。


霞で隠れていた姉さんの顔が今は見える。

見えるのだ…それはキシュにとってとても辛い記憶。

姉は紛れもなく今戦っている人…シャザンなのだから…。


胸が苦しくなる。


記憶の波はキシュを待ってはくれない。

どんどん…どんどんと襲いかかってくる。


大切な父…今まで育ててくれた人とは違う…

なんで?なんで私は今まで本当の父親を忘れていたの?

背が高い、白銀の緩やかなカーブする髪。眼鏡の奥から覗くその優しい瞳。大好きだった。私の大好きな父さま。


父さまは優しく私の名前を呼んでくれていた。


「マリアンヌ」


記憶は流れる


「待って!待って!マリアンヌ!」


心配そうな姉さんの声が疎ましかった…

私の好きな人が姉さんを好きだったから…

サマーティー君が姉さんにこっそりプレゼントを渡したのを見たから…私そうだ、怒ってプレゼントを取ろうとしたんだ…その時、サマーティー君に怒られて…悲しくて…悲しくって…その場から消えたくて走ってた…

ちょうど洞窟があったからそこに隠れようとしたんだ…


決して入ってはいけないよと父さまに言われてた祠に…奥へ奥へと進んだ…



ノイズがちらつく。

記憶が途中で切れた。



そう。覚えていない。

それから何があったのか全くわからない…


その次の記憶は…


いやだ


いやだいやだいやだ。

思い出したくない。見たくない。


けれども誰も止めてはくれない。

暗闇は月の薄明かりで照らされた部屋。

ここは二階にある私の部屋。


大きな物音下から聞こえる。

ー降りたくない…

階段をそっと降りる。

水?何かぬるいものを踏んだ。なんだろう?そっと腰をかがめて足元を探った

ー探らないで…

血だ…それも辺り一面

血は玄関の方に続いている。気になって…玄関へ向かった

ーだめ…行っちゃだめ…


その先にいたのは大好きな姉さんと父さま

大好きな姉さんと血だらけになり、うづくまる父さま

大好きな父さまを包丁でメタメタに刺す姉さんと動かない父さま


私、何が何かわからなかった…

だから姉さんのところへ行こうとしたの


「見てしまったの?ふふふ」


優しい姉さん。いつもと同じ


「本当…おふざけがすぎるわ…。お仕置きが必要ね」


振りかざされた包丁。

なんで?ねぇなんで??

姉さんどうしたの?

強烈な痛みが襲い悲鳴をあげる。

何か喋ってるけど姉さんの声は聞こえない。

どうして?ねぇどうして??

姉さん。何それ?

シャザンヌの手のひらに炎の球が現れ大きく大きくなっているのが見えた。



『やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』




激しくぶつかりあう剣の音が響く。

キシュを優しく抱きしめ、シャザンヌの剣を受け止めているふたつのナイフ。灰色の髪。鋭い瞳と耳。


「…懐かしいじゃないのグビド」


シャザンヌが近づき、剣に力が入る。

屈強な体はビクともしない。


「…ねぇさん…」


静寂の中放たれた言葉


「ねぇ…さん…なんで…なんで…」


声は少しずつ、大きくなりシャザンヌのもとまで届いた。口だけが勝手に動いている。目を丸くするシャザンヌ。グビドが止めてももう無駄。目の前には体を震わせ笑うシャザンヌ。


「…笑っちゃう。あんただったの…ふふ…探す手間が省けたわ」

「探す手前って…なんで?」


シャザンヌはまだ笑がとまらないようだ。

その高らかな声が怖くて怖くて仕方ない。


ーやめてやめて心が砕けそう…


「ふふ。あんたを殺すために決まっているでしょ?あたりまえじゃない?」


「なんでなの?!…ねぇ?!なんで!!?姉さんなんで…」


ー…姉さん本当のことを教えて…またあの頃の姉さんに戻って…


すがるように怯えた眼差しを向ける。


「そんなに知りたい?なら教えてあげる。私がこんなになった理由…」

「あんたのせいだよ?マリアンヌ。」


「え?」


突然だった。

姉さんを変えたのは私?

細い線が切られた気がした。


「あんたがあの日、父様との約束を破って、森の奥へ遊びにいったから。…そのお陰で、私は目覚めることができたの。すべてあんたのお陰。父様を殺した理由?邪魔だったの。だってあたしの邪魔ばかりするんだもの。あんたは別にどっちでもよかったのよ?けど私を眠らせちゃったんだもの。お仕置きしなくちゃダメよね?」


あっけにとられるキシュに向ってシャザンヌはとどめをさす。


「私が変わったのも、父様が死んだのも全てマリアンヌ…あんたのせい。」


頭が真っ白になった。


ゼンブアタシノセイ…


グビド・イザナが何か言っている。聞こえない…


シャザンヌの両手から炎が見えた。


あぁ。殺されるんだ…

仕方ないよね?悪いことしたのあたしだもんね…


キシュは瞳を閉じた。涙が流れる。



突然突風がキシュたちの前にあらわれた。


シャザンヌが上をみると、そこには異国の衣をまとった青年。

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