針は動く-1
だれもきっと見向きもしないだろう小さな洞窟。
草木に覆われた先の見えない穴。祠はこの中にある。
近くの木にマグールをくくりつけ、二人は祠へ向かう。洞窟の中はひんやりと冷たく静寂が辺りを包む。時々岩肌から落ちる水滴の音が響く。イザナが杖を一振りすると、杖の先からまばゆい光が現れ宙へ浮き、あたりを照らせば、やってくる魔物たち。ここに住む魔物達はなかなかの強敵揃い。人が入り込まないことで、討伐されず数も多い。だからこそ、この場所を隠し場所に選んだ。
誰も入り込まない。
たとえ入ってきても魔物の餌食になるのだから。
襲いかかってくる魔物を剣が払いのける。
まるでコバエを払うかのように。
殺さないように。
殺しては門番の意味がなくなる。
「ご立派ご立派。力は衰えてないようね。」
「いや。俺も年だ。若い頃に比べりゃヘッポコだよ…」
「…そうね…。完全な不老ではないものね。私達」
会話をしている間も襲いかかってくる魔物。
そんなもの御構い無しに二人は前進していく。
どれだけ歩いただろう。
入り組んだ洞窟に足跡を残さないよう気をつけて奥へ奥へと進む。
すると目の前には大きな扉。
しかしそこにたどり着くための道はどこにもない。
扉と2人を真っ二つに分けるそこの見えない道。
杖をふり呪文を唱えるイザナ。
演唱の終わりと同時に2つの離れた岩が手を結ぶように、岩が現れ橋を作る。その道を渡りきり、イザナの杖が振りかざされると、道は跡形もなく崩れ落ちていった。
扉を開ける
そこには広い空間が広がり光が一筋。
その先には台座が用意されている。
二人はその場に誰もいないことに心から安堵した。
ゼルベルダは台座に宝珠を置くとイザナに合図を送った。イザナが演唱を開始しようとした時だ
悪寒を感じた。
これまでに感じたことのない怒りに満ちた殺気。
震える声。けれど怯えている暇は無い。
「…来ました!!!構えて!!」
「!!!!」
目の前に現れた火の粉。
一瞬にして炎の海が広がる。
たちこもる煙に二つの影。
小さな手の響きが聞こえる。
イザナ、ゼルベルダは何事もなかったかのようにそこに立っている。この世にいる種族の中でも最高魔術を操るソーサー。その力は神をも超えると言われている。しかもその種族をまとめていたイザナにとって、防御の魔法を一瞬でかけることなどたやすいことだ。
高いヒールの音が響き近づいてくる。
2人の視線の先にはシャザンヌとレルエナ第二皇子シュアトルが立っている。
「…シャザンヌ…」
剣を構え、杖を握りしめ相手に集中する。
それを見てシュアトルも対抗しようとしたが、シャザンヌはそれを制止する。
「あなたはここで待っていなさい。」
言いようのない力がまたシュアトルを萎縮させた。微笑する彼女に返事をすることしかできなかった。彼女の力は行き道に嫌という程見せつけられた。驚きを隠せなかった。ソーサーでもない種族がこれほど魔法を巧みに操るとは信じ難かった。
ゆっくりと柔らかな手を響かせシャザンヌが近づいてくる。
「久しいわね。ゼルベルダ。そしてソーサーのお姫様。」
その言葉。その口調。
ゼルベルダは驚きを隠せなかった。
「…なぜ…」
「知ってるに決まってるじゃない。共に戦ったでしょ?」
「何をいってる?お前はシャザ…」
「レリア。」
ゼルベルダの声を遮ってイザナの言葉が放たれる。
「ふふ。そうね。そんな名の時もあった。でも今はシャザンヌって名前よ。」
「どういうことだ?!」
訳がわからない。
彼女はシャザンヌ。
ジョシュアの娘だ。
混乱するゼルベルダ。
何かを悟ったイザナ。
そんな2人を見てシャザンヌは面白くてつい笑いが溢れる。響く笑い声。そしてすぐに静寂が訪れシャザンヌは語りかける。
「こういうことよ」
シャザンヌが両手を広げてゼルベルダ達の前をさした時、炎が突如襲った。
知っている。その仕草。その技。
「…そんな!!これは!レリア様の…」
「我が半身返してもらうわよ。」
「落ち着いて!!彼女は本当のレリアではありません!!思い出してください!!!彼女の最後を!!」
意思喪失していたゼルベルダにイザナは問いかける。
そうだ…
記憶がゼルベルダの脳裏に流れる。
『お願い!!!この世界をあの子たちを守って!!!!』
「そうだレリア様は…。レリア様はあの瞬間におられた方だ!!おまえは何者だ!!」
「私か?お前たちに教える義理などない。私は私。レリアであり、シャザンヌ。」
炎は消えない。ゼルベルダは剣をイザナは魔法で応戦するがまったく歯が立たない。攻撃を繰り出しても炎が彼女を守る。それに守っていた炎は2人を襲う。
遠くから見ていたシュアトルは三人の話し声を聞くことができなかった。戦いに参加することもできない。
いや、できないのだ。
足が動かない。目の前でくりひろげられている戦いは今まで見たこともないものだった。
シャザンヌ…どれほどの力を持っているのだ…。
ただただ息を殺して見続けることしかできなかった。
-なんだ…。あの戦いは…
-あの二人も相当なのに、シャザンヌは…彼女は一体……。
戦いが始まった頃、キシュ達はようやく祠に到着した。休憩なしでぶっ飛ばしたせいでマグールは疲れ果てている。祠のそばには一隻のエアーバイク。
「あれは!」
ミンキュの顔は曇る。
それに気がついたキシュ。
「知ってるの??」
「あれはシュアトル様のエアーバイク…。なんでここに…」
周りには帝国軍は居ない。
おかしすぎる。普通皇子が出るときは軍が何人か付いている。
けれども考えてる暇などない。
キシュ達は急ぎ、祠の中へとすすんだ。
すぐに異変に気がつく。
強烈な匂いがあたりを包んでいる。
あたり一面真っ黒な煤がひろがっている。
「何これ?もしかしてここらの魔物…?」
「…焼き殺されたの?」
マリーにはその魔力がどれほど高いことか想像がつかなかった。この間の弥生が繰り広げる魔法よりも威力は強い。
「早く急ぐぞ!!」
余裕1つない切迫した表情
この状況からして当然だ。
一向は全速力前へ前へ進む。
願いながら、走りつづける。
煤が続く道を進む。
新しくできたであろう穴を何度もくだった。そしてようやく大きな扉を見つけた。大きな崖と崖の間に心細い一筋の鉄でできた道があった。これを渡れというのか?みんなは怖くて仕方がなかった。
轟音が響き、大地が軋む。
「!!」
「父さん!!」
怖がってなどいられない。急いで走る。
「そんなぁ〜!私無理だよ…」
マリーとコロッツィオはあまりの恐怖で足がすくんだ。けれども2人ともキシュを助けたい気持ちは強い。恐る恐る立ち上がり震える足を前へと進める。急に体が持ち上げられた。2人は顔を見上げるとジョージが呆れながら笑っている。
「しっかり掴まっていろよ。」
言うが早いかジョージは空をかけた。
光がだんだん大きくなる。
キシュとサマーティーはとにかく走った。
-お願いだ!!お願いだ!!父さん!!!!
「なにものだ?!」
キシュ達を迎えたのはシュアトル。
目の前に広がる光景にサマーティーは驚愕し我を忘れた。
「父さぁぁぁん!!!」
言葉を飲んだ。
そこにいたのは変わり果てたゼルベルダとイザナだった。




