炎の宝珠-2
静まり返った遺跡。
笛の音がやんだ。
そこにいたのは十代半ばの少女2人。
「ねぇ。水無月。これどういうことかしら?」
苛立ちを隠せない少女は栗色にフリフリのミディアムの髪が可愛らしい。全体的にミントカラーでリボンの装飾が女の子らしさを引き立てているが、そのつり上がったキリッとした瞳で見られれば、悪いことをしていないのにごめんなさいと言わなければいけないような威圧感がある。耳がサマーティーのように尖っているフィルディアと呼ばれる種族の少女の両腕には格闘家専用の武器が装着されている。
「あたしに当たらないでよ。」
「水無月の幻術で先にきてた奴らここで寝てるはずでしょ?」
「だからあたしにあたらないでよ皐月!」
ピリピリした空気。2人は床に空いた穴を見つめた。
「相当な相手だよ。状況把握能力が高い。ここから逃げたんだわ。」
健康的な茶色の肌。白い晒しを胸に巻き、体にフィットした上着を着ている。下は八分丈のズボン。三つ巴のマークのついた白いヘアーバンドで前髪を固定している一つにまとめられた漆黒の髪。青い垂れた瞳に泣きぼくろの水無月が皐月にいった。
「それじゃ追う?」
そんな時2人の持つ通信機が震え、同時に通信機を開く。通信機は片手で操作可能で薄いコンパクトだ。ボタンを押すと開き画面が立ち上がる。画面には即時帰還を促す命令文
「嘘でしょ…失態の報告とか…最悪よ。」
「仕方無いじゃない…あたしだって嫌だよ…」
水無月と皐月は長い廊下を走る。
きっと自分たちが最後だろう…。
城へ帰還したなら、速やかに第一研究所へ集え。
通信機からのメッセージのとおり、2人は城内地下にある研究所へ急いだ。
2人とも行きは切れていない。
「もしかして、如月と神無月が連れてきた例の女かしら?」
「第一研究所なら、それしか考えれないよ。」
2人は研究所の扉で立ち止まる。
天井からレーザーの雨が降り注ぐ。
ニンショウカンリョウ トビラヲカイジョシマス
分厚い扉の先には、仲間達がすでに集まっている。
2人の到着でレルエナ帝国の暗部無月のメンバーは睦月を除く全員が揃った。
「一体何が…」
皐月の言葉を遮るように、ピンクの髪の少女が数枚の資料を差し出す。皐月は少しムッとして、差し出された資料を目にすると苛立ちは突如として消えた。
「…ちょっ…ちょっと…なんなのこれ?!」
「え?あたしにも見せて。」
水無月が皐月の手から資料をとった。
「そのまんまだよ。如月達が連れてきた例の女の検査結果。」
「そう。シャザンヌは君たち無月が誇る魔導の如月には劣るが強い魔力を持っている。かと言って、文月レベルの攻撃力も所有している。」
Dr.シュナが得意気に言い放つ。
一同科学者を睨みつけた。
このクソ気持ち悪い男…絶世の美を誇るルラ族の血を持つせいで顔だけは一丁前にいい。ルラは外見を着飾ることが大好きな種族でこの男も例外ではない。見た目は誰もが惚れ惚れするのに、一旦口を開けば誰もが嫌悪感を抱く。
「Dr.シュナ…あんたが封印を解いたの?彼女の封印は解かない方がいいって如月が言ってたはずだよ!」
メガネをかけて、無月のメンバーを蔑んで見る男。Dr.シュナに対して水無月が反論した。
「ん?なにもしらないのかい?彼女の封印解除は軍部会議で決まったんだよ。」
「え?!…そんな!」
水無月は如月の方を不安げにみた。
如月は申し訳なさそうに下をむいた。
「ごめんなさい。睦月様共々反対したけど…」
「そんな…」
「いいじゃない。申し分ないデーターよこれ。帝国側にとってはプラスじゃん。…まぁどんな人かは気になるけど。」
うなだれる水無月の横で皐月が颯爽といった。その言葉はもっともで、誰も何も言えなかった。大国レルエナは今や危機的状況に陥っている。長年の安定により、軍事力が低下している…隣国はそれを狙い今着々と準備していると帝国会議では問題視されている。
そんな時、扉が開いた。
そこに立っているのは黒髮の青年。
「睦月様…」
睦月の横にいるのは、スラリと立つ美しい女性。
首にかかった金髪の髪。妖艶な紫の瞳。
「皆集まったようだな。」
睦月の声はDr.シュナを除くその場の者たちの注目を集める。
「大体の話はDr.シュナから聞いてると思う。如月と神無月が連れてきた彼女だが、名前は…」
「シャザンヌよ。」
艶やかな声とその容貌に誰もが心を奪われる。
「シャザンヌは兄上が率いる護衛軍にはいる予定となっている。それまでは能力検査のため皆に協力してもらう。スケジュールはシュナから送信されるので、確認の方を忘れるな。」
睦月はシャザンヌと一緒に研究所をでようとしている。水無月は焦って呼び止めた。
「あ!睦月様!」
「どうした?」
「あの報告しなくてはいけないことが…」
「あぁ。わかった。後で私の部屋に来てくれ。」
「はい。」
睦月は出て行った。無月のメンバーもシュナに追い出され、研究所をでていった。水無月の元に如月とピンク髮の少女がやってきた。
「報告って例の?」
「う…うん。そうなんだけどね。先手がいたようでさ…」
「そうですか。…しかし、そこまで怒られはしないと思いますよ。皐月の言った通り、私たちはひょんなことで膨大な力手に入れましたし。」
「だといいんだけど…」
ふと水無月は考えた。
「そう言えば…。」
「どうしたの?ルル?」
「あの場所で感じた魔力とシャザンヌの魔力似てたような気がする…」