炎の宝珠-1
平手の爽快な音とサマーティーの叫び声で朝が訪れる。
「酷いよキシュ!もっと優しく起こして!!」
「何度もおこしたわよ!他にどうすればいいのよ?」
「例えばさー。チュッと…」
お腹に鈍い痛み。ベッドの上でふたつにおれるサマーティー。苦しみながら時計を見て驚く。針は5時を指している
「…早くない?まだ日もでてないじゃん??」
「こういうのは朝方行動する方がいいのよ。魔物達も眠ってるし。そんなんも知らないのあんた?」
「俺は普段こういう仕事しないから…」
「あんた普段何してんの?」
「俺?俺は賞金稼ぎかな?もっぱらターゲットは人。こんな運搬系の仕事は初めて。」
「ふーん。賞金稼ぎって儲かる?」
「まぁ、ボチボチだよ。ただ賞金かかってるだけに、相手は強者ばっかで命がいくつあっても足りない感じだよ。」
買い込んだエナジーバーを片手に世間話。
ボサボサの髪を手でとく。
「…よし!行くわよ。」
部屋を出て、歩き出す。洞窟は複雑に入り組んでいる。迷路だ。下へ下へ進むと重厚な扉の前にたどり着いた。キシュが軽く扉を押すと、扉はその見た目から考えもつかないくらい軽々と動いた。奥には祭壇。ここに来るまで、数々の罠が2人を襲っていた。今度は特大の罠がしかけられているかもしれない。キシュは石橋を叩くかのように、慎重に慎重に歩く。サマーティーは何も考えていなそうだ。
結局恐れていた罠はなく、あっさりと宝石を手にすることが出来た。
真っ赤な丸い小さな宝石を褐色の岩が覆っている。ほのかに熱さを感じた。
「あっけなかったな。罠があるかと思った。」
「ここから出るまでは、気が抜けないわ。気をつけ…っし!」
口を閉じ、耳をすます。聞こえる微かな音色。
柔らかな優しい音色。とても心地の良い気分になれそうだ…だからこそ危険だということを知っている。
「キシュ!!耳を塞げ!」
言われるがままに耳を塞ぐ。
こんなの聞いてない。自分たち以外も狙っているなんて知らない。サマーティーに視線を移す。サマーティーもキシュを見ている。お互い同じ表情。
知らない。
どうしよう。やばいことになってる…。キシュは辺りを見渡し、床を叩き始めた。サマーティーもキシュと逆の方向を叩き始める。抜け道は?!音が近づく。
はやく!はやく!!
サマーティーが走ってきた。顎を動かしキシュを抜け道へと誘導する。意外にも大きな抜け道があった。2人は穴にもぐり歩く。下へと続く階段があった。サマーティーは降りて行った。キシュもついて行く。
地下は複雑な構造になっている。光苔のお陰で辛うじて辺りが見えた。至る所に階段がある。下る階段。登る階段。そして、魔物達。襲いかかってくる魔物をいちいち相手にすることはできない。すり抜け、とにかく走る。駆け上がる。駆け下りる。すり抜ける。たまに戦う。買い込んだ傷薬がもう僅かしか残っていない。走る。走る。かれこれ三十分は走った。入り組んだ道がどんどんと一本道になる。同時にどんどんと低くなる。日の光が見えた。2人は中腰で日の光の方へ走る。
外の新鮮な空気が2人をまっていた。思いっきり吸い込み、ありがたみを感じる。辺りは日の光に包まれている…ここは静寂なる森ではない。2人は息を切らした。
「もう聞こえないよな?」
「うん。大丈夫じゃない?」
「っしかし…ここどこだ?あの森か?」
「そんな感じはしないけど…」
地面が揺れている。
だんだん激しく…
土が盛り上がり山へと変わる…いや。山ではない
そんな…やっとここまで逃げ切れたのに…。
2人の目の前に現れたのは、大きな芋虫達…