〓相入れる者たち-1〓
霜月と弥生の過去のお話です。
少し長くなるかもしれません…
夜風は暑い日差しを一瞬で吹き飛ばしてくれる。
上を見上げれば満点の星空。
砂漠地帯にあるオアシス。それが僕の故郷。
僕があいつと出会う前閉じ込められていた牢獄。
五年前、姉さまがレルエナ帝国との同盟の証として、旅立とうとした時…そうその時に僕は自由を得た…
「ヤシュム!!またあなたはこんなところに!!」
姉のラーティンの怒った声が、雰囲気をぶち壊す。
砂漠と海に囲まれたラファノ大陸のオアシス・メアル皇国。僕はこの国の第六皇女として生を受けた。
でも僕は皇女の責務が大っ嫌いでいつも1人庭いじりだったりしていた。
メアル皇国では政治を動かすのは女だ。
僕はこの政治が大っ嫌いで仕方ない。シンプルにすればいいのに、あいつが得をする。こうすればあっちが損をする…結局自分たちの得のことしか考えていない。そんな政治体制に呆れた。
そんなバカなゲームをしているより、僕は獣と戦ったり、庭をいじったり、食事を作ったりする男の仕事の方が好きだった。
僕はこの人達が嫌いだ。いや。僕は家族全員大っ嫌いだ。なんで僕は女に生まれてきたんだろう。
女にさえ生まれなければ、政治に巻き込まれないで済むのに…
「聞いているの?!」
「聞いていますよ。マースィル姉さまの別れの儀式が始まるのでしょ?」
「…そうよ…。わかっているなら行きますよ。」
そう言って姉さまは僕の腕を握って、儀式の間まで引っ張る。
儀式は僕たちの到着で始まった。
僕たちが一列に整列し、母様・父様がその前に座する。そして、マースィル姉様は僕達に向貝合わせで座る。
たくさんの揺らめく炎。
母様がマースィル姉様にまじないを唱える。
そして、お役目について説明をしている。
マースィル姉さまはうっすら涙を浮かべている。
それもそうだ。生まれた順序が違うだけで、こんなことになったんだから…。姉さまはこの国が大好きで政治も大好き。僕とは正反対。
僕はマースィル姉さまが羨ましかった。
この国に縛られず自由の羽を手に入れるのだから。
一度レルエナに行けば二度とこの地に足を踏み入れることはない。
儀式は終わり、朝の訪れとともに姉さまは旅立つはずだった。
そう。
そのはずだった。
「どういうことですか?!」
母様の驚きと焦る声が響く。
その場にいた自分は驚いて声も出なかった。
「僕はこの子が欲しい。」
レルエナ帝国第二皇子・シュアトルはそう言って僕を指差す。
「しかし…この子はあなた方のお役に立つとは…」
「問題ない。異論はないか?」
鋭く光る黒い瞳。
母様はその言葉を攻撃することはなかった。
何をされるか想像がついたのだろう…
しぶしぶ了承をした。
身支度が全くできていなかったものだから、朝そのまま出発の手筈が夕方の出立となった。
夕刻
窓から見えるこの景色と別れるのは惜しかった。
足音が近づく。
母様だ
「ヤシュム」
「母さ…」
言い切る前に、母様が僕をぎゅっと抱きしめる。
「なぜお前なのです…母はこの国をお前に授けるつもりでした…」
「何を言ってるんですか?母様…この国はヌールィ姉様がお次になるではないですか…」
「またそのようなことを…。お前ほど心が潤い、隙のない者はいません…お前は上に立つ器です…」
「母様は僕を買いかぶりすぎです。僕はそんな立派な者じゃない。」
母様の潤んだ瞳は僕をじっと見つめる。
母様はおでこを僕のおでこにくっつけまじないを唱える
「マースィルに変わり、お前は使命を全うしなければいけません。わかりますね?」
「レルエナの監視ですよね?」
ため息をつき、母様はあきれた様子で笑う
「…そうです。本当にお前は頭がいい。失敗は許されませんよ。注意しなさい。」
「分かっています」




