始まり-4
静寂なる森についたのは、空の紫が濃紺へと変わろうとした頃だ。
エンバで食料と水・それと傷薬を買い込む。
エンバは静寂なる森に近いせいか、武具防具の品揃えがいい。
静寂なる森。
鳥すら寄り付かないよどんた空気が支配する森。
武具屋の亭主は言っていた。静寂なる森がああなったのは十年ほど前で、以前は鳥たちがさえずりあう、柔らかな森だったと。
森を前にして、亭主の言葉が嘘なのではないかと疑った。柔らかな森の影などどこにもない。
ため息をついてキシュの足は森へと踏み込む。
「ちょ!キシュ!」
「なに?」
今度は一体なんなのか…。毎度毎度の事で流石に怒鳴るのも疲れた。
「ここで野宿すんの?」
「そうよ。まさかあんた怖いの?」
「そんなじゃなくて!この森水浴びできるとこ絶対ないって!」
「んじゃ、しなけりゃいいじゃない。何か問題でもあるの?」
サマーティーは言葉につまった。
大きく開いた目と口をそのままにして。
まるで、蛇に睨まれたカエルだ。
「…ありません…」
森に入るや否や、魔物が襲ってくるわ襲ってくるわ。瘴気にやられた動物達が魔物となったタイプが多い。敏速で理性をなくした動物達は侵入者を追い出そうとひっきりなしに襲いかかってくる。
サマーティーが大剣を振るう。
キシュがふたつのナイフを振るう。
倒した魔物は、ほっておけばまた瘴気の元となる。呪われているとしか思えない。キシュは狼の魔物の屍に近づき、牙を四つ抜き取った。サマーティーが鳥の魔物の屍から美しい紫の羽をとているのを見て驚いた。
「凄い…。それ、見つけるのめんどくさいデーベの紫羽じゃない…。」
「ん?結構これいい値で売れるからさ。」
「それ探すのに時間かかるのに…。」
「あぁ。倒す時のコツがあるんだよ。」
「え?何それ??教えて!」
興味津々なキシュはまるで子供のよう。今までのツンはどこへやら…。純粋な瞳がサマーティーの胸をくすぐる。少しどもりながらキシュにコツを教える。コツは一撃で倒す事なのだ。キシュは苦虫を噛んだような表情になった。それもそう。今のサマーティーでも一撃で倒すのは難しいのに、サマーティよりも攻撃力の低い自分が一撃で倒せるわけがない。
ポンとサマーティの肩を叩く。
「あんたの担当ね。目標10個。換金したら5割貰うわ…」
「…え?!メチャクチャじゃない?!」
そんな茶目っ気な会話をしながら歩いていくとだんだんと瘴気が強くなってきた。魔物達も強くなっている。街で買った傷薬が半分に減っていたその時だ。
「あれじゃないか?」
サマーティーの指差す先に岩の洞窟があった。
目を細める。寒気と頭痛が襲った。キシは水を口に含め、気を間際らす。あれだろう。となぜか確信できた。2人は洞窟の中に進む。
すると2つの扉がある。左側の扉を開けるとそこは何もない物置のようだ。右側は長い廊下が続いている。
2人は物置で一晩休むことにした。簡単な食事を取り、用意していた寝袋を広げ、眠りにつくことに。
かかった時間は4時間。予定通り。このまま何も起こらないことを願い、瞳を閉じ、眠りについた。






