気づき-1
「いたいた。あいつらだ。流石に霜月の感は当たるな」
「本当は僕きたくなかったんですよ。」
「そーいうなよ。別件も片付くんだからじゃーねーだろ?」
「わかっていますよ。だから今回は教えたんじゃないですか。」
弥生と呼ばれた青年は坊主頭に鋭く光る朱色の瞳、透き通るような白いおでこには楕円の紅がさしてある。黒い袈裟のような服を纏い、手に持つ錫杖の輪が響いている。容姿からしてザルアだ。もう一人の霜月と呼ばれた少女は対照的な褐色の肌に金髪の長い髪を頭のてっぺんでまとめている。この子もおでこには楕円の紅がさしてある。橙のサリーのような衣装に身を包み、手には金の杖にきらびやかな宝石をあしらった杖を持っている。そして、眠そうに垂れた宝石のように美しい緑の瞳。マキナとは違う長く丸みのある耳。ルラだ。
2人との距離が近づき、間合いギリギリで立ち止まり、弥生はまじまじとキシュたちを見渡す。
「ザルア?本当にいんのかよ??」
「卯月さんの報告によると、あの黒髪の女性がそう見たいですよ。」
マリーの方に目をやる。確かに黒髪に、暖色の瞳。ザルアの特徴と一致はするが、それだけではわからない。
「…まぁ、断定はできないが…よし!っんじゃやるか。俺はあの黒いのメインでやる。霜月は他を頼むぞ。」
「なんですかそれ!僕がほとんど対応しないとダメじゃないですか!」
言い切る前にすっかり戦闘体制に入り、霜月の言葉を無視する弥生。
「いくぞ!!」
「もう!勝手なんですから…」
弥生は手に持つ錫杖をキシュたちの方へ向け、魔法を演唱する。それに応えるよう、コロッツィオが防御魔法を唱える。弥生の攻撃は御構い無しに襲いかかる。炎が頭上に渦巻き、スコールのように降り注ぐ。今までに受けたどんな魔法よりもはるかに強力だ。コロッツィオの防御魔法がなければ確実に死んでいた。
「コロッツィオ!これ!!」
突然の大きな声にみんな驚く。
「コロッツィオはこれ付けてみんなの回復と防御に徹して!!」
「で…でも…」
「いいから!!早く!」
マリーはいつもと違う面持ち。
なぜかわからないけど、自分たちがどれだけ危険な状態にあるのか直感で感じ取れたのだ。血が騒ぐという表現が的確だった。
自分が今何をすべきか。何をすればこの場を耐えれるかを考える。
霜月と弥生は手を組み次の魔法演唱を始める。
時間がない。
サマーティーに急いで速度魔法を唱える。
「みんな!あたしはみんなのサポートに回る!ごめんだけど頼むね!!」
のんびりした声は一変。
的確にハキハキ喋るマリーに圧倒される一同。
弥生と霜月の手は止まり、瞳孔が開く。
「弥生。あの魔法…。」
「はは…!まじかよ。速度魔法の演唱だ。」
「ビンゴですね。」
「…油断すんなよ…。」
「弥生こそ!」
霜月は先ほどまでの印を解き、杖を手に片手で印を組み直す。弥生は止まっていた演唱を開始させている。
「僕は弥生のサポートに回りますよ!文句はないですね?」
「ああ。頼むぜ。全力であの黒いのを殺る。他の奴らは後回しだ!」
霜月の唱えていた魔法が発動され、弥生を淡い緑の光が包む。よく見る防御魔法だ。けれど、光の量が半端ない。
「うそ…あんなの反則…」
コロッツィオは自分の得意魔法を上回られたことに驚きと同時に焦った。そんなことは横目に、速度魔法を唱えられたサマーティーが弥生に剣を振り下ろす。普通なら直撃できる攻撃なのに、魔法が邪魔をする。
「っ…くそっ!」
「あの子はだめ!髪ない方!!」
マリーの発言と同時にジョージの槍が振り下ろされる。振り下ろされる刃は風をも味方につける。防御魔法で守られている弥生にも攻撃を与えている。魔法で守られていない霜月はその肩に垂らしていたストールで身を守るも今の攻撃でかなりボロボロだ。
「霜月!てめぇの面倒はてめぇでみろよ!」
「そんなのわかってますよ!!」
演唱を終え、放たれる霜月の魔法。
弥生を包む火の粉。
その魔法がなんなのか理解したコロッツィオは急いで魔法を唱える。
魔法がかかったことを確認した弥生は魔法を解き放つ。
「灼熱炎宮!」
「守れ!!」
コロッツィオの魔法発動よりも先に、それは地から舞い上がり2つの球を形成する。そして、弾から降り注ぐ青い炎はマリーを焼き尽くさんばかりに燃え盛る。熱い…。皮膚が溶けそうだ。マリーは持ち前の魔法耐性の強さのお陰で瀕死まではいかなかった。それでも負った火傷が痛い。手を地につけ、うずくまる。ギリギリ遅れて魔法防御魔法が発動され、残りの球からの攻撃を防ぐことができた
「中々いい反応してやがんな。ソリティアの分際で…」
「そうですが、邪魔ですね。」
「あいつを先に潰すか?」
「そうですね。」
「っじゃ…」
「あ。ソリティアだったら僕一人でやれますよ。バカにしないでください。」
「はっ!言うじゃねーか。」
「サポートが必要になったら呼んでくださいよ。」
「ソリティア潰すのが一番のサポートだ。頼むぞ。」
「はい。」
先ほどの魔法で、マリーは多大な攻撃を受ける。コロッツィオの回復魔法を待っている暇はない。みんなが手持ちの体力回復剤をマリーへ与え、マリーは全て飲みほし、応急処置をとる。火傷の痛みが体力を少しづつ奪っているのがわかる。
「こんなの反則だよぉ…。ヒリヒリするよぉ…」
「キシュ!サマーティー!!とにかくあの金髪を動けなくするぞ!!」
「わかった!やられっぱなしなんてごめんだ!!」
3人の刃は霜月めがけ振り下ろされる。
霜月は攻撃防御魔法を唱え、攻撃ダメージをできるだけ少なくする。それでもかなり攻撃を受ける。
ー相手もバカじゃないですね。僕にばっかり攻撃してくる…。
霜月はルラという、ラファノ大陸に多く分布している種族で、魔法を得意とする種族だ。ソリティアやザルアと違い、黒魔法も白魔法も扱える。その代わりに、身体能力が低く、基本的に運動が嫌いだ。伝説のソーサを含める全種族の中でも小型で、神に愛されたほどの容姿を持つと言われた伝説があるが、全くその通りだ。彼女の体は傷ついていてもなお美しい。凛とした表情。意志の強さが視線から伝わる。
杖を地面に突き刺し、右手で白魔法の印をつくり、口と左手は黒魔法の演唱を始める。
先に発動したのは白魔法。淡い緑の光が霜月を覆う。防御魔法だ。素早い魔法発動はキシュたちの攻撃を防ぐ。次に発動されたのは黒魔法。弥生と比べて質は劣るものの脅威に変わりはない。竜巻がコロッツィオを襲う。
マリーが振り返る。
そこにいるのは息をするのが精一杯なコロッツィオ。




