抜け道-4
小さな地響きが自分たちの頭上に襲いかかる。コロッツィオは急いで立ち上がり防御魔法を唱えると同時に瓦礫の雨が勢いよく降り注ぐ。
すこし擦りはしたものの、防御魔法のおかげで助かった。あたりを覆っていた砂埃が薄れると、それは肩を揺らしていた。キシュの目は細くなり集中してそれを見つめる。下半身はどう見ても魔獣の足が2本。太くたくましい。上に目をやる。頭がふたつある??砂埃が消え、そいつを見ることができた。目を背けたくなるほど気持ちが悪い。そいつは腰から二体の体が生えていて、顔だけがヒトでそれ以外は魔獣そのものであった。二体とも薄汚れ、皮膚が垂れ下がり、一部は骨が見えている。薄っすら残る髪質。一体は髪の毛がクリクリ。もう一体は直毛。鋭い眼差しがキシュたちを襲う。張り詰めた空気。襲い来る殺気に圧倒される。それでもやらねばならない。そいつは勢いよく向かってくるのだから。
ジョージとサマーティーは襲いかかる両の手の爪を武器で受け止める。
「…っ!重っ…」
比較的華奢な体からは想像もできない力だった。キシュ・サマーティー・ジョージが攻撃を、マリーが魔法で攻撃を繰り出すが、全然ビクともしていない。小石を投げられた程度の反応だ。キシュは1人攻撃の手を止め観察をすることにした。二体はどうやら同時に稼働していないようだ。稼働していない方は頭が項垂れ、ピクリとも動かない。今稼働しているのは直毛の方。振り下ろされるサマーティーの剣を右腕で受け止める。次にジョージの攻撃。これも左腕で受け止めた。浅いがダメージは与えれている。マリーの魔法攻撃が繰り出され、直毛の個体は叫ぶ。どうやらこの個体は魔法が苦手なようだ。キシュは勝てると確信した。
!!
マリーの攻撃を受けた直毛の個体の頭が項垂れ、天然パーマの個体が頭をあげたではないか…。そして、直毛の個体の傷が癒えている。
「嘘でしょ…」
キシュは先ほどの確信を撤回したくない思いで叫ぶ。
「マリー!直毛の個体に攻撃して!!」
「わかったぁ〜!!」
マリーは急いで演唱する。ジョージ・サマーティーは引き続き攻撃を繰り出す。こっちの個体はなかなか厄介だ。防御魔法を演唱している。そんなもんされれば、与えれるダメージが少なくなる…。苛立つキシュを横目にマリーの魔法が発動する。祈るように見届ける。
「…そんな…」
最悪だ。項垂れた個体へダメージは与えることができても起き上がっている時に比べてほんの僅かに見えた。
「時間との勝負…」
キシュの苛立ちはピークとなる。無理なのは百も承知。それでも言わずにいれなかった。
「速度を上げる魔法使える?!」
コロッツィオは呆れて返答する
「はいぃ??!時空魔法?!んなもん使えな…」
「celerrimus」
キシュは突如不思議な感覚に襲われる。周りの動きが遅い。まるでスローモーションの世界に足を踏み入れたかのようだ。
「なんだあの動き??」
「うそぉ…できちゃった…」
「ね!姉さん?!時空魔法出せちゃうの?!」
不思議な感覚だ。あたりの動きは遅いのに、聞こえてくる音はいつも通り。キシュは試しに攻撃をしてみる。相手の動きが遅い、何時もより数倍傷を負わせれる。意を決して叫ぶ。
「マリー!!!!次はサマーティーとジョージに!!!」
「分かってるぅ〜!」
マリーは急いで速度魔法を唱える。始めにサマーティー。次にジョージ。
「うわっ。何だこれ。」
「これが速度魔法か…」
二人とも驚きを隠せない。キシュに急かされて攻撃を開始する。あまりの早さに追いつくことができない敵。とうとう防御魔法の効果が切れ大ダメージを受けた。頭を垂れ、直毛の個体にチェンジした。キシュはマリーに自分に魔法をかけるよう指示する。マリーは自身の魔法に驚く。
「うわぁ…早い早〜〜い!」
「マリー早くあいつに攻撃を!」
「わかったぁ〜〜…って…あれ?」
突如目の前が揺れる。魔力が少なくなってきている証拠だ。ここにきてまさかの魔力切れ。みんなは自分達が持つ魔力回復剤を探す。サマーティー・ジョージはそれぞれ一本。キシュに限っては0本。
「ねぇさんこれ!!」
コロッツィオがマリーの指に指輪をはめる。あの魔力が回復する不思議な指輪だ。
「コロッツィオ!ダメだよ!これはコロッツィオがしてないとぉ!」
「そうよ!貴方の魔力が切れたらそれこそぜん…」
「いいの!!!私の魔力は今満タンだから!それより今はあいつを倒して!!私の魔力が切れる前にやっちゃってよね!」
真剣な顔でニヤリと微笑む。その瞳は力強い。マリーはその覚悟に応えるため。真剣な眼差しで応える。
繰り出される魔法攻撃。相手に回復する余地を与えてはならない。マリーが主体となり個体を攻撃してる間、キシュ・サマーティー・ジョージは項垂れた個体を攻撃する。どんなに攻撃を受けても、その手を止めはしなかった。
グワァァァァァ…。
そいつは大きなうめき声をあげ倒れた。
やったのだ。
コロッツィオは力なく腰から崩れる。
魔力は切れかけ寸前。
「や…やった…」
両膝に手を置き、上がる息を抑える
ーお前は…なぜこの世にいるのだ…。死んだはず…
頭に響く声。あの敵の声
「は?私??」
ーそうだ…。
「どうした?キシュ??」
突然の独り言にサマーティーが驚く。なにもないと軽くあしらう。誰もこの声に気がついていないようだった。
ーあの女と同じ気を放つものよ。汝何者だ?
ー?何言ってんの??わけわかんない…
ー…名はなんと申す?
ーキシュよ。キシュ・ハワード
ーハワード?あのグビド・ハワードの縁者か?しかしお前からは我らと同じ血を感じない。
ー父さん?グビド・ハワードは私の父さんよ。
魔物は笑った。
ーハワード卿が生きているはずはない。先ほども言ったが、お前からはマキナの血は感じられん。自分の血も知らぬのか愚かなものよ。
嘲られているのがわかる。どうでもいいことで馬鹿にされると少しイラっとする。
ーお前たちはなぜこの地に来たのだ?
ー話せば長くなるのよ。私たちはただハシュベルドに行くためにここをとおらせてもらっているにすぎない。
ーハシュベルド??
ーそう。ハシュベルド領のベルゾナドへ向かっているのよ。
ー我らの邪魔をしないのであれば早々に行くがいい。
そう言うとどこからともなく淡い緑の光が地面に現れる。魔法陣だ。
「え??何なに??」
「なんだこれ?!」
慌ててみんなが魔法陣へ向かった。
「この魔法陣で外に出られるみたい」
「え?なんでそんなことわかるのぉ??」
即答されたキシュの言葉に驚くみんな。
そんなのか待った無しでキシュはみんなの背中を押し、魔法陣に入るよう仕向ける。
みんなが魔法陣に入ったのを見計らいキシュが振り向き、心のうちで語る。
ーあの女ってだれ?
ー我らの希望を壊したもの…
最後まで聞きとる前に、移動魔法が発動する。淡い光は強い光へと変貌し、その中に入るものすべてを包み込む。光の渦に少し良いそうだ。眩しさが落ち着き、目を開けると、そこは通路だった。通路の奥は外に通じているようだ。月が見える。澄んだ風が心地いい。マリーとコロッツィオは休憩と言って腰を下ろす。
「ここは?」
「ハシュベルド領のハシュマリ渓谷だ…。着いたんだ…」
サマーティーが後ろを振り向き、少し名残惜しそうにしている。こんな場所早々に立ち去りたいというのに。
突然ジョージが身構える。
「?どうしたの??」
ジョージは右手で戦闘体勢をとるよう促す。
「…くるぞ」
耳をすます。
乾いた土を踏みつける音が近づいてくる。
金属のぶつかり合う音も聞こえる。
近づく影は二つ。




