信ずる者-5
「聞いてないよぉ〜」
「変な声だす前に手動かしなさいよ!」
イライラするキシュの声。
それもそうだ。ニコに教えてもらったポイントにまだつけていない。それどころか目の前にはドローンタイプのモンスターにドローンタイプの監視ロボットがうじゃうじゃ。
本当に聞いてない!!
「…あー。たしか狩場って言ってたなー。」
ぼんやりとサマーティーがつぶやいたのは、出発してすぐのことだ。少し遠くで特徴的な雄叫びが聞こえた。たしかにニコはそう言っていた。狩るって…このことか…そうなるとかなりの狩をニコの家の人たち流行ってるもんだ。あの雄叫びは美しい毛並みのエゾシカのようなトランタという雑食のシカの獣のもの。恋の季節は雄達は気が荒く、雌を奪い合って戦うことで有名である。ちなみに春から夏にかけては子育ての季節で雌が気を荒くする。雌は雌で、雄のように角は無いものの、強力な魔力を保有している。
…シカの獣…
と言えば聞こえはいいが、その巨体に大の大人二人は乗れるし、立派にもほどがある角。いくつも枝分かれしているがその先は全て鋭利。刺されたら一発で死が待っている。売ればかなりの値がつくが、リスクが高すぎる。
それに最悪なことにただいまトロンタ恋の季節を満喫中。
それよりも厄介なのは監視ロボットだ…
「これ…壊していいのかしら?」
素朴な疑問だが物凄く重要な問題だ。
なんせ持ち主は言うならばニコ。監視ロボは普通に考えてあって当然の代物。壊せば修理か買い直しするしかない…
どちらにしてもニコに大迷惑に繋がる。
「嫌…ダメだろ壊しちゃ…」
二人は監視ロボットは壊さず、そしてトロンタを刺激させず進もう!と決めたのだ。
その結果がこれである。
ドローンのレーザー光線があちこちから放たれる。
持ち前の動きで避けるキシュ。大剣を盾にするサマーティー
ギャァァァーン!!!
雄のトロンタの雄叫びが響き、角を突き立て突進してくる。
「ひーん!!」
あっちを避ければこっちがくる。
もうてんやわんやである。
「あーーー!!もうやってらんない!!トロンタはやっちゃうわよ!」
「わかった!」
「もー!!本当にあんたのせいよ!あんたがあん時石なんか投げるから!」
「あー!言わないで〜!!」
そうなのである。
ドローンがあまりにもうっとおしかったので、一体だけなら壊れててもいいっしょー☆と言って調べようとサマーティーが石を投げて落とそうとしたのだ。
石は見事命中。そしてトロンタの頭上に勢いよく落下したのだ。気が荒いトロンタは当然怒り狂い、あたりを攻撃しまくり突進する。そしてキシュとサマーティーを見つけ猛突進。
「よし!やるわよ!」
2人は覚悟を決め、トロンタに戦いを挑む。
トロンタの突進を大きな刃が受け止める。
トロンタの動きは止まったものの、物凄い力でサマーティーは抑えきれない。けれども、その隙を狙いキシュの二つのナイフがトロンタの首を切り刻む。
痛みに驚くトロンタ。
殺せてなかったことに驚くキシュ。すぐさまトロンタから離れる。
「硬い!!」
そして、すっかり忘れていた頃にやってくる無慈悲な監視ロボットのレーザー光線。
「いった!!!」
キシュは足をサマーティーは背中を当てられ、皮膚が焼ける。傷つけられたことで更に怒り狂うトロンタはサマーティーごと大剣を投げ飛ばし、キシュを睨みつけ体を向ける。
「え…うそうそ…冗談キツすぎ…」
トロンタの角は地面に付いている。そして勢いよく走り出すと、土がえぐれる。
どうすればいい?
これでは下に潜り込めない。タイミングを見計らって飛び越えるしかない?!
いやいやいや無理無理。
ある程度運動神経には自信があるキシュだが、ここまで怒り狂った獣空いてにそんな技が一発で決まるとは思えない。
けれどやるしかないのだ。
もう迷ってる時間はない間合いはどんどん詰められている。
「あーーー!どうにでもなれ!!」
左に持っていたナイフを腰に戻し走り出す。
トロンタとの距離がどんどん近くなる。
心でカウントダウン。
3•2•1
思いっきり地面を踏みつけて出た自分史上最高のジャンプはトロンタの角を飛び越える。右手に持っていたナイフを両手に持ちかえ、全体重をかけトロンタの背中に思いっきり突きつける。感触はいい。深くまで着きさせたことを確信。
トロンタは突然の出来事と痛みで前足を宙にうかせ、キシュを振り落そうと必死だ。
その力にキシュは抗えず、とうとうナイフから手を離れ勢いよく地面に投げつけられた。痛みが全身をかける。
立ち上がろうとした時にはトロンタの足が頭上にあり、もうだめだ思った。
「キシュ!!!」
サマーティーの刃はトロンタの横腹を切り裂き、あたりはトロンタの地でいっぱい。
半分に別れた体はスレスレでキシュの横に勢いよく落ちる。
「悪い…。キシュひとりで戦わせる羽目になって…」
脇腹を抑えながら申し訳なさそうにサマーティーが謝る。回復薬も飲まずにすぐに駆けつけてくれた証拠だ。
「要領悪くない?薬飲んでから全力で来なさいよ」
持っていた回復薬を差し出すと力のない笑い声が帰ってくる
「手厳しぃ〜」
確かに今の発言は正論だ。けど、正論が正しいというものでもない。今かけるべき言葉をキシュは知っている。けれど恥ずかしい。ゴモゴモして小さな声でつぶやく
「…ありがと。助かった。」




