〓兄の心情〓
弟が帰ってこない。調査に出てから何時間になる?
あいつの同僚達は既に帰ってきている…。
外は闇が広がっている。頭を手で覆う。
ダメだ。救助班を出せない。奴は夜に徘徊する。
この頃この辺りを徘徊するドラゴン。
夜に活動し、視界に入るもの全てを壊しまくる。
事の発端はおととい。
22時発着のドラグーン〜クロノア便の墜落事故。
数人のドラグーン国民が犠牲となった悲しい事故だ。当初アベド教徒のハイジャック事故などと憶測が飛び交ったが、破損部には鋭く引き裂かれた跡があり、魔物の仕業と判明した。爪痕からして、黒竜の…しかもかなり大型のものの可能性が浮上したのだ。
黒竜は、ドラグーンの民ですら手懐けることができなかった種だ。夜行性で気が荒く、縄張り意識も強い。
そこからわかったのは、新しく黒龍が巣を作り始めた可能性。そうであれば、排除が必要になる。
そこで、国防庁はこの黒竜の巣はいじょのためうごいている。そして、弟はこの黒竜排除の任務を与えられていた。
…はぁ…
重いため息が溢れる。
ドアをノックする音。急いで開けたが、希望の光はすぐに消える。
「うわ。」
そこにいたのはコブだ。
勢いよく扉が開いたもんだから驚いたようだ。
「なんだ…。コブか…」
「何だとはなんだ?ビッツかと思ったか?」
「うるさい。」
あからさまに落胆した表情を見せ、ドアの横にあるソファに腰を落とすと同時に肩も落いる。
コブが目の前に座る。
「大丈夫だよ。あいつは帰ってくるさ。」
「…わからないさ。あいつはこの間、やっと飛竜に乗れたんだ。もしかしたら落竜したかもしれない。」
「…お前。」
弟はかなりの運動音痴で、ドラグーンの民であればすぐに乗れる飛竜にもかなり苦労していた。
ジョージは本気で弟が竜から落ちたと思っている。
「だから俺はやめろって言ったんだよ。あいつが飛竜軍に所属するの。っなのに…。やっぱ、あの女の子供だよ。」
「お前…まだリィリィさんのこと許せないのか?」
「あぁ。許せないね。虫唾が走る。」
「それでもビッツは大事と。」
「ビッツは関係ない。あいつは唯一血が繋がっている弟だ。」
「その割には冷たいよな。」
痛い所をつつかれる。
「…わからないんだ。」
「?」
「どう接すればいいのかわからないんだよ。あいつが俺を慕っているのはわかっているんだ。けどその気持ちを俺は受け取れない。あいつを受け入れると、あの女まで受け入れる気がしてさ…」
「…ジョージ」
「わかってるさ。それがいかにおかしなことかって。でも無理なんだよ。母さんを裏切るみたいでさ。親父みたいに母さんを裏切るみたいでさ。」
コブは理解している。
理解と気持ちは同じではないことを。
どうにかするには受け入れなければいけないのだ。
けれどもその行動はすぐ出来るもんではない。
「…まっ。あまり無理するな。」
コブはポケットから小包みを取り出し机におき、部屋をでていった。手に取るとコブのおやつのクッキーだ。ポケットにいれていたせいで、ボロボロになっている。笑って封をあけ、口に流し込む。なかなかいけるが、喉が渇く。水差しを傾けグラスに注ぎ、一気に喉に流し込む。
ソファに再び座り天井を眺める。
母さんが死んでからもうだいぶ経つ…。母さんが病気で倒れた時、親父は仕事・仕事って言って全く帰ってこなかった…。その間あいつはあの女を抱いていたんだ…。母さんを裏切って…。なんだよあいつ…。母さんが死んでからは一切家に帰ってこなくて…挙げ句の果てには魔物に殺されやがった。家には俺とあの女とビッツが残されて…。俺がどんな思いしたと思ってんだ…
目をつむる。思い出される思いで。まだ生まれて間もないビッツの子供部屋。始めての弟。複雑だったけどやっぱり嬉しかった。呼びかけると可愛い笑顔が返ってくる。
ほっぺも柔らかい。ぷにぷにしている。
突然扉が開き、驚く。振り向くとあの女が血相変えてこっちにくる。
泣くビッツを抱き上げ、こっちを睨む。
とても怖かった。
「汚い手で触らないで!!」
吐き捨てられた言葉だけが残る。
誰もいなくなった部屋でこっそり涙を流した。
母さんを思ったら、涙を流すのはやめた。
自分の部屋に戻り、決意した。
1人で生きると。
嫌な思い出だ…。
ソファーから立ち上がり、デスクに移動する。
残っている雑用を終わらせて朝一に探しに行ってみよう。
ビッツが行方不明になった日のジョージの様子を書いて見ました。




