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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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始まり-2


今回の任務はわけありな宝石をオーランソ大陸1広大な領土と力を持つ、レルエナ帝国のサンバナ領からハシュベル領ベルゾナドへ運ぶだけ。

宝石はサンバナ領中央の<静寂なる森>にある遺跡に保管されているという。


2人が待ち合わせたのは、レルエナ帝国とフィルト公国の国境に位置する<轟き山>。

<静寂なる森>へは多く見積もって4日はかかる。


山を超えるのに一日かかった。三時間のロス。

サマーティーは木からの移動ができない。大剣を背負っているからだ。動きが鈍い。キシュは予定が崩れて行くことに苛立ちを隠せないでいる。


「そうカッカするなよ~。」

「カッカなんてしてない!」


見え透いた嘘。


「山の移動は苦手なんだよ俺。

まっここからは平地続きだから任せなって!」


キシュの肩をぐっと寄せて笑った。

腹がえぐられる感覚が襲う。

サマーティーは地面に背をつける。


「っー…」

「いい加減にして!」

「怒った顔も…また可愛い♡」


立ち上がると同時に、左拳が目の前に現れる。

それは右手で受ける


「クソが!」

「キシュ。君にはそんな言葉似合わないよ。」


憎めない笑顔。


「うるさい!行くわよ!あんたの名誉挽回見てあげよーじゃないっ!」

「オーケー。オーケー。」




歩く。ただただ歩く。

その速さには驚いた。

駆け足でなければキシュは追いつけない。


歩く。歩き続ける。

休憩を申し出たのはキシュだ。

サマーティーは笑って数メートル先の大きな木まで頑張ろう。と言った。


「どう?ちょっとは挽回できた?」

「なんで平地では凄いのに山になるとあんな遅いの?」


サマーティーは笑った。


「障害物は苦手なんだ。」


呆れた。


「わけわかんない。」


2人は地図を広げる。自分たちの居場所を確認。轟山周辺には町や村が少ない。だからこそ待ち合わせの場所として選ばれた。

キシュにとっては不思議なことだった。物の輸送をするだけなのに、なぜ人目をはばかる必要が?そのせいで、自力で移動を強いられている。移動手段であるマーグルが安く手に入ればありがたいと空を見上げ考える。


マーグルは巨大な脚の長い鳥。

生息地によって種が異なるようで、各地で移動手段として重宝されている。キシュは未だスタンダードな茶色の羽根色をもつタイプしか知らない。


<静寂なる森>へはまだまだつかない。

キシュは時計に目をやり驚いた。ロスタイムが1時間減っている。


腹の音が聞こえる。

そろそろ昼だ。


「ここらは何もなさそうね…。少し逸れて、この村にいかない?」


少し戻った所にある村をキシュの指がさした。時間に余裕を感じ休憩を提案するもサマーティーはこっちの方にしないか?と何キロか先にある大きめな街を指した。


「え?ここ??五時間はかかるわよ。」

「もう少し早くつくよ。」

「あんたね…。」

「なんなら、おぶろうか?」

「…おぶらなくてい。」


しれっと言ってくるものだから、ムッとする。疲れた体に鞭を打ち、自分はまだまだいけると言い聞かせながらキシュは足を動かした。


そうしてようやく着いた。


ダラス。穏やかな街。

サンバナの西に位置する小さな田舎町。

特になにが有名ってわけでもない平凡な町。


サマーティーの言った通り。ダラスにはキシュの見積もりよりも1時間半早く到着した。


「…信じらんない…。なんで…そんな歩いてられんの?」


ヘトヘトになってしゃがみこんだキシュは流石に負けを認めざるを得ない。あんなヒョロい男より体力がないという事実を受け入れるのはしゃくだが、自分がまだまだ未熟だと認識した。

サマーティーは笑ってキシュを起こし、近くのベンチまで誘導した。


「俺のスピードについてきたキシュもすごい。お疲れ様。宿を探してくるから待っててくれる?」


首を縦に振る。

疲れた。足がダルい。

お腹空いた。

時間はランチからアフタヌーンへと変わっている。


サマーティーが戻ってきた。

梨をキシュに渡した。

甘くて水分が多い。美味しい。

あっという間に軸だけになった。


「ここからすぐの宿とっといた。食事も用意してくれるって。おぶる?」


首を横に二度振って立ち上がった。少しよろける。

よろける体をサマーティーが支えてくれたが、力のでない手で彼をのけて歩く。

ヨロヨロ歩くキシュを見つめ、呆れてサマーティーは笑みがこぼれた。


「可愛くないんだか可愛いんだか。

そこまで似ちゃう?」


何かを思い出したような表情で微笑んだ。


「キシュー!!そっちじゃない!左だ!」


キシュはヨロヨロと方向転換する。サマーティーは笑ってキシュの所へ向かうと、軽々と背中におぶった。いきなりの事で頭が混乱する。ヒョロヒョロと思っていた背中は程よく筋肉が付いていて、ガッシリとしていた。大きな背中。顔が火照っていくのがわかる。恥ずかしい。


「ちょっ!!!」

「はいはい。パンチは後で受けるから今は大人しくしてくださーい。」


ムスッとしたがキシュは大人しくおぶられる。


宿は木造三階建て。サマーティーはキシュを背負って階段を登って二階の部屋へ入る。

部屋は狭くベットは二つ。

キシュを奥のベッドに降ろす。

相部屋の事は気にしていない様子。お金をかけれないことを知っている。


キシュは少し眠ると言って、そのまま眠ってしまった。賢そうで強気なキシュ。寝顔は子供のようにあどけない。サマーティーはキシュの頭を軽く撫でて部屋をでた。

下におり、宿の隣にある酒場で休憩する事に。カウンターに座り込む。端っこに新聞が無造作に置かれていたので手が伸びる。そこには経済の動き、魔物が異常発生している地域について、芸能についての記事がおおく記されている。けれども今新聞の紙面を飾っているのはレルエナ帝国 第五都市セドで起こった爆破事件。首謀者はアベド教徒の過激派。どうやらまた死者が増えた事を新聞は語っている。


アベド教徒…。

かなりの昔からある宗教で、歴史は現在メジャーであるパスエリア教よりも古い。パスエリア教は暁の女帝・レリアを神とする。しかしアベド教はそのはるか昔から存在する土着信仰だ。

彼らはただただひたすら願うだけだった…。



酒場はもっぱら暗い。

泣きながら酒を煽る客もいた。


重たい空気に耐え切れず、一杯だけあおって酒場を出る。店を出るとすれ違いざまにアベド教徒信者にであった。彼らは手の甲に瞳の刺青を入れているのですぐにわかる。

何も起こらなければいいが。


希望はきっと希望で終わるだろう。

関わらないのが正解。


背中から罵声が響く。


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