ドラゴンの王国-8
今回はほぼ2話分のお話…
「今回の件、他国からの攻撃と断言できるということか?」
長官がジョージに確認する。
窓のない参謀室は昼間だと言うのに仄暗く、数個のランタンがゆらりと辺りを照らしている。部屋の中央には縦に長い机が置かれ、席には長官・大臣達そして王が座っている。
「はい。完全に操られていました。ビッツ自らの意思でないのは明白です。」
「しかしそうなると、どこだ?どの国が我が領土を?」
「…敵は我らが領土を犯すことが目的ではない気がします。」
怒りをあらわにしているのは内務大臣・ソラン。
ジョージの返答は彼をさらに苛立ちたせたようだ。
「我が領土でなければ何を狙う?…?!
まさかあの狂信者達か?」
外務大臣・リューイの高く優美な声が同意する。
もういい歳だと言うのに、彼女の容姿は変わらず凛とし彼女のようになりたいドラグーン女子は数多といる。
「それはあながちありえないこともありませんわね…。あの狂った者達…今パソナへの攻撃に容赦がありませんわ…。我らドラグーンはパソナとの友好同盟が結ばれていますし…」
「それは現実的ではないのぉ…」
魔法大臣・エスカムの声が響き場は静まりかえる。
今ではヨボヨボのおじいちゃんだが、現役時代はザルアですら認める魔導師。そんな彼の意見に皆んなが注目する。
「遠隔地からビッツ隊員を操り、更に隊員の精神に大きな傷を与える術者が狂信者の中にいるとは到底思えん…」
「それはどういうことでしょうか?!」
「ジョージ!落ち着け…」
国防長官・セトの一声でジョージは我に帰る。身を乗り出し、腰が椅子から浮いていた…。このような行動をとっている自分に驚く。その場にいた全員もジョージの思わぬ行動に驚いていた。ジョージは深々と謝り腰を下ろす。
「先ほど病院から報告をもろうた…。ビッツ隊員の命は大丈夫なようじゃ。外傷は早期の治癒魔法で大したことはなかったようじ…。しかし我ら魔道部隊が精神状態の鑑定を依頼され、診察したところ精神深部がひどいことになっておった…。ちなみに、過去の定期検査を見る限り、ビィッツ隊員の精神状態はいたって正常で、不安定状態とは皆無じゃ…」
「待ってくださるエスカム??精神深部は疲労することはあっても傷をつけることはよほどの出来事がないと無理なはずですわ…。それに加え、この世界にいる種族では瞬時に精神深部を傷つけることは無理なはずですわ。」
「そうですな。リューイ大臣の言う通り。我らを襲ったのは未知なる力なのじゃよ…」
緊張の糸が張られた。
しばらくたち沈黙を破ったのは王だった。
「ジョージ。」
「はっ!」
「先ほどお前は(敵はドラグーン領土を目的としていない)と言ったな。その根拠を教えてくれるか?」
「はい。…操られていたビッツは確実に例の来訪者を狙っていました。…それが根拠です。」
王のため息の理由は誰もわかるはずもなかったが、その顔色からして何か思い当たることがあるように感じられた。
「今回の件…。ジョージの言う通り敵は我らの領土が目的でもないし、狂信者達の売名行為でもない…完全に来訪者達が目的だろう。…思い当たることがある…。」
その場にいた者達は少しホッとした様子であった。
「では、例の来訪者達に出て行って貰えば以後ドラグーンは安全ということでしょうか?」
「保証はできないが…そういうことになる。彼らには悪いが本日中に出てもらうことにしよう。」
王の言葉はソランを安心させた。
今見でのイライラは吹き飛ばされたようだ。
けれど彼は後処理をしなければいけないことに気がつきすぐに緊張した表情を見せた。
「しかし…今回の件どう処理いたしましょうか?メディアはすでにざわめき立っております…。」
「開発中の魔法を試した隊員の不慮な事故とでもしておいてくれ。」
「妥当な対応ですわ。それでしたら、他国も特には気にもとめませんしね。」
そうして議題全てに対策案が設けられ、それぞれが速やかに行動へ移すため、会議は閉会され、暗い扉が開かれる。皆々王に一礼をし出て行く。ジョージが一礼をすると王はジョージの肩に手を置く。
「ビッツの母親に事実は伝えるが問題はないな?」
「王のお考えとあれば…」
ジョージの返答に、これから彼に起こる面倒事が浮かび、申し訳ない気持ちがこみ上げる。
ジョージは急いでビッツの元へ向かった。
荒い息を切らし、ついた部屋には静かに眠る動かない弟。
ジョージの手はビッツに伸びる。けれど触れようとした直前、手はピタリと動きを止め、伸ばすのをやめた。行き場をなくした手を顔に当てた。触れる涙。ジョージは初めて自分が泣いていることに気がついた。
悲しみが襲う。
何を恨めばいい?来訪者達か?けれども彼らがいなければビッツはそもそも助かっていなかった…。
何を?
何を恨めばいい?
はけ口の無い怒りを抱え、声を殺し泣いた。
傷の手当てを終えたキシュ達は急いでビッツの病室へと向かう。中にはいると点滴を受け、呼吸マスクをつけ、眠り続けるビッツと、その側にジョージが座っていた。
医療部隊のサポートをしていたコロッツィオが部屋へ入ってきて、状況を教えてくれた。外傷は特に致命的ではなかったが、どうも精神深部をやられたらしい。今持てる魔法では、精神の深部を癒すことはできない。このままでは一生眠り続けるようだ。愕然とした。精神の深部へ触れる魔法がないのに…ビッツを操った奴はそれをやり遂げたということになる。おかしすぎる。
「わかってるよ。キシュ。でも現実に起きてる…。でも…精神の深部に傷をつけたんだから、治すことだってできるはず。…」
コロッツィオの言葉を遮って、ビッツの名を泣き叫ぶ声が響く。皆が扉の先を覗き込む。廊下を走る女性の姿があった。
「ビッツ!!ビッツ!!!」
女性はジョージに気がつくやいなや、睨みつける。
「私の大事なビッツがこうなったのも全てあんたのせいよ!!この死神!!!」
ジョージはうつむいたまま反論をしない。
「あんたのせいよ!!あんたここから出ていって!!」
拳は強く握り締められた。
悔しい。
けど、ビッツがこうなったのは俺のせいだ。
ジョージは静かに立ち上がった。
「私の大事なビッツ…。あなたには無理だったのよ…。だから母様のいうとおりにしなさいと言ったのに…」
「ビッツはちゃんとやっていた。」
その場が静まり返る。
ジョージの言葉に怒りをあらわにする女性。
激しくジョージにあたる。
ジョージはバカらしくて聞くに値しないと感じ無視しようとしたが、その前に感情が爆発してしまった。
今回の件に関してはどれだけ自分を責めてもいい。
けれど…今までのビッツの生き方を否定するのは許せなかったし、それは絶対言ってはいけないことだと思っていた。
「あんたはビッツの努力全てを否定する気か!!こいつは自分のできる限りの努力をしたんだ!誰かの誘導じゃない!自分の足で!自分の目で見て考えて進んだんだ!!それを!それをあんたは否定するのか!!?」
女性は口ごもるも、ジョージをにらみ続ける。張り詰める空気。野太い声が緊張の糸を切った。
「ジョージ。声がでかいぞ。ここは病棟だ。」
声の主は紛れも無く王だった。
ジョージも女性も敬礼をする。
「…とは言うが、まぁいい。」
軽く笑う王はビッツの方へと向かう。
「ジョージよ、この者達に同行しグビドを尋ねるのだ。きっとビッツを助ける術を教えてくれる。」
「え?」「え?」
キシュが驚いた。
無理もない父がこの状況をどうにかできるはずがないのだから。父は確かに物知りだが、魔法の事は何も知らないはずだ。
「その方がビッツの状態をよくしてくださるのですか?」
「わからんが、何らかの解決策は出してくれるはずだ。」
「…わかりました。」
「そういうことだ。皆々方、ジョージも旅に連れて行ってはくれませんかな?」
「え…っと…。私達はかまわないですけど…父がそんなこと知ってるとは…」
「あやつは君が思っている以上の男だよ。大丈夫。それと申し訳ないのだが、本日中に…」
「わかっています!今日中に出発します。この国にこれ以上迷惑はかけれない。」
「話が早くて助かる。」
旅支度を済まし、城門でジョージを待つ。遠くからヒールの音がする。慌てて走ってるようだ。マリーとコロッツィオが目を細めて見ると見覚えのある女性だった。彼女は本を持って走ってきた。
「よかった…間に合った。」
「あなたは…」
「たしか~」
「国立魔導研究所のレビィリアですわ。それよりも…これ。」
差し出された本は紛れも無く、昨日の禁書。
マリーとコロッツィオは驚く。
「え?これ昨日の…」
「持ち出し~禁止なんじゃ~?」
「良いのです。副所長が受けた魔法は、現在の技術をもって太刀打ちできないもの。そんな魔法の使い手があなた達を襲ったということは、この先はその魔法に立ち向かえる力が必要になるはずです。…と所長が。」
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
ジョージが荷物をもってやってきた。
「待たせた。」
みんながジョージの姿に驚く。無理も無い。私服姿の彼を見るのははじめてなのだ。その場に居合わせた同胞であるレビリィアですら驚いていた。
今まで9:1で分け、整髪剤でびっしり固めていた長い前髪は全て後ろで束ねられて顔周りがスッキリし男前が映える。シンプルで動きやすい服装に女子一同うっとり。
「ジョ…ジョージ様もご一緒されるんですの?」
「あぁ。王のご意向でな。」
「そ…そうですの…。お気をつけください。」
「ありがとう。」
「そんな!滅相もありません。」
熱い視線に、戸惑うジョージ。
助け舟を出すのはキシュ。
「えーっと…いい?」
「?もちろんだ。早く行こう。」
ドラゴンの国を背に歩く。
皆の自己紹介をした後、サマーティーは相変わらず隣にきて、マリーとコロッツィオがジョージを挟む形で後ろを歩いている。
目指すは北の大地。ベルゾナッド。キシュは気合いをいれる。それもそのはずだ。ハシュベルド領といえど、レルエナの地に変わりないのだ。レルエナ…。キシュは気がついた。自分たちがレルエナに追われていることをそして、奴らは必死に奪おうとしていた…。鞄にしまっている宝珠に手を当てながらビッツとの戦いを思い出す。
ずっと口走っていた。
渡せ…渡せと何度も言っていた。
キシュは自分の考えが馬鹿らしいと思えた。
そもそもレルエナはパソナ主体の国家でビッツを操るほどの魔力など持ち合わせているはずがない。
今回の事が出来るはずがないのだ。
「どうした?」
「…何にもない。」
サマーティーの問いかけも適当にあしらう。
「なんか~寒くない~??」
後ろからマリーの声。確かに風が冷たい。
「そりゃそうだろう。北の大地は夏と言えど気温が低いからな~。ザルアの土地は常に冬だぞ?」
「え~!!そうなの??」
「まぁ、俺たちの目的地当たりで支度すれば大丈夫さ。」
「?お前達は目的地が皆バラバラなのか?」
ジョージが不思議そうに問いかけると、一斉に皆が返答する。
「あたしとサマーティーはベルゾナッド。マリーとコロッツィオはザルアの土地よ。」
「寄せ集めだったのか。」
「まぁそうね。」
「グビドにはキシュについて行けばいいんだな?」
「そうよ。父さんとはベルゾナッドで落ち合うの。」
「ベルゾナッドか…。かなり遠いな…。」
「そうなの。色々とハプニングがあって、超超遠回してるから…」
「それじゃ、近道で行くか?」
「え?」
「あの山を抜ける。」
ジョージの指差す方を皆が見つめる。高い雪山が見える。呆気にとられる。え?あの山越せないでしょ。とみんなが思った。
「あ…あの~ジョージ。あなたって冗談が好きなの?」
「寝ぼけてるのか?早くつきたいんだろ?」
「いや…でもさ、俺らマキナの血ほとんど入ってないし…」
「問題ない。身体能力はあまり関係ないからな。ただ…」
「ただ~??なになにー?!」
「覚悟は必要だぞ。あそこは魔物の巣窟だからな。」
「えー!!」
「おけおけーー!!」
サマーティー・マリー・コロッツィオの不満そうな声を無視してキシュのオッケーコールがかぶさる
「ちよっと!キシュー!!魔物だよ?戦うんだよー!しんどいよー!!」
「何いってんの?魔物の巣窟なんてチャンスだよ!お宝だよ!お・た・か・ら!」
キシュの頭は魔物を倒した際に取れるお宝のことしかない様子。
サマーティーがジョージの方を見る。鼻で笑うジョージ。
「確かにお宝の山ではあるな。なんせ滅多に人は通らないからな。」
サマーティー・マリー・コロッツィオは思った。
絶対やばい
と。




