ドラゴンの王国-7
その日の朝は相変わらず爽やかで、渓谷から流れる涼しい風が気持ちいい。
ドゴォォォォォ
「ビッツ!!!どうしたの?!なんで!!?」
問いかけるキシュの声
ビッツは聞く耳なしで攻撃を繰り広げる。
無差別に放たれる攻撃は当たりを瓦礫の山へと変えてゆく。
物凄い魔力だ。
朝。朝食をとろうと皆で話していた時、部屋にノック。扉を開けるとそこには顔色の悪いビッツが一人。キシュ達は仕切りに心配した。医療室が中庭を挟んだ先にあると宿主が教えてくれたので連れて行こうと、中庭へとでたとたん、ビッツは頭を抱え込み、脈絡もない言葉を口にしはじめた
「渡せ……離れて…く…ほ…じゅ」
その声は次第に激しい叫びに変わる。
あたりに静けさが戻ると、ビッツはゆっくりと戦闘体制へと移ったのだ。
同じ言葉を繰り返している。
渡せ…わた…せ…
なんのことか全く検討がつかない。
放たれる魔法は昨日までとは比べ物にならない。
キラキラと微笑む眼差しは死んだ魚の瞳のように変わっている。
いくら呼びかけても答えてくれない。
「ビッツ!!!!!」
声が響く。
一斉に後ろを振り向くと息を切らしたジョージとコブ。ビッツの手はピタリと止まったかと思えば、小刻みにそして大きく震え、そしてもがき、頭をうづくませる。激しい叫び声と供に静寂が消え、魔法が繰り出される。ジョージは冷静にキシュに状況確認する。
「これはどういうことだ?!」
「わからない!苦しそうにしてたらいきなり攻撃してきたの!」
「んな…ばかな…!!ビッツがそんなこと…」
キシュの説明を信じれない2人を尻目にビッツの魔法は繰り広げられる。攻撃対象はめちゃくちゃだ。キシュたちだったり、あたりの建物だったりした。城内の人々は叫び、あたりが混乱している。
「コブ!」
「わかってる!」
何も言われていないのに、コブはビッツを背にし、城内へと駆けていく。
あたりはめちゃくちゃなのに冷静に判断できる。
ジョージには攻撃の手が伸びていないから落ち着いて考えることができる。
「くそ…。」
ジョージは背中の槍を手に取る。
強く握りしめ、戦闘体制にはいる。
「ちょっ!!あんた!」
「だまれ!!ビッツを止めなければ、被害が拡大する!」
ビッツめがけ駆け出す。ビッツの魔法はジョージに焦点を変えているが、全く当たらない。すべてジョージはかわす。
おかしい。
すぐに違和感に気がついた。ビッツからの攻撃はどう考えてもおかしい。攻撃の前に指が動く。わかりやすく。その動きをみていれば、どのタイミングで魔法が繰り出されるかすぐにわかる。
槍の間合いまでつめる。ジョージはビッツの足を狙い攻撃をする。刃が振り落とされ、血と苦痛の叫びが広がる。予期せぬ事態にジョージの足は止まり、視線はビッツに釘付けだ。足の腱を確実に狙ったのに、ずれている。今まで自分の狙った箇所がずれることはなかったし、運動神経の鈍いビッツが避けるなんて到底信じられなかった。多少のダメージは与えれているが、回復魔法を唱えられると面倒だった。ビッツは攻撃はとんとダメだが、魔法は誰もが唸るほどの実力をもっているし頭もキレる。
しかし、予想に反して回復魔法は唱えなかった。これまたおかしな話だ。
考えれることは一つ。
誰かに操られている。
操っているのは誰だ?
相当な力の持ち主に違いない。ジョージは後ろにいるであろう、キシュ達に怒鳴る。
「魔力感知できるやつはいるか?!ビッツを操っているやつを探してくれ!!」
「そんなのとおにやってる!!でもいないの!!ここにはいない!」
コロッツィオがありったけの声で叫ぶ。
キシュ達がジョージのそばに駆け寄る。
「加勢してくれ…頼む。ビッツを…弟を解放するにはあいつを動けなくするしかない…」
ジョージの悔しそうな表情は、今までの態度とは真逆に感じられた。
彼は彼の出来る最善の策を考えている。
キシュはうなづき、ナイフを手にする。
それに引き続き皆が武器を握る。
物理攻撃を繰り広げる。
なかなか思う通りに当たらない。
魔法攻撃を繰り広げる。
ほとんど効果がない。
マリーは攻撃を諦め、皆の援護に回る。
コロッツィオはサポート魔法を唱える。
「女!お前は囮になってくれ。男!あんたは俺と一緒に攻撃だ!いけるか?!」
2人はジョージの作戦を了承し、互いの役割を全うするため動く。
サマーティーの太刀さばき、キシュの陽動のおかげでスムーズに攻撃が出来る。ある程度のダメージを与えられた。ビッツが両肩を掴み、頭をお腹の方へと下げる。もういい頃合いなのかもしれない。これで気絶させて、救護班に引き渡す。ジョージはビッツめがけ駆ける。直接首を狙う。
ウァァァァァァァァァァ!!!!
ビッツの叫び声に引き寄せられるかのように炎が立ち上がり、あたりを燃やす。
ジョージの身体は勝手に宙へあがっていた。身体が勝手に動く。コロッツィオの反射神経の良さには頭が上がらない。キシュ達は魔法障壁で守られているようだ。
空から下を見ると炎は消えていたが、ビッツが倒れている。着地するやいなや、ビッツのところへと駆け寄る。
「ビッツ!!ビッツ!!!」
閉じられた瞳が開くまで、必死に声を掛ける。どうか目を開けてくれ。お願いだ。心で必死に願う。
願いはかなったのか、ビッツの手がピクリと動く。
「ビッツ!!」
「にぃ……さ…!」
突然動かなくなるビッツ。痛みに耐えるためか、瞳は強く閉じられたかと思うと、すぐにゆるまった。
「ビッツ?…ビッツ!!おい!!ビッツ!!!」
冷静なジョージが慌て、頬を何度も何度も軽く叩く。コロッツィオが急いでビッツの元へ駆け寄る。鼓動は動いている。命は続いている。
「ジョージ隊長!!!」
たくさんの隊員達が詰めかける。
後ろには救護班が待機してくれていたようだ。
「ビッツが!!」
駆け寄る救護班にコロッツィオは息があることを伝えた。外傷はすでにコロッツィオが回復済みだ。乗っ取りなどがあった際、術にかかった者は精神負荷が多大である。それに加え身体にも傷があれば最悪で、その痛みは精神負荷になることは知っていた。
「素早い対応感謝します。」
全員が救護される。コロッツィオは白魔法を使えることからビッツの方へと向かって行った。
傷の浅いジョージはその場に立っていた。
いや。歩く気力が無く心が追いついていなかった。
「ジョージ…」
振り向く先にはコブ、そして長官そして大臣達がいた。
「行けるか?」
後処理をしなくてはいけない。意識を強く保たなければいけない。ジョージは瞳をつむり深く息をすう。
「わかっています。行けます。」




