始まり -1
暗闇。どこを見ても真っ暗。
雲が動いてようやく月がでてきてくれた。
薄暗い森を木から木へと器用に移動している、金髪で華奢な姿。右目は長い髪で隠れて見えにくい。キシュは父から言われた仕事の為、森を駆ける。
「1人でもいけるのに…」
右手に力が入ってしまった。
掴んでいた枝にヒビが入る音がする。
「っ!と…危な…」
左手をすぐに動かし、落ちるのを回避。
少し大きめな枝に腰かけ、地図とコンパスをポケットから取り出し位置を確認する。
一週間前のことだ。
キシュが18歳の誕生日を迎えて一月たったころ。父のグビドが仕事を任せた。今まで悪徳貴族から宝石を盗んだり、カジノ経営者の裏事情の調査だったり。大きな仕事とは言えないけど1人でもやっていた。
それなのに。
…今回はただの運びなのに、助っ人を父が頼んだのだ。キシュは大丈夫だと言ったのに、父は聞いてくれない。挙げ句の果てには、ゲンコツが降り注がれた。
月が明るい。
丸くて大きい。
辺りは静かだ。鳥たちも眠っている。
暗闇…。
森の中…。
「早く朝がこないかな…」
ぼそりと呟き、地図とコンパスを片付け、時計をみた。時間が迫っている。枝から枝への移動を再開した。
大きな岩から水が流れ、川へと注いでいる。
背が高くなかなか男前な青年は岩に持たれて時計を眺める。
「時間…だな。」
木々が騒いでいる。
ふと上を眺めると何かが落ちてくる。
青年はそれを眺めた。
華麗な着地に青年は拍手を贈る。
「腹立つ迎え方。」
キシュは苛立って青年の方へ顔を向けると、拍手が止んだ。青年は固まった。
想像をはるかに越えた現実に心底驚いている。
「なに?」
「おん…なのこ?」
青年の間の抜けた返答にさらに腹が立つ。
キシュは腰にさしていた、大きめなナイフ二刀を抜き、青年の顔に刃を向けた。
「女だからなんなの?」
「い…いや…そんなんじゃ…。可愛いなぁーって…」
突然で驚いて顔が赤くなる。
「はは!やっぱ可愛い。」
「バカにするな!」
左手が青年の腹めがけて動く。
金属と金属の擦れる音が静かな森に響く。
大剣で身を守る青年
「いい腕じゃん。でもそんなカッカするなよ。」
にこっと笑って青年は答えた。気に食わない顔のキシュは手に持っているナイフを戻す。
「腕はそれなりってとこね。ちょっとオツムが悪そうだけど。」
キシュの一言一言にキュンっとなる青年に苛立つキシュ。
「なんなのよ!あんた!!さっきから!」
「いや…か…可愛くて…」
「からかわないで!!」
今までそんなこと言われたことがないから、どう対処すればいいのかわからない。対応に疲れる。この先が思いやられる。
「はは!あっ…と名前なんていうの?」
「キシュ。」
むすっとして答える。
「俺はサマーティー。キシュを守り抜くナイトだ。」
そっとサマーティーがキシュの左手を取り軽くキスした。キシュは無我夢中にビンタを返す。
「もう!!!!やめてよ!ナイトならナイトらしくしてよ!まず、私に軽々しく触らないで!!」
「それはできるか保証できない。」
サマーティーは笑う。
指がなる。
「なにがなんでもさせてやるわ。」
「それは楽しみだ。よろしくな!俺のキ…」
腹がえぐれるような感覚。
顔に水が跳ねる。
「あんたのじゃない!!!」