ハッキム-2
今まで襲ってきていたのはレルエナの軍だという情報が正しければ、これ以上は襲われる心配はないはずだ。キシュは天井を眺めて思った。
「そうなれば、あいつらもうこないわね。」
「まぁ、そうだったらの話だけどな。今はドラグーン領だ。レルエナといえど、やすやすと手はだせないだろうし。」
レルエナとドラグーン。ともに友好条約が結ばれている、伝説によれば昔は戦争し合っていたようだ。パソナ主流のレルエナはマキナ達の領土を片っ端から奪っていたのだ。群れをなさないマキナは国を持たなかったせいで、勢力が分散してしまい、ことごとくパソナに領土を略奪されていた。危機を感じたマキナはバラバラだった群れを一つにし、ドラグーンを建国したのだ。その名のとおり、マキナはドラゴンを手懐け、軍力にした。それからは一方的な略奪は消え、勢力は逆転しつつあった、そして、暁の女帝の登場により、不可侵同盟がむすばれた。暁の女帝の死により、再び戦争は起こったが、レルエナはドラグーンに侵略はすることがなく古の契約は今もなお守られている。とのことである。それが本当かどうかわからないが不可侵条約は今もなおまもられつづけているし、2カ国間で戦いがあったのはここにある遺跡が物語ってくれている。
「しかし厄介だぞキシュ。」
「…わかってる…」
「これから嫌なやつらがわんさか来る…覚悟が必要だ。」
「そうね…強くならないといけない…」
「俺も!」
ニッコリ笑うその笑顔は心強い。
心が疼いたことにキシュは違和感を感じる。
ハッキムの朝はとにかく優雅だ。
モーニングサービスの呼び鈴がキシュ達を起こしてくれた。三人は豪華な朝食をとり、隣のサマーティーの部屋をノックした。でてきたのは、寝起きのサマーティー。まだ眠そうな顔をしてる。
「いつまで寝てんのー?」
「そーだよ~。サマーティーが朝から今後の予定たてよ~って言ったんだよ~。」
「ごめ…。シャワーだけ浴びていい?」
「早くしなさいよ。」
サマーティーは眠気を洗い流そうとシャワー室へと向かって行った。
「ね~ね。サマーティーってここに来てなんか変じゃない?」
「そう?」
「えー。おかしいよ!キシュは何にも思わないの?」
「べ…別に。」
マリーとコロッツィオは目を合わせて何かを確認しあってる。
「ど…どうしたのよ?」
「あたし~。思うんだけどね~。サマーティー女の人と会ってるよ絶対。」
「?」
「ねぇさんも思った?あたしも!」
「だよね~!だって〜昨日も夜こっそり出て行ってたもん!」
夜出歩いていたことを初めて聞く。なんか嫌な気分。でもなんでそんな気持ちになるのかわからない。
「ま…まぁ、あいつならあり得るんじゃない?」
「ねね…どんな人かな~?!」
シャワーの音が止んだ。
「あ!くる!シーよ!シーーッ!」
コロッツィオは指を口に当てる。
ズボンに上半身裸のサマーティーが髪をタオルで吹きながら出てきた。
「お待たせ。」
「いいえ~」
三人の声のあった返事とニヤニヤした顔に驚くサマーティー。
「…ど?どうかした?」
「なんにもないわよ。それより今朝ここを立つでしょ?」
「あ。それなんだが、もう少しのばせる?」
「は?…」
キシュの足をツンツンとコロッツィオが蹴っている。コロッツィオは何か企んでいる様子でこちらを見ている。キシュもそれに答えた。
「…まぁいいけど。待っても昼までよ?昼を食べたら立つわ。それでいい?」
「悪いっ!ありがとう!」
「けど~なんで、今すぐじゃないの~??」
ナイスショットな質問。
「悪い!俺個人の用事なんだ。」
キシュは朗らかな笑みを浮かべている。マリーとコロッツィオは笑いを抑えるのに必死だ。
「いいのよ。サマーティー。あなたのおかげでこんな贅沢させてもらってるんだもの、今日はあたし達、留守番してるわ!」
「キシュ…。君のそんな優しい顔初めて見た…。キスしていい?」
素早く平手が飛ぶ。
「さっさっと済ませて来い。」
三人は部屋に戻り作戦を立てた。
「こっそり後つけない?」
「まかせて、そこら辺私の得意分野よ。」
「キシュは得意だけど~、あたし達大丈夫かなぁ?」
「大丈夫よ!私の言った通りに動いてくれれば問題ないわ。」
「オッケー。それじゃ任せるわね!」
「私はばれない自信があるけど…二人は怖いわね…変装してもらおっか?」
「へ。変装?」
「まぁ、しょうもない尾行だから、イメチェン程度でいいわ。コロッツィオはウィッグつけときゃいいわ。マリーは髪型かえるの。」
「でもそれだけじゃ~ばれない~?」
「服かわなきゃ!じゃない?」
マリーとコロッツィオがニヤニヤしている。ふたりがウィンドウショッピングに夢中になっていたのを思い出す。
「そんなにお金出せないわよ?」
二人は声を合わせて喜んだ。
二人が服を買いに出かけている間、キシュはロビーでサマーティーがくるのを待った。キシュ達が出る前に確認したからサマーティーがまだ出ていないのは確実だ。
五分がたった。全員やってこない。
二分がたった。サマーティーが降りてきた。キシュはコロッツィオから渡された、紙を破き合図をだす。
サマーティーが前を通ってから五数える。…四・五。後をつける。身長が高いおかげでこの群衆のなかでも見失わずに済む。
左に曲がる。まっすぐ進む。
「キーシュ!」
小声でマリーとコロッツィオが呼びかける。後ろは振り向かない。
「ついてこれる?」
「このくらいなら大丈夫よ。」
右に曲がったここは酒場がある広場だ。サマーティーが酒場に入って行くのが見えた。
「中に入ったわね。あたし達も入りましょ!」
キシュははじめて後ろを振り向き、二人の姿に驚いた。
マリーは髪をトップでお団子にしている。服は黒のへそだしハイネックノースリーブにカーキのダボパンツブーツイン。コロッツィオはボブの内巻きカールウィッグをつけ、黒のハイネックノースリーブ(こちらはへそが隠れている)とベージュのミニスカート。そして、ニーハイブーツ。
…おいくらしたんですか?
キシュは呆れて声がでなかった。
「キシュ!あそこ!!やっぱりあいつ、女とあってる!」
コロッツィオはサマーティーを指差す。キシュはその指を押さえる。
「近くまでいきましょ。」




