ハッキム-1
キシュ達は急いで、ハッキムへと向かった。とにかく歩き続けた。昼も夜も。必死の移動。いつ追っ手がやってくるかわからない。不安のない旅ではないのだ。キシュ・サマーティは周囲に気を張る。マリーとコロッツィオは緊張した面持ちだ。疲れがたまる。途中小休憩をとるが、必ず見張り番をつけた。全員で眠るのは危険すぎる。
そんな状態が2日続いて、ようやくハッキムに到着した。ハッキムはドラグーンの最南に位置する古都で、レルエナとの国境であるがゆえ、戦いの最前線として、要塞都市へと発展した歴史がある。今はその残された要塞を見るため、日々観光客が訪れている。
名物は要塞なのだが料理も評判が高い。レルエナとドラグーンの食文化が融合した、エキゾチックな食事が楽しめる。また、娯楽施設が豊富で、ドラグーンでは数少ないカジノ保有都市でもある。
「すっご~い!今日はお祭りなの?」
「違うよ。ここはいつもこんな感じなんだ。」
サマーティは笑ってマリーの質問に答える。
「しっかし、凄いわね…。私ここにくるの始めてだわ。」
「そうなの?」
「えぇ。ここのカジノオーナーは珍しくかっちりした方なのよ。とくに問題も起こさないから、仕事はないわね。」
「おれは逆だ。ここのカジノの用心棒として、何度かきたなぁ…。」
「へ~!!」
マリーのお腹がなる。みんなにも聞こえるほどに。
「あっ。」
「無理ないよ!こんなに美味しそうな匂いがプンプンしてちゃー早く換金して、ご飯でも食べない?」
「そうね。サマーティあんたこの街馴染みあるんなら案内しなさいよ。」
「もちろん。」
キメ顔でキシュの左手をとろうとするが、思いっきり足を踏まれる。声のない叫びをあげるサマーティ。そんなサマーティをほっておいて三人は標識を頼りに歩き出す。
「あー。違う違う!そっちじゃない!こっちー!」
サマーティが三人を呼び止める。
換金の機械は街中に沢山ある。
サマーティーとキシュはそれぞれお金を受け取り、ホクホクした顔でマリーとコロッツィオの元に戻ってきた。サマーティが見当たらない。
「うふふ。結構な額!…ふふ。って…あれ?あいつどこいったの?」
キシュの言葉にマリーとコロッツィオも辺りを見渡す。するとキシュの後ろをサマーティーが歩いているのが見えた。
「あんたどこいってんのよ?!その年で迷子とかやめてよね!!」
「悪い悪い!」
笑って謝るサマーティー。
「それじゃご飯にいこ~!」
「あ。俺ちょっとよりたいとこあんだ。」
キシュの顔が歪む。
今離れる?サマーティーは何を考えてるのかわからなかった。
「サマーティーがいなくてもあたし達どうにかなると思うし。敵もここでは何もしないんじゃない?」
コロッツィオの言葉はもっともだと思える。確かにこの人混みで何かやらかせばただ事ではすまないだろう。必ず治安部隊は動くはずだ。キシュは納得した。
「まぁいいけど。どうやって落ち合うのよ?」
「この先に、モンドリュフってホテルがあるんだ。そこで落ち合うでいいか?」
「オーケー」
サマーティーは換金したお金の3分の1を受け取り、人混みへと消えて行った。
「さて。私たちはご飯でもしよっか?」
「わ~い!」
三人は街の中心部をブラブラする。屋台が多い事。ちゃんとしたレストランに入るつもりが、誘惑にまけ、一人15ディーラ分ご飯を買い、ベンチで食べることになった。それぞれが別れる。ほんの少しの間だから、心配もない。
キシュは鳥肉の串焼きとサラダをさっさと買い戻ろうとした。ふと右をみると酒場がある。財布には残り1ディーラと800クローナある。余裕で一杯は呑める。情報収集も含め入って見ることにした。
爽やかな雰囲気の呑み屋で、客層も色んなのがいる。手前は立ち飲みの雰囲気。二階はテーブル席があるようだ。カウンターで、甘くてアルコールの少ないベルーナを一杯頼み、あおる。あちこちから喋り声がきこえる。
この頃テルマの上空に魔物がとんでて、ドラグーンへの航空便が欠航になっていると言った内容がほとんどだ。今ドラグーンの兵士が討伐にでているらしい。中々苦戦しているらしいぞ。とも聞こえる。ベルナを飲み干し、マリー達にもお土産にと、別売りのベルーナを買って帰った。
ベンチにはマリーとコロッツィオがお喋りをして待っていてくれた。
「遅いよ~!!」
「ごめんごめん!」
「ん?キシュお酒呑んだ?」
「あ。匂う?」
「ちょっとね。」
「これお土産。」
2人にベルーナを渡す。物珍しそうに受け取る2人はさっそくふたをあけ、匂いをかいでみる。
「なにこれ?!バラの香りがする!」
「いいでしょ?凄い呑みやすくて、私のお気に入りなの。」
ゴキュゴキュ飲むマリー。
「美味しい~!!」
「みんなは何を買ってきたの?」
「あたしは、シリシリってご飯とフルーツ買ってきたわ。」
「あたしは~、ドーナッツってのとフルーツジュース買ってきたよ~!」
「え?マリーそれお菓子…。」
「あ!…あははは。ごめんね。ついつい…。」
三人はお腹を見たし、街をウロウロしてみた。この街には武器屋・防具屋はあまり見当たらない。
その代わりアクセサリーやアイテム屋が多かった。三人でウィンドウショッピングを楽しみ、サマーティーの言っていたホテルへ急いだ。大きくて、ゴージャスなホテル。呆気にとられる。
「すごいねぇ〜。」
「こんな素敵な建物あるんだー!」
「こんなの金持ちしか泊まれないわよ。あたし達には無縁ね。」
そこにサマーティがやってくる。
「あ!サマーティー!おかえり~」
「ただいまー。」
そう言うとスタスタとホテルの中へ入っていくサマーティー。女子一同パニック。
チェックインしてみると、すんなり部屋へ連れて行ってもらえた。部屋はとても広くて綺麗だ。バルコニーから、街を見渡せる。5階建ての最上階に位置するこの部屋からの景色に興奮が止まらない。
「ちょっと!!これどう言う事なの?ここに泊まれるほど、あたし達の財布に余裕はないはずよ。」
「金のことは気にしなくていいよ。俺の友達の奢りだ。それにセキュリティも万全!」
「は…?友達?奢りって…あんた…」
なんとも言えないが、ただで泊まれるということでどうでもよくなった。しかし…一体どんな友達を持ってんだろ…と不思議に思った。
「マリー・コロッツィオ。悪いんだけどちょっとキシュと二人にしてもらえないかな?」
「?いいわよ。」
「それじゃ〜、下にあったカフェに行こうよ~!」
「えー!あたしライブラリに行きたいー!」
「ここの本はカフェになら持ち出し可能だよ。たしか。」
「ホント?それじゃ行こっか!」
「行こ~」
2人はルンルン気分で部屋を後にする。2人を見送り、サマーティーはアメニティーのコーヒーをいれだした。
「どうしたのよ?」
「この間俺たちを襲ったやつに着いてちょっと探って見たんだ。」
「なにかわかったのね。」
コーヒーカップが渡される。キシュは砂糖もミルクもいれずに飲む。サマーティーはミルクをいれて飲む。
「どうも嫌な感じなんだ。あいつら、レルエナ帝国暗部の可能性が高い。」
「レルエナ帝国?あいつらがこの石を狙っているの?」
「そうみたいだ…。この石がそんなに価値の高いものだとグビドからは聞いていない。キシュは?」
「私もよ。ただ…」
「ただ?」
「大切なものだって言ってた…それに…」
「それに?」
「確かに父さん…楽な仕事とはいってなかったわ。」




