魔法使い姉妹-3
静かな森の中。朝焼けの中を1人の女性がお腹を抱えて、ゆっくりと歩いている。
「カルティア!こっちに!」
モドガノフの声がした。カルティアは少し急ぎ足で、声の方へと向かう。モドガノフの背中が見える。何かみつけたのだろうか。カルティアが覗き込んだ先には生後何ヶ月かの赤ん坊がスヤスヤと眠っている。
「あ。あなたこれ…」
「さっきの魔力を辿ったらいたんだ…。どういうことだ。」
「瞬間移動の魔術…かしら?誰かがこの子をここに?」
「そうなるな。時空魔術となると相当の魔術師だ。しかし…なぜ?結界をくぐり抜けれたんだ?」
モドガノフの腕に包まれた赤ん坊はフニャフニャと笑う。赤ん坊の笑顔は2人の困惑を追い払った。
「これも何かの縁だわ。私達で育てましょう。」
「そうだな。お腹の子の遊び相手にもなるな。」
2人は赤ん坊を連れて家へと向かった。
赤ん坊を包んでいた布はとても立派なレースの白い布。その布にはMaryの文字が刺繍されていた。
「マリーを包んでいた魔力からザルアだとすぐわかりました。外見もそうです。…我々の種族でも稀にブロンド以外の髪色の子は生まれます。死んだ妻もブロンドではなかったから、なんとか周囲をごまかせたのですが。」
「秘密にしているの?」
「えぇ。皆ザルアを恐れているのです。なにをされたわけでもないのに…皆過去に脅かされているのです。無理はありません。私達はそう育てられましたから。」
「そう…だったんですか。」
サマーティーはえんぴつの動きを止めた。
「マリーはザルアですが、大切な私の娘に変わりはありません。今じゃマリーの力で私達は守らているもとうぜんですし。」
「?」
「おねーちゃんの不思議な魔術と私の白魔術で森の結界を複雑にしてるのよ。はい!ご飯のしたくができたからこっちへどうぞ。」
コロッツィオは元気に笑って皆を食卓へと誘導する。
「あ。と〜さま。結界なんだけどね〜。全部ダメになっちゃってた〜。」
マリーがカトラリーを配りながらモドガノフに報告する。キシュとサマーティーは肩をすくめ身を縮める。
「だからね、あたしの結界でとりあえず外側だけに結界張って置いたけどよかったかな?ほんと…ナイフ一差しで全壊なんてありえないわ。」
コロッツィオがチラリとキシュをみる。
更に縮こまる。
「これ。コロッツィオ。口を慎みなさい。お2人とも気にしないでください。結界は応急処置で大丈夫だよ。来訪者は数年に1人か2人だしね。」
「数年に1人か2人の来訪者に乾杯。」
モドガノフは笑って乾杯する。グラスの響き合う音。コロッツィオとマリーの笑い声。2人は苦い笑い。食事中は主にマリーのドジ話で盛り上がった。やだ~と言いながら、持っていたグラスを口に運ぼうと傾けていたのに、ボタボタこぼし、真性ドジを披露してしまっている。キシュはこんなに笑ったのはいつぶりだろうか?と考えた。食事を終え、夜はふけていった。キシュはコロッツィオとマリーの部屋へ。サマーティーはモドガノフの部屋で寝ることになった。
「キシュ!外の世界ってどうなってるの?」
「え?あなた達外にでないの?」
キラキラする視線。
「うん…。あたし達ずっと森から森へ移動だから。街へは極力魔力の弱い人達が行くの…」
「そうなんだ…。外か…」
キシュはいつもの生活を考える。森の外の世界…。平和。平和と主張しているけど、結局は金と暴力で世界は回っている。皆、汚いものに蓋をしてその上で笑って暮らしている。それは何よりも皮肉で愚行だ。キシュはモドガノフに偉そうに(皮肉)と言った事を恥じた。
マリーが心配そうにキシュを呼ぶ。
「ごめんごめん。森の外は外でいい事もあれば悪いとこもあるよ。」
「そうなんだ~。ってよくわかんない!」
「どこ行ったって何にも変わんないってことだよ。」
2人はふーんとあまり納得していない様子。
マリーが少し必死にキシュに質問をした。
「ねぇねぇ…キシュはザルアってみたことある??」
「それが私も無いんだ。」
ザルアは滅多なことが無いと自国からは出ない。そもそも彼らの国は鎖国状態が長い。噂では好戦的でついこの間まで内戦が続いていた。
「そっか…」
がっかりするマリーをなだめ、そのあとは取り止めのない会話。夜も更けてキシュはフカフカのベットに入るなり眠ってしまった。
今日はいろいろあった…。いやありすぎた。
安堵が染み渡る。
広い書斎。地図を広げ、本を積み重ねた机に向かう男がいる。机を照らすランプが緑色になった。
「どうした?」
「失礼いたします。例の反応を大陸北西で感知しました。」
「何?本当か?」
「はっ。数分だけだったのですが、間違いありません。」
「何故今になって…?まずは偵察を。可能なら殺せ。」
「はっ。」
ランプの炎は元に戻っている。
「よりによってこの時期に現れるのか…。どれだけ私の邪魔をすればすむんだ。」
真っ黒のローブに身を包んだ男の手に力が入り、筆が折れる、男は手に残った筆を床に投げつけると、筆は炎に包まれ灰となり消えた。




