プロローグ
暗闇をかける二つの影。
音をひそめ。かけぬける。
一つの影がとまる。
「どうしたんです?イサラ様?」
白い肌。花びらのような柔らかな唇。そして濁った青の長い髪。瞳はゴーグルのせいで見えない。
年は10代半ばだろう。
東北の方に目をやるイサラと呼ばれる少女。
「この辺りで変…な力を感じます。」
イサラの横に青年が立った。
眼鏡をかけ、フードつきのローブを羽織り、スカートのような布を巻いている。イサラとは対象的な黄土色の髪。
「…私には全く感じられませんが…」
「気になります…。」
「…ソーサーの血がそうおっしゃっているのですね。仕方がありません。ターゲットから少し離れますが、任務には影響しないでしょう。」
「ありがとう。クーゼ」
二つの影は進む。
進路を変え。
音をひそめ。
闇をかける。
走る。走る。
何かに追われている。
逃げなければ。
逃げなければ殺される。
キシュはがむしゃらに力の限り走った。
逃げなければ。
追いつかれる逃げなければ。
朝日がキシュを照らした。
そこはいつもの寝床の上。
使いふるした布団の上。
キシュは部屋をでて隣のバスルームへ向かった。
夢。
なんだったんだろう?
私は何から逃げていたんだ?
私は何に追われていたんだ?
身震いする。
考えてはいけない。
何も考えてはいけない。
本能が叫ぶ。頭が割れそうだ。