第四章『世治会』
第四章 世治会
七月二十六日十二時二十五分
「山井のヤツ、意外とあっさり吐いてるみたいだな」
「へぇ、そうですか」
俺は隣にだらしなく座ったキリュウさんに、目を合わさないまま憮然として答えた。
あれから三日が経ち、俺たちは街の中心部の公園にいた。昔は電波塔として機能していたタワーがシンボルで噴水なんかもある割と大きな公園で、そこで売っているアイスを食べようとみんなでケイさんにくっついてきたのだ。
あの日アイス買うと言って忘れていたのと、助けてくれたお礼だということでケイさんのおごりだ。
彼女は今、少し先のプレハブの店までアイスを買いに行っていて、ベンチに俺とキリュウさん、ナコさんとリイチさんという組み合わせで二つ並んだベンチに座っている。人数的に一つのベンチで十分間に合うのだが、相変わらずの炎天下ではそれは地獄だということを誰かが言ってこの形に落ち着いたのだった。
「でも、私達のこと言ってないかなぁ」
「それは大丈夫だと思うよ」
不安げなナコさんにリイチさんが笑顔を向ける。
「功刀君は僕の電話番号を『リイチさん』と登録していたから、本名はばれていない。あとあの場で出た名前はキリュウジンとオビワンというものだから問題ないよ」
「警察も相当ヤクでキテると思っただろうしな。『オビワンにやられた』なんて言っても、警察はヤク中のスターウォーズバカの戯言だって判断するに決まってる」
キリュウさんが言うと、ナコさんは『あんな状態』という言葉に反応して笑った。あの時はナコさんが右耳、俺が左耳の釘を体育館の床に打ちつけた。おそらく怒り任せに打ち込まれた左耳の釘は取るのに苦労したことだろう。
「じゃあ、山井と私たちはあの日一切関わってないってコトになったのね」
「そういうことだ」
ナコさんの言葉にキリュウさんが頷く。
山井を打ちつけた後、俺たちはすぐにあの場を立ち去った。その車中でリイチさんが警察に電話をしたのだ。その時は色々とまずいと思ったが結果的には、俺たちにはなんの影響もなかったというわけだ。
色々というのはもちろん、連中と関わりを持ったことで警察にあらぬ容疑をかけられないかということもあるが、俺としては学校側のことがある意味で心配だった。警察沙汰にならないようにと言われていただけに、この件が公になると俺たちも退学など何らかのペナルティを被るのではないかと思ったのだ。
でも今三人が話していた理由により、俺たちは彼らに関わっていないということになった。警察の捜査の手がこちらに伸びてくることはなかったし、学校も何も言ってこないところをみると、俺たちに依頼こそこなしたが結果的に関わっていないという見解に留まったようだった。
「ってわけだからよ」
キリュウさんが俺の背中を叩いてきた。
「いい加減機嫌直せって」
「ということは、みんな俺の機嫌を悪くしたという自覚はあるんですね」
少し早口で言って息をついた。
「まあ、知ってて言わなかった私たちも悪かったけどさ。あくまで自然にいかないとケイさんも動いてくれなかっただろうし」
言い訳のように言うナコさんだったが、実際のところは彼女の言う通りだった。
結論から言うと俺は作戦の全てを知らなかったのだ。聞いていたのは隙を見て僕が山井を倒すというところまでで、その後の部分とそれを成功させる因子については後になって聞かされたものだった。
まず先にその因子の方から言うと、ケイさんはテコンドーの経験者で、それもかなりの使い手だったということが挙げられる。
言われてみれば、本蔵に行く時に蹴ったサッカーボールはとんでもない飛距離を出していたし、大きめのソロペットやロングスカートばかりを穿くのもテコンドーで鍛えられてしまった脚を隠すためだと思えば納得できる。
そしてそんなケイさんという因子を利用したのが作戦の後半部分である。襲撃に失敗した俺に注意が向いている間にケイさんが山井を倒すという、言葉にしてみれば簡単な作戦である。
状況を利用した俺の不意打ちと、人質という立場を利用しての心理的隙を利用した不意打ちの二段構えの作戦、と言えば聞こえはいいが結局のところ俺は捨て駒扱いだ。
ケイさんは鍛えてしまった脚のためかどうかは知らないが極力テコンドーを出さないようにしていたらしく(普通に生活していれば出ないとは思うが)、それを突発的に出させるために俺のピンチが必要だったのだという。つまり『使わざるを得ない状況』が必要だったのだ。
ケイさん曰く、二発目の蹴りは作戦の意図を理解した上でのものだったけど、一発目の蹴りは反射的に出たものだということだったので、その目論見は大成功と言っていいだろう。
だから俺は勝利のカギだったのだ。
結局のところ俺は何も理解していなかった。
カギとは何かを開けるためのもので、それ自体になにかあるというわけではない。つまり勝利にカギと言われた俺は勝利を手に入れるために必要だっただけで、決して俺自身がヒーローになるという意味ではないことを全てが終わってから理解した。
「もちろん小尾君の攻撃で済んでくれればそれがベストだったんだよ」
リイチさんがフォローするように言った。その口調は言い訳のようには聞こえず、ただ淡々と本心を語っているといった感じだったので、俺はこれ以上噛み付くことはできなかった。代わりに、
「俺には決め手なんて似合いませんよ。そういうポジションですからね」
自嘲気味に言っておく。そんな俺を見た三人が顔を見合わせて小さく吹き出した。
どうせバカにしてるんだろ。いいよいいよ、どうぞ好きにしてください。ますます気が沈んできて大きなタメ息を吐こうと思ったがしかし、そんな卑屈な気持ちは次の瞬間に吹っ飛んだ。
「いやいや、今回の決め手は間違いなくお前だぜ」
「え」
俺は首を傾げた。皮肉のつもりかと思ったけど三人ともそんな様子ではない。
「どこがですか?」
「車の中の最後の二択だよ」
尋ねるとリイチさんがチョキにした手を振った。車といえばバンパーが無くなり、ボンネットがべコベコになったスポーツカーはあの後牧さんの後輩という人が回収に来た。あの泣きそうな顔はしばらく俺の頭から離れそうもない。
「あの最後の二択。あれこそが今回の決め手だよ。そしてあの結論を出したのは君だ」
なぜか全身の力が抜けた。あの場面での俺を――あの推理が今回の事件の決め手だったといってくれたのだ。嬉しくないはずはない。
いや、推理自体を認めてくれたことも嬉しいが、本質的なところはそこではない。
俺はまだ世治会に入ってから三ヶ月ほどで、何をするにもどこかみんなと一体になれていないような気がしていた。もちろん彼らはそんな風に考えていないだろうとは思っていた。けれどやはり彼らの持つ一体感のようなものの中に自分が入りきれていないという思いがあったのだ。
でも今のみんなの笑顔を見ていればそんなことはないと、胸を張って言える。俺も一体感の中にいるのだ。
――多分、ここまでの話で終わっていればそんなことも思えただろう。
「君の強運には助けられたよ」
リイチさんの一言が俺を現実に引き戻した。ちょっと待て、強運って……。
「何を言ってるんですか?」
あれは運なんかじゃない。俺が限られた情報から推理して導き出した結論じゃないか。
「オビワンは今日のニュース観てないの?」
ナコさんが小首を傾げる。今日は一講目から授業だったからニュースを見る時間などなかった。
「なんかね、山井の麻薬の件は市とまったく関係ないってことが警察から発表されたんだってさ」
「それが……」
言いかけて口を止める。俺は牧さんから山井と市が関わりがあるという情報から、市立であった神郷小学校に山井がいると推理したのだ。でもその情報が間違っていたということは――
「山井はたまたまあの場所をたまり場にしていたんだ」
リイチさんの一言に俺は心臓を貫かれたみたいに動けなかった。結果的に合っていたかいいものの、もし間違っていたらと考えるとぞっとする。
「まあ、アレだ」
さすがに見かねたのか、キリュウさんが俺の肩に手を置いた。
「お前が神郷小学校だって言ったから、リイチさんはあの足音が体育館の床のものだって気付けたんだからいいじゃんか」
「それは失礼な言い方過ぎるよ。オビワンだってしっかり活躍したかったんだよ。こういう子はただでさえそういうチャンスが少ないんだからさ」
ナコさんが失礼の上塗りをするのを聞いて、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
確かにリイチさんが足音に気付けたのは俺が神郷小学校という言葉を発したお陰かもしれない。でも気付いたのはリイチさん自身であって、どんなに過大評価をしたとしても俺はその手助けをしたに過ぎない。
俺はあの日のポジション云々のくだりを思い出した。あの時嬉々として自分のポジションを、大事な場面でのバックアップなどと言っていた自分がなんだか滑稽だ。
まさにその通り。世治会における俺のポジションはワトソン君なのだ。そういう意味では、俺は完全に世治会の一員であると言えるだろう。
「お待たせ」
のんびりした声と共にケイさんが戻ってきた。五本のコーンアイスを器用に指の間に挟んでいる。
「すごいですね」
「私お裁縫得意だから」
俺の呟きに、理由になってそうでなっていないようなことを答えながら、それぞれにアイスを配っていく。
みんなそれぞれ色が違っていて、俺はオレンジ、キリュウさんは黄色、リイチさんは白、ナコさんは水色で、最後に残ったピンク色のアイスを持ってケイさんはナコさんの隣に座った。
「それじゃ、食べましょう」
ケイさんが笑ったので、みんなで声を合わせていただきます、と言ってからアイスを食べる。
「んん~おいしー」
ナコさんが子供のように脚をバタつかせる。さすがに彼女のようなリアクションは取れないが、この暑い日に食べるアイスは格別だった。みんな満足そうにアイスを食べている。
「ここのアイス屋さんは、有名なチェーン店から独立した人がやってるからおいしいのよ」
ケイさんが解説してくれるが、聞いていたのは俺だけだった。みんなアイスに集中している。
それに気付いたケイさんが俺のほうを見て小さく肩をすくめた。そのなんとも可愛らしい仕草に体温は一気に十度くらい上がった。
あれは反則だろう。再びアイスに視線を戻したケイさんを思わず見つめてしまった。
「で、オビワンよぉ」
そんな幸せの中に土足で入ってくるキリュウさん。彼はなぜか顔を近づけて小声で話しかけてくる。俺はなるべく不満が顔に出ないように気をつけながら、それに答えた。
「なんですか」
「お前、ケイさんが山井を倒したの近くで見てたんだよな?」
そこを掘り返すか。そんなのは結局何もできずにケイさんに醜態を晒した嫌な思い出ででしかない。さすがに今度ばかりは何も言わずに黙っていることにする。しばらくそうしていると、キリュウさんは何とも言えない笑みを浮かべて更に声を小さくして言った。
「ケイさんのパンツ見えたか?」
「なあっ!?」
俺は思わず声をあげて立ち上がった。そのはずみで手に持っていたアイスが地面に落ちてしまった。
「あーあ、もったいないな。フォースでも無理だコレ」
ナコさんがコーンをバリバリかじりながら咎めるように言ってくる。地面に突き刺さるようにして落ちてしまったアイスを見て俺はどうにか平常心を取り戻した。そして改めて思い出してみる。
あの時は何がなんだかわからず混乱状態だったが、確か最後にケイさんが山井にハイキックを打ち込んだ瞬間に白い――
「大丈夫、オビワン君?」
「うわっ! ごっごごめんなさいっ」
いつの間にかそばに来ていたケイさんに驚いて、俺は飛び上がった。考えていた内容が内容だけに謝罪する以外の行動が浮かばない。しかし当然ケイさんにそれが伝わることなどなく、彼女はそんなに謝らなくていいわよと微笑んでくれた。本当にごめんなさい……。
「新しいの買ってあげる」
「え、そんないいですよ」
「遠慮しないの」
ケイさんが言うと、後ろでナコさんとキリュウさんが声をあげた。
「なら私もほしいな」
「俺もおかわりっす」
「……あと一本ずつで終わりよ」
さすがのケイさんも少し呆れ気味に言う。
「じゃあ、持つの手伝ってね、オビワン君」
「え」
答える暇もなくケイさんはすたすた歩いていってしまった。俺は背中によろしく~と間延びした声を受けながら彼女に続いた。
ケイさんはついていくのが少し大変なくらい早足で歩いていた。なんだか様子がおかしい気がして、声をかけようと思ったのと同時にケイさんの歩調が戻った。
「ケイさん?」
俺は小走りで追いついて横に並んだ。でもケイさんは微笑むだけでなにも言わなかった。
やがてプレハブの店のところまで来ると、カウンターでアイスを注文した。話すタイミングを失った俺は、カウンターから一歩下がった位置で店員がアイスを作るのを眺めていた。
「私ね」
ケイさんが振り返らないままで言った。
「あの時はてっきりキリュウ君が突っ込んでくるものだとばかり思ってた」
「はあ」
俺は突然振られてただ生返事を返すことしかできなかった。体育館でのことだということはわかるが、なぜ今そんなことを話し出すのかがわからない。
「でも、来てくれたのはオビワン君だったよね。あの危険状況の中で」
「いや、あれは……」
口ごもってしまった。あの作戦を考えたのはリイチさんだし、俺が行くことになったのは、キリュウさんは相手の目をひきつける役目があったし、ナコさんとリイチさんでは小さすぎ大きすぎで目立つため、消去法で中肉中背の俺に役割が回ってきただけだ。決して勇気を出して立候補したわけじゃない。むしろ最初は少し嫌がっていたくらいだ。
「わかってる」
背中越しにケイさんが笑ったのがわかった。
「たまたま割り当てられた役割だったってことくらい。でもオビワン君は来てくれたじゃない。断ることもできたはずなのに」
確かに無茶を言えば断れないこともなかっただろう。でもケイさんを助けるためを考えると、断ろうなんて選択肢は俺の頭の中にはなかった。
「だから」
店員からアイスを受け取りながらケイさんは溜めるように一拍置いた。それからクルリと振り返るとアイスを俺に差し出して笑った。
「すごく嬉しかったよ」
「あ……」
それ以上言葉が続かなかった。反射的にアイスを受け取りながら、俺は彼女の笑顔に釘付けになっていた。どこからどう見ても正真正銘完全無欠に綺麗なその笑顔……もしかしたらこれはチャンスかもしれない。今ならみんなもいないし。そうだ、千載一遇のチャンスだ。
言うしかない。
「あのケイさ――」
「あら、みんな」
なけなしの勇気はその一言によって見事撃沈。俺の方を見ていたはずのケイさんの視線は、いつの間にか俺の後ろに向いていた。振り返るとそこにはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるキリュウさんとナコさん、そして困ったような顔のリイチさんが立っていた。
「どうしたんですか?」
なんとか声を裏返すことなく言えたが、実際のところかなり動揺していた。
「ケイさんはさっき五本のアイスを余裕で持ってきた」
キリュウさんが腕を組んで言うとそれにナコさんが続いた。
「それなのにオビワンにアイス持ちを頼むのはおかしい!」
「と、いうようなことを言ったら追跡だ、となってしまってね」
最後に無理矢理引っ張ってこられたらしい弱り顔のリイチさんが締めくくる。
「何が狙いなのだ、ケイさん!」
ナコさんが立てこもっている犯人に言うみたいにケイさんを問い詰めた。ケイさんはなんでもないわよ、と笑いながら僕の横を抜けていくと、ナコさんとキリュウさんにアイスを手渡した。
取り残された俺は、あっさり餌付けされたキリュウさんとナコさんを見ながら大きなため息を吐いた。
告白のチャンスが一転、これは脈ナシと見ていいことを再確認するハメになってしまった。さすがにがっくりきてしまい、俺は視線を下に向けた。するとあることに気がついた。
さっきもらった俺のアイスが二段重ねだったのだ。しかも僕が頼んだオレンジの上にさっきケイさんが選んでいたピンクのアイスが乗っている。
わざわざ二段重ねにしてくれただけでも、俺が助けに行ったことを喜んでくれていることがわかるのに、自分の好きなアイスを重ねてくれた……もしかしたら味を選ぶのが面倒でさっき自分が選んだ色を適当に選んだのかも知れないが、それでも俺に小さな希望を抱かせるには十分だった。
俺は沈んでいた気持ちをかなぐり捨てて空を見上げた。真っ青な空に輝く太陽が浮かんでいる。アイスを持っていないほうの手で影を作るとじっと太陽を見つめた。
そうだ、焦る必要はない。のんびり行けばいいじゃないか。だって夏はまだ――
「『夏はまだこれからだ』とか考えてんだろ?」
「か、考えてませんよっ」
キリュウさんに思考を読まれて、俺は慌てて否定した。変なところで勘がいいからタチが悪い。
「ん? なんでお前だけ二段アイスなんだよ」
キリュウさんが俺のアイスを見て口を尖らす。
「ホントだ。ずるいぞオビワン」
ナコさんまでそんなことを言い出した。キリュウさんは寄越せよ、と言いながら俺のアイスを奪おうとしてくる。
「嫌ですよ」
アイスを守りながら逃げようとしたが、先回りしたキリュウさんにヘッドロックをかけられてしまって身動きが取れなくなってしまった。
「よし、犯人確保ってか」
キリュウさんの得意げな声が頭の上から聞こえる。視線の先では再びナコさんがケイさんに詰め寄っていた。
「さあ、どうしてオビワンのアイスだけ二段なのか白状しなさい」
「白状なんて……手伝ってもらったからよ」
「みんな、店の前で騒いだら迷惑だよ」
リイチさんがパンパン手を叩いた。
その時、俺は不意に思った。
もしかしたら地域経済同好会から世界地下経済研究会へと名前を変えたのは――世治会としての活動を始めたのはこの人達からではないのだろうか。ふとそんなことが頭を過ぎった。
本人たちは先代がやったことだと言っていたし、理由も根拠もない。
でも、なんとなくそう思った。
「どうした、オビワン」
急に大人しくなった俺を不思議に思ったのだろう、キリュウさんがヘッドロックを解きながら聞いてくる。
「なんでもありませんよ」
俺は半眼でそう答えた。
「さて、みんなちょっといいかな?」
リイチさんが絶妙なタイミングで口を開いた。
「今回の依頼は学校側からしてみれば『消えてしまった』ということになる。そのためかどうかはわからないけど、昨日また新しい依頼があったよ」
「まったく、こっちが疲れてるのわかんないのかねぇ」
「バーカ、当たり前じゃない。学校側は私達が山井の件に関わったの知らないんだからさ」
わざとらしくタメ息をつくキリュウさんに、ナコさんが言う。
「バカとか言うなよ、イコールネクタイ」
「変な単語作るなっ」
「ちなみに」
そう言って、ぴしゃりと二人に割ってはいるリイチさん。俺たちを見回してから再び口を開いた。
「詳しくは後で話すけど、相手はかなり周りに迷惑をかけているような人間らしいんだ。だから僕個人としてはこの依頼は相手を学校から追い出して終わらせるべきじゃないと思っている」
「世治会としての仕事ってことね」
ケイさんが顎に指を当てる。
「それでも、受けるかい?」
その言葉に残りの全員がほぼ同時に頷いた。一体どこに反対する理由があるのだろうか。リイチさんがああ言っている。いや、人に迷惑をかけるような悪い人間がいる。なら俺たちが――世治会がすることは一つじゃないか。
俺たち五人は顔を見合わせて小さく笑った。そして誰からともなくこう言った。
「それが世治会の仕事でしょう」