縷璃姫莉緒とトラ柄猫:何でいっつも逃げるのよ!!
動物を飼うというのは不思議なもので
今まで僕は犬派だったのですが、2年ほど前に猫を
飼い始めてから 一位 天(うちの猫) 2位 犬 3位 ほかの猫
となってしまいました。
この『縷璃姫莉緒とトラ柄猫:何でいっつも逃げるのよ!!』には
僕の猫への愛情が溢れて染みついています(言い方汚っ!)
では、本編をどうぞ。
あたし、縷璃姫莉緒は小学4年生。
100メートル走9秒台、IQ200越えの超ハイスペック少女。
髪は金色でショート、左のこめかみにつけてる猫のヘアピンがチャームポイント!
肌は透き通るような白で、誰もがうらやむような
完璧な容姿を持っているわ。
短所を一つ上げるとしたら、
まだ十歳だから
身長が140cmほどしかないことかな。
そんな完璧美少女のあたしを、
このあたしという超生物の手を、
「GUUUuuuuu! にゃぐッ、にゃぐッ!」
ただの猫畜生が思いっきり噛んでやがる。
おっと、猫畜生という表現はよくなかったわね。
紹介するわ、こいつはあたしの飼い猫 虎龍2歳♂よ。
完璧美少女のあたしにふさわしいかっこいい名前でしょ?
模様もトラ柄で、顔には四分の一右目付近のみに模様がついていて
まるで眼帯をつけてるみたいなの、素敵だと思わない?
その虎龍が、今あたしの前腕に歯をへし折らんばかりに嚙みついている。
まぁ、分かってるわよ、甘噛みでしょ?
完璧なあたしに甘えたい気持ちは分かるけどもうちょい甘えかt
痛い痛い、もげる、もげるって!
まぁ、こいつが噛みつくときの思考回路は
経験則から理解している。
脱走前のサインだということを。
こいつはあたしに思いっきり噛みつき、終わったのを合図に
玄関に猛ダッシュして自分でハンドル式の取っ手を回し
外へ逃げ出すのだ。
「GUUUUUuuuuu! bat!」
お、噛み終わった。てか今batって言った?
batって言わなかった!?
あたしの静止を振り切り、虎龍は
玄関まで猛スピードで向かっていく。
でもあたしは慌てない。なぜかって? それは
今までの経験から学び、玄関にカギを施したのだ!!
貴様のぷにぷにの手では開けられまい!
※これを人はフラグと呼びます
あたしは虎龍を連れ戻そうと
歩いて玄関まで向かった、すると
なんと、あの虎龍があたしのもとに歩いてきたのだ!
涙が出ちゃう!
「おー、よしよし。かわいい奴め、ツンデレモンスターめ!
排他的殺戮マシーンめ!! でも、なんで後ろ向きなの?」
不思議に思ったとき、虎龍は顔だけこちらに向けた。
そしてフッと鼻息を吐きだし、
またくるっとドアの方へと向き直った。
まさかと思いあたしはドアの方へと目をやる。
するとなんと、上下で二つあるうちの一つ、
下のカギが何者かの手(たぶん虎龍)によって開けられていたのだ。
気づいたが遅し、猫はとびかかったあたしの手に触れることもなく
長方形のガラスから外の光を反射させている玄関ドアの方に突っ込んだ。
そして...跳んだ。
虎龍はドアのレバーの所に両手でぶら下がった。開かない。
「ふはは、そうだ! そのドアにはまだカギがかかってるんだ!!
貴様のそのぷにぷにの手で上のカギまで開けられるものか!!
HA-HAHHAH…! なーにぃ!?」
虎龍は、まず懸垂で上体をレバーの上の方までもっていった、
そのまま片手に持ち替え、なんと! もう一方の手でダイヤル式のカギに
猫パンチを食らわせたのだ!! そして、
ガシャン! タタタタタタタタタっ
外の世界へと走り去っていった。
それはもう、某手塚作品で少年が外の世界に
崖を登ってかけていくラストシーンのように。
「っ…! まてーーーーーーーーぇぇ!!」
まだ脳内再生されている
少年の後ろ姿の影響で熱くなる
目頭を押さえながら、
あたしは虎龍のあとを追いかけた。
あたしは忘れていた、追い込まれたときに発揮される
奴の爆発的なパワーを! 潜在的舐めプ気質を!!
虎龍は100m9秒台(以下略 のあたしと同等のスピードで
あたしの10mほど前を走っていた。
そして目の前の分かれ道を右に曲がった。
占めた! あたしもそれをなぞって右に曲がる。
思った通りだ。
「観念しろ虎龍!! この道路の先にはなぁ、
なぜか2メートルほど下って上るだけという
意味不明の階段があるのだ!
そして水はけも絶望的に悪い!!
だから一昨昨日、一昨日、昨日の
連日の雨の影響により
たっぷんたっぷんに水が溜まっているのだ!
つまり、貴様に逃げ場は、なーーーーーあいぃ!!」
しかもこの階段の終わりは、開始地点から9mほどの所にある。
さすがの虎龍でもこれは避けられまい。
あたしはうなだれている(ように見える)虎龍に駆け寄った。
さすがに虎龍もあきらめたようだ。
そしてなぜかお尻ふりふりをしている、トイレでもしたいのかな?
そしてあたしは感ずいた、これは助走!
予想だにもしてなかったが、こいつはこの川に
今まさに飛び込もうとしているのだ!
「させるか!」
あたしは今度こそは、と虎龍に飛びついて
また空をつかんだ。
虎龍の方に目をやると、
右、左、右と石垣の壁に壁ジャンプを三度繰り出し
向こうの岸までたどり着いていた。
忍者かあいつは!!
そして、あたしの方にお尻を向け、
またふりふりしていた。
これは言われずとも分かる、挑発だ。
あいつは猫畜生の分際で完璧美少女(以下略 の
あたしに挑発をかましてきたのだ。しかもけつで…
ちなみにあたしはというと……
JABOOOON!!
勢いあまって川の中へとダイブしてしまった。
「まてーーーーーーーーーぇぇ!!」
水たまり(ほぼ川)から這い上がったあたしは虎龍を追いかけた。
あたし達を見てすれ違う人たちは立ち止る。
そりゃそうだ、完璧美少女が
全身びしょ濡れになって
猫を追いかけてるんですもの。
しかもものすごいスピードで、
見ない方が無理って話だわ。
でもあたしは気に留めない。
だって、今ここで諦めたらもう一生虎龍は家に
もどってこないのかもしれないもの!
そんなの絶対ダメ!
だって、こいつは本当にどうしようもない猫だけど、
たまに寝てるとき半開きの目が
ものすごい速さで動いてるけど、
排他的殺戮生物兵器のような性格だけど、
それでも、
「それでも、あなたはあたしの大切な家族なのよ!!」
あたしがそう叫んだと同時に、虎龍が走るのをやめて
立ち止った。
「虎龍、あたしの気持ちが届いたのね!!」
そう思い、駆け寄っていくと
なにやら右の方からフシュ―、という大きな鼻息のようなものが聞こえてきた。
何かと思い、音の発信源に目をやると、
「GURURURURURURURURURU,GURUN GURUuuuun!!」
なんとそこには、体長3mはあろう巨大イノシシが
こっちを見て、片方の前足で地面をけり、
助走をつけていたのだ。
「なんでこんな町中にイノシシが出るのよ!!
虎龍、逃げるわよ!!」
イノシシは助走の力を
余すことなく突進へと変換し、
まるで大型トラックのように無言で突っ込んでくる。
「イノシシにひき殺されて異世界転生するラノベなんて
見たことないわ! 虎龍!! 早く!!」
だが虎龍は逃げようとしない。
それどころか虎龍の目には、歴戦の勇者が今にも
魔王に立ち向かわんばかりの、闘志のようなものが
メラメラと燃え上がっていた。
「だめよ! いくらあなたが強くても、越えられない
壁と言うものがあるのよ!! それが例えば、
努力家と天才の差だったり、動物の種の壁だったり!」
あたしはそういい虎龍を抱き上げた。
しかし、虎龍はうでの中から勢いよく一回転をし、
抜け出して猪突猛進してくるイノシシの方へと駆け出していった。
「…っ! ダメーーーーぇぇ!!」
スッ ズザザザザー
虎龍は猛突進して向かってくるイノシシの
又の下を、まるで電車の線路の真ん中に寝て
衝突を免れた少年と同じような要領で
かいくぐった。
そして虎龍はそのまま真っ直ぐに走っていった。
虎龍が消えてもイノシシは突進を止めなかった、
どんどんどんどん加速しながらあたしの方に
向かってきている。
ギリッ、私のなかでなにかが吹っ切れた。
「いつもあなたは私の心配をよそに
好き勝手暴れやがって…」
イノシシがあたしに衝突し、マンモスのように異様に長い牙で
あたしの身体を挟み込んだ。
「やったー、って思ってるでしょ? あなた。
違うわよ、これは罠よ…!!」
イノシシがあたしの身体を
宙におもいっきり放り投げた。
あたしはその瞬間イノシシの牙を両手でつかみ、
その勢いを利用させてもらった。
空中で左手には右牙、
右手にはイノシシの左側面の毛皮部分を
鷲掴みにして、肩にイノシシの背骨が
乗っかるような体制へと変換した。
「あれは! バッファ○ーマンが開発した
数字の6を9にするがごとしの
筋肉バス○ー破り、リベンジ○スター!!
まさかこの目で拝める日がするとは…
合掌」
BOKI! bokibokibokibokiboki!! GUSYAAAa!!!
あたしの背中でイノシシの背骨が
粉砕する音が聞こえた。
あたしは、まだピクピクしている亡骸を地面に捨て
後ろで小学生とかがよく被る
赤白帽を真ん中で広げ頭に乗せ
五体投地している意味不明な少年を無視して
アドレナリンフル分泌の状態で虎龍を追いかけた。
「絶対許さないんだから」
「捕まえた!」
虎龍は不意をつかれたからか、フレーメン反応を
起こしている時のような顔であたしの顔を凝視していた。
「どこから来た!? って顔ね。いいわ、教えてあげる!!
あたしはあなたの通りそうなルートをいつもの逃走コースから
分析して、あなたが通りそうな場所に先回りしたのよ!!
屋根の上を伝ってね! 」
あたしは最後のセリフを言い切ると同時に
ウインクをして見せた。
意味はないわ、だけど、
そうした方が気持ちいいじゃない?
勝ったって気になるじゃない?!
ちなみに屋根の上を伝うのは最終手段だ。
人様にそんなみっともない姿見せたくないもの。
※もっとみっともない姿、みせてましたよ!
「にしても、今日一日でだいぶ汚れちゃったわね、
あたしもあなたも!
帰ったら一緒にお風呂に入りましょ!
もう逃げるんじゃないわよ!!」
帰り道、石垣の上にいる猫と虎龍が会話をした。
会話といってもお互い一声かけただけよ、挨拶かしら?
あたしは腕の中で気持ち良さそうに目を細めている
虎龍の頭をそっと撫でて、呟いた。
「あたしの日々に、色をつけてくれてありがとう!」
虎龍はそれに、大きなアクビをして応えた。
最後の石垣の猫と虎龍の会話シーン(日本語訳)
石垣猫「また今日も逃げ出したのか?」
虎龍 「張り合う主がいることは
喜ばしいことこの上なき」