第2話裏:絶対この人すごい人だ
「で、キミの名前は?ああ、名前を聞くときは、自分から名乗るべきか。俺は…カナタだ」
取りあえず犬猫でも名前くらいあるだろう。
田中と名乗ろうとも思ったが、他にも召喚者が居るとの事だったから無難に偽名で通しとくか。
「あっ、はい。自分はエンと言います。一応仮冒険者です」
「仮?」
やっぱりあったよ冒険者。
ってか仮ってなんだよ!
冒険者未満ってことか?
うんうん、エンの見た目なら納得だな。
どう見ても、第一線にいるような冒険者じゃないし、何より戦闘慣れしてない感じがプンプンするもんな。
身のこなしもさることながら腰の剣もナイフも殆ど汚れも痛みも無いし、きっと魔物ともあまり戦った事は無いんじゃなかろうか。
「えっと、冒険者として登録だけした状態で、実績が認められるまでは、冒険者としてのランクが貰えないんですよ」
「ああ、仮免みたいなものか」
やっぱりか。
問題はエンがどれだけ仮冒険者をやってるかだな。
見た感じ登録して2~3日って感じじゃないな。
「仮免というのが何かわかりませんが、イースタンの方がおっしゃるならきっとそうなんでしょうね?」
「イースタン?」
今度は聞きなれない言葉が出て来た。
イースタンって事だから、東の民って事か?
前の世界じゃ、東ってあんまり碌な奴が居るイメージ無かったけど。
「トーヨーの方でしょ?」
トーヨー?
ああ東洋か…これあれだ、たぶん日本人が出自を誤魔化す為に広めたんだな。
で、他の日本人がそれに乗っかって既成事実を作り上げたと。
まあ、これに乗らない理由も無いし、むしろそっちの方がこれからの事を考えると色々と便利そうだしな。
「えっ?ああ、東洋といえば東洋か…」
俺の答えに満足いかなかったのか、ちょっと変な表情で何かを考え込んでいる。
それにしても、凡庸な顔立ちだよなー。
普通こういうのって、もっと美形な奴と出会うのがテンプレだと思ってたが。
これから、物語の主人公にしてやろうってのにちょっとパッとしない。
いや、人並み以上というか、可愛いとかカッコいい方に分類されるとは思うけど、物語に出てくる英雄のような超絶イケメンという訳では無い。
まあ、あれは願望というか、かなりの人物補正が掛かっているというし、そういった英雄の人にだって本当は不細工が居たかもしれないし…まあいいか、顔なんてなんの役にも立たないしな。
「えっと、貴方のように平べったい顔をした黒い髪と黒い瞳を持たれる方を、この地ではイースタン、もしくは東洋人と呼ぶのですよ」
「ふーん、そうなんだ…他にも居るんだ。東の大陸か。行ってみるのも悪くないか」
平べったいとか、どうなんだろう?
表現としては正しいけど、あんま良い気はしないかな…
まあ、犬の戯言だ…気にすることじゃないか。
なんてことを考えていたら、ちょっと呆れられた表情をされた。
流石に少しイラッとしたので、閻魔帳ならぬ記憶の片隅に記録しておく。
「いや、東の海はちょっと訳ありで、船で進む事が出来ないんですよ」
「ん?そうなの?まあ、いっか」
だろうな…そもそもそんな大陸あるのかどうかも怪しいもんだ。
まあ、日本人の考えそうな事だが、もしかして召喚されるのは日本人だけなのか?
いや、他の国の人が召喚されたとしたら、あまりここの土人とは見分けがつかないか。
まあいいや、それよりは初めて人として町を散策できるかもしれないんだ。
そっちを急ごう。
「それよりも、早く街に行きたいんだけどさ?道っぽい方に進む?最短で街に向かう?」
さあ答えろ腑抜け!どうせ、道一択なんだろうけど一応聞いておいてやろう。
ちなみに、俺はとっとと待ちに行きたい。
「えーと、道に戻りませんか?」
「ん、分かった!こっちだよ」
チッ…ヘタレめ。
まあ、森の中をこいつがとっとと歩けるとも思えないし、まあいっか。
これは犬の散歩…犬の散歩…犬の散歩…
一生懸命自分に言い聞かせて、ポチ…じゃなかったエンを連れて道へと向かう。
ていうか、なんだコイツ?
さっきから俺の足ばっかりみてるけど、もしかしてモーホーで、足フェチとかじゃないよな?
いや、靴ばっかり見てるから匂いフェチ?よしとくれ…すでに段ボールに突っ込んで橋げたに捨てたくなってきたわ。
そういえば、こいつはなんで迷子になってたんだ?
「エンさん!」
……………
くっ…こいつ、たかが犬コロの分際でこの俺を無視する…だと?
まあまて、落ち着こう…聞こえて無かっただけかもしれん。
「エンさん?」
…………
ブチッ!…いや、待て、まだ早い。
もしかしたら耳が遠いのかもしれない…
そう言えば、森でも背後から近付いた俺に気付かなかったしな。
えっ?それって冒険者として致命的じゃないか?
「エンさん!」
「うわぁ!ビックリした!ちょっと、大きな声出さないでくださいよ」
エンの顔の前で呼びかけてようやく反応したと思ったら、いきなり怒ってきやがった。
偉く反抗的な犬だ。
「はあ…何度も呼びかけたのに、返事をしないからだよ」
「えっ?あっ、すいません。ちょっと考え事をしてました」
ちょっと怒ったら、すぐにショボーンとなった…こいつ大丈夫か?
考え事してたのか…そうなのか…余裕だな?もう一回森に捨ててこようか?
何も聞こえなくなるほど、何を真剣に考えてたのだか。
「それで、なんですか?」
「ん?いや、エンさんはなんで、あんなところで迷子になってたのかなと」
ちょっとムッとした顔をしてるな。
そうか、一応人間だもんな…恥という感情くらいあるか。
ちょっとデリカシーに欠けた質問だったかもしれないが、まあ、そこはあれだ。
こいつなら別に良いだろう。
「いや、その角ウサギを追ってたら、いつの間にかあそこに」
「角ウサギ?」
そう言えば、森で出会った魔物達の中にも居たな…角の生えたウサギ。
それで角ウサギか…なんともまあ、捻りの無い事で。
ん?なんだね?その失礼な、何も知らないんですねと言わんばかりの表情は?
はあ…
ピクピク…
このくそガキャーいっちょ前に、溜息つきやがった。
あろうことが、この俺に対して…ヤバい、凄く苛めたくなってきた。
が、エンの次の言葉を聞いて、そんな事どうでもよくなるくらいにワクワクした。
冒険者ギルド!キターーーーーーー!
そしてF級冒険者になるのに、その角が必要だと。
いいね、異世界っぽいよ!
で、そのウサギを追っかけてたら迷子になったと…やっぱり駄犬か。
「ああ、F級になるのに角ウサギの角を狩って提出しないといけないのか…」
「はい…ただ、なかなか角ウサギって見つからないんですよね。道から外れないとまず見かけないんですけど、たまたま道の目の前に飛び込んで来たんでつい…」
なんか、顔を赤くして俯いているが恥ずかしがるのは構わんけど、こいつ少しは周囲を警戒しろよ。
さっきから、ずっと色んな魔物が俺達を取り囲んで付いて来ているからな?
まあ、主に俺の護衛だけど…この、駄冒険者よりよっぽど優秀じゃねーか。
冒険者なら一般人たる俺を守れ!
取りあえず、近くに居た角ウサギをテレパシーで呼び出す。
「ところで、その角ウサギってあれか?」
ガサッという音がしたのに、まったく反応を見せないエンの為に指をさして教えてやる。
次の瞬間に凄い勢いで、ウサギに飛び掛かろうとしたので襟を掴んで制止するが、角ウサギも不快そうに一瞬逃げようとしていた。
そりゃ、こんな血走った目でいきなり襲い掛かったら逃げるに決まってるだろう!
「ぐえっ!」
エンに睨まれる。
まあ、言いたいことは分かるが…
「いや、いきなり飛び掛かったらそりゃ逃げられるだろ…あと、勝手に森の奥に行かれたら、もう探しに行かないよ?」
エンは俺の言葉に顔を青くしつつも、チラッ、チラッと名残惜しそうにウサギを見ている。
まあ、見ておれ…俺が手本を見せてやろう。
といっても、実質俺の下に居るようなもんだからなー。
「おいで、ウサギさん」
俺は【三分調理】でレタスを作り出して、ウサギの方に向かって振ってみせる。
ちなみに【三分調理】という魔法は俺が作り出したもので、俺の記憶にある飲食物限定で作り出す事が出来る。
材料とかはたぶん、魔力で出来てるんだろうな。
満腹感を得られるし、栄養もちゃんとあるようだが、魔力を補う力は無い。
魔法飲食物なのに魔栄養0とはこれいかに!
と思っていたら、角ウサギが俺の方に飛び込んでくる。
「あっ!カナタさん危ない!」
その瞬間、エンがいきなり体当たりかましてきた。
そして、弾き飛ばされて尻もちをついている。
なんで?って目をしているが、俺のセリフだ。
ああ、こいつのなんで?は俺が微動だにしなかったからか…それはだな…お前が弱すぎるんだよ!
急に突拍子もない事をするから、よろめくとかの演技も出来なかったじゃねーか!
「おいおい、いきなり何するんだよ?」
取りあえず八つ当たり気味に文句を言うと、エンが何やら驚いた表情をしている。
その視線の先には角ウサギとレタス…
おっ、美味しそうにレタスを頬張ってて可愛いな。
毛もモフモフだし、柔らかくてあったかくて、ちょっと太陽の良い香りがフワリとその土色の毛から漂ってくる。
頭を撫でてやると、俺の鼻に自分の鼻先をくっ付けてくる。
かーわーいーいー!やっぱり、人間より断然こっちの方が可愛いわ!
「フフ、可愛いなお前」
くすぐったいではないか。
角ウサギがフンスフンスと俺の鼻先を嗅いでくるのが、くすぐったいけど懐かれてる感じで嬉しくなる。
「なあ、エンはというか、なんで冒険者はこんな可愛い生き物を狩るんだ?やっぱり、畑を荒らしたりするのか?」
「えっ?まあ、はい…あとは、たまにこの森で人を襲ったりもするので…」
本当にそうだよ…
なんで、こんなに可愛いのに人間はわざわざ狩るのだろう。
魔物に分類されるから、食用じゃないだろうし。
いや、こいつの肉は柔らかくて美味そうだし、魔物でも食用の魔物は居るしな。
おっと、ちょっと怯えさせてしまったか。
(悪いけど、その角を折らせてもらうよ…本当にゴメンね。すぐに治してあげるし、痛くないからな)
なるべく優しく、テレパシーで直接言葉を伝えると、ウサギが全然気にしてないといった様子で頷いてくれる。
健気や…
「ねえ、ちょっと角貰うね」
「キュイ!」
角の根元をしっかりと抑えて、角の先を風魔法を使って振動を与えないように切り取る。
一応折った風に見せるために、自分の指も鳴らしておいた。
「ああ、ごめんな…痛かった?」
「キュイ!」
目をウルウルさせていたので、てっきり痛かったのかと思ったら違ったようだ。
その目の奥から、私がこの世界の偽物とは違う、真なる唯一の魔王様のお役に立てて魔物冥利に尽きますというメッセージが伝わってくる。
ああ、俺の世界の部下にも、ここまで良い奴は居なかったな。
「これが欲しかったんだろ?ほら、ウサギに礼を言って」
「えっ?」
何やら逡巡しているが、いいから受け取れ。
こいつの心意気を!
「いや、ウサギを狩らないといけないんじゃないかなと…」
「えっ?角を提出したらいいんじゃないのか?とはいえ、こんなに素早いウサギを見習い冒険者が簡単に狩れるとは思わないけど?」
「ギルドカードを見たら、僕が倒したかどうかはバレバレですよ…」
よく溜息をつくやつだな。
そもそも、ウサギの角さえ出せば手段なんかどうでもいいだろう?
ウサギの討伐が目的じゃなくて、角がって事を強調してるんだから少しは柔軟な発想で対応しろよ。
もしだめなら、ギルド側の書き方が悪いって事を指摘してごねればいいだけだ。
それでだめなら、ちょっと暴れてやろう。
「いや、ギルドには角ウサギの角をかって・・・提出すればいいだけだろ?」
「ですから、角ウサギを狩って…」
「いや、かってだから森で狩ってもお店で買っても、良いって事じゃないのか?」
それでいいの?みたいな顔してるが、それで良いんだよ。
俺が許す!
「そもそも角を狩ってだから、ウサギまで狩る必要ないよね?」
とは思わなかったのだろうか…
ブクマしてくださった方有難うございます。
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これからもよろしくお願いします。
<本編>
異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~
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