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第1話裏:出会い

「うわー!冒険者未満で死亡とか、人生ついてなさすぎでしょ!」


森で魔物達に囲まれながらサンドイッチを食べていたら急にそんな叫び声が聞こえてくる。

ああ、人間か…騒がしいな。

横ではマーダーベアのトムくんが、俺のあげたハンバーガーを食べながら鬱陶しそうな表情を浮かべている。

4足歩行時で体高が約2m、立ち上がったら4mを越える熊が小さなハンバーガーを美味しそうに食べている姿は愛くるしい。

ちなみに彼はマーダーベアという種族のくせに、まだ人を殺した事が無いらしい。

というより、森の道の外に来る人間というのはやはりそれなりの実力者が多く、それでいて3人~6人くらいで群れを作っていて手が出しにくいらしい。

彼の先輩のジョシュアさん曰く、3人~5人くらいでも楽に殺せる人間も多いらしい。

ただ1人ものには気を付けろと言われているらしい。

魔物と一緒で群れない猛獣ほど、強いということだろう。


声がした方に向かっていくと、案の定一人の冒険者っぽい男の子が座ってこの世の終わりみたいな顔をしている。

1人だが、どうみてもあれは猛獣には見えないよな?

横に来て一緒に見ているトムくんの方を向くと、彼も「うがっ?」という声を出して首を傾げている。

うん、ただの雑魚だろう。


防具も皮の鎧だけで、左の腰には安っぽい量産のショートソードを差しているしな。

そして肩掛けにしたベルトにはナイフが1本さしてある。

見るからに初心者冒険者が道に迷っただけだろう。


「ああ、彼について町を案内してもらうからここは任せて」


俺がそういうと、トムは「ウガッ(よろしくお願いします)ウガウガ(あと、美味しい食べ物を有難うございます)」っと鳴いてその場を離れていく。

その後ろを、角の生えたウサギや、綺麗な長い尾を持つ鳥、狼や、マーダーベアより少し小柄なグレイベア、森スライムにゴブリン、コボルト達が付いていく。

こう見えて、彼はこの辺り一帯を仕切っているボス的立場らしい…実戦経験は無いが。

ただ、その身体能力は人と比べて恐ろしく高い事は分かる。

まあ、当然魔王である俺に対しては、すぐに地面に寝転んで腹を見せてくれたが。

その腹を撫でていたら、グーっという音が鳴ったので一緒に食事を取っていたわけだ。


「ゴホンッ!」

「ひゃわっ!」


後ろに立って咳ばらいをすると、男はビックリするくらいに飛び上がる。

おいおい…無警戒過ぎるだろ。

俺じゃなくて、魔物だったら背後から襲われて即終了じゃねーか。

その情けない姿に出そうになる溜息をグッと堪えて話しかける。


「ねえキミ、ここはどこかな?」


俺が質問した途端に、男が両手両膝をついてガックリとしている。

生気を無くしたその表情はどこか遠くを眺めている。

これあれだな…俺が前の世界で殺した奴等の、死ぬ瞬間を迎えた表情に似ている。


「何やら落ち込んでいるみたいだけど、誰か探してたのかい?もしかして、俺をその誰かと勘違いさせて落胆させちゃったかな?」


男はしばらくポカンとした表情を浮かべて固まっていたが、すぐに気を取り直したのか首を2~3回振って…


「えっと、誰かを探してるというか…探してるのは帰り道?」


とか抜かしやがった。

知ってる。

てか、そこまで期待していないから、安心していいよ。

俺は目いっぱいの生暖かい笑顔を送ってやる。

何を勘違いしているのか、こっちを懐疑的な目でめっちゃ見つめてくる。

これ、あれだな…同類だと思われてるよな?

はあ…今度こそ溜息を堪える事は出来なかったわ。


「ああ、それなら安心して。人が大勢居る気配は分かるから、多分そっちに街があるんだよね?それから、少し行ったところを誰か真っ直ぐ歩いてるね。ああ、これは人だから大丈夫かな?この辺盗賊とか出る?って、一人でそんな事するやつ居ないか」


なるべく優しそうに声を掛ける事を心がけて。

というか、俺からしたらこんなゴミみたいなステータスの冒険者なんて、俺の配下の魔族の子供以下だからな。

あっちの世界で俺を殺しに掛かって来る、腹ペコ勇者や、中二病を発症させたイケメン勇者、同郷の仲良し勇者4人組と比べても虫けら並みだし。

自然と優しい気持ちになって来る。

なんていうか…ここまで弱いと自然と牙を持たない小動物や、虫に向ける程度の情愛は持って接してやることくらいは出来るらしい。

なんだろう…あの疑わしい気持ちを表している視線も、初めて接する猫や犬の遊びたいけどどうしよう…みたいな警戒と本能のせめぎ合いの目にそっくりな気がしてきた。


「ああ、ごめんごめん。違う意味で勘違いさせちゃぅたみたいだね。別に俺は迷子ってわけじゃないから。ただ、この世界…いや、この辺の地理に詳しくないから、町や周辺の事が聞きたかったんだ」


なんか考え事をしたあと、こっちをチラっと見てくる。

うん、その仕草もまるで小動物みたいだ…よし、こいつは犬か猫…犬か猫…犬か猫…

うんうん、これなら多少の失礼な振る舞いをされても許せる気がしてきた。


「というか人の気配が分かるとか…」

「ん?ああ、戦闘とかは苦手だけど、そっち方面に才能あったみたいで、それを活かして世界を見て回ってるんだ」


戦えるという事は黙っておこう。

というか、もう現時点で俺に襲い掛かって来る魔物は居ないはずだしな。

なんせ、ここの縄張りのボスとは話が付いてるし。

でも、良かったよ話が分かるマーダーベア(やつ)で良かった。

これが、拳で語り合おうみたいなタイプだったら…手加減間違えて殺しちゃってただろうし。

そしたら、ボスに担ぎ上げられて、ここでも魔王ライフを送る羽目になるところだった。

ここの魔王ライフとか原始魔王っぽくて御免だったし。


と思ってたら彼が凄い疑問の表情をこっちに向けている。

なんだこの表情は…何が不思議だったんだ…

ちっ…分からん。

たぶん感知系のスキルは無いだろうし、ちょっと心を覗かせてもらうか。

(なんで僕の思ってる事を…)

はっ?


「いや、口に出てたよ?」

「あっ!はっ!いえ、すいません」


ついそのまま思った事を口にしてしまったら、謝られた。

本当に気付いていなかったらしい。

ダメだ…小動物系で可愛いと思い込んでても分かる…こいつは駄目な奴だ。

駄犬だ…

顔を真っ赤にして恥ずかしがっているが…なんで声掛けちゃったんだろ俺…


「フフッ、青くなったり、赤くなったり忙しい人だね。まあ、いいや。道まで案内するから、町を案内してくれないかな?」


これあれだ…ある程度、育ててやらんといつかきっと死ぬな。

変に縁を持っちゃったし、ここで見捨てるのも死んだときに気分悪いしなー。

ここで見捨てられたら、あっちで魔王やってる時も大分楽できたのに…しょうがない。

ここら辺が日本人だったという証明でもある気がするし、この感情は大切にしないと心まで魔族になったら俺が俺じゃなくなるかもしれないしな…

こうやって自分に言い訳しながら、俺は彼を育てる事にした。

関連作品

異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~

http://ncode.syosetu.com/n7304ds/

(基本毎日12時投稿を目指してます)


魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い

http://ncode.syosetu.com/n1549dl/

(こちらも書きあがったら投稿ですが、なるべく3日以内を心がけています)

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