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ハッピーポッピンロリポップ  作者: タケウチタケシ
第一章 コルトゥーラ
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8『とっておきの罰』

【あらすじ】襲われる→変な世界に飛ばされる→そこで変な子どもに「すげぇきもい」と罵られつつ、キャンディを舐めるように言われる→もとの世界に戻ってキャンディを舐めたら能力が発動して無双。

その能力はどう考えてもどこかで見たことのあるもので……。

      8


 いってぇ!

 体が痛い。あまりの痛さに驚いて起きるという驚きの体験だった。

 何か最近ベッドスタートが多いな……えっと? 今回は何だったっけ……。

 そもそも何でこんなに体中痛いんだ? 怪我してるわけじゃなくて、筋肉痛の酷いやつみたいな痛みだ。

 何をしてたんだっけ。

 エイリーと一緒に国王夫妻の農作業を見てて、この国の産業とか色々聞いてて──

「あぁー……そうだ」

 襲われたんだ。盗賊集団に。

 倒すだ何だと啖呵を切ってたエイリーが、敵の攻撃を受けた瞬間になぜか震えだして戦闘どころじゃなくなって、リーダーの土のアームで潰されそうになって、叫んだ瞬間、俺のことを『すげぇきもい』とかいう変な子どもと変な空間で出会って、えっと……。

「キャンディを舐めて、無双……?」

 あれ? 何だこのバカっぽい急展開。どこからが夢だ?

 土の化け物を相手に無双していたところからが夢なのか、盗賊に襲われたところからが夢なのか、そもそもこの世界にきたところからずっと夢なのか。

 それとも、今もまだ夢を見ているのか。

 夢じゃ、なかったのか。

 しかも何か俺、エイリーの歯車の能力みたいなのを使ってた気が……。

 あー、ダメだ、考えがふわふわし過ぎてまるでまとまらないし何より体が痛い! この痛みは何なんだよ!

「姫……起きてらっしゃいますか?」

「ひぁっ……はい!」

 いきなり聞こえたノックに思わずめちゃくちゃ可愛いリアクションをしてしまった。ドアの方に首を動かしただけで全身に大ダメージだ。

「失礼します」

 ドアの向こうに立っていたのは、エイリーではないメイドさんだった。エイリーよりさらに幼い彼女は小学生低学年ぐらいだろうか。可愛いね。君可愛いね! 腕白いね! 細いね!

 テンションが上がる俺とは裏腹に、そのメイドさんは緊張──というか、どこか怯えたように、

「国王がお呼びです」

 とだけ言い残して、ぺこりと深く頭を下げると、逃げるように出ていった。

「あ、はい……」

 閉まったドアに虚しく返事する。

 何だ? 今のは……。

 いや、それより。

「……どこ行けばいいの?」

 呟く声も可愛い。


 外は日が沈みかけていて、広大な山々に夕日が沈んでいく真っ最中だった。麦畑が黄金に輝き、空には藍色の星空が広がっている。

 夕方ということは……襲われたのが朝方だったから、朝から今まで寝ていた(気絶していた?)のか。

 とりあえず広い廊下を通って朝にご飯を食べた部屋に行くと、国王夫妻がいた。俺を、何とも言えないような、あえて言うなら困ったような顔をして見ている。

 そして国王夫妻の横に……誰だ。

 白いボロ切れのような服を着た女の子がいた。アニメで観た大昔の人が着ているような、布の切れ端を無理矢理服の形にしたものを着ている──って、

「……エイリー?」

 俺が声をかけると、エイリーはぼんやりと顔を上げた。

 髪すら結んでいなかったから、誰かまったく分からなかった。

 それにしても何でこんな際どい格好をしてるんだ。発育し始めた体でそういうことをされると困る。太ももとか健康的に白くてきれいだし。胸とかも張りがありそうだし。

 それより、エイリーの顔……表情が問題だった。

 元々無表情だったのに、そこから生気が抜けていた。ぼんやりと、無気力な、廃人のような、諦めたような、呆れたような、すさんだ顔付きをしていた。

 俺が寝ている間にいったい何が……いや、まぁそれは分かるか。


 エイリーは、国王の子どもを守れなかったのだ。


 王族を守る者としてこの城で働いているメイドが、姫を守れなかったんじゃ話にならない。

 俺としては『馬鹿なこと言ってんじゃない君はそこにいてくれるだけでオールオーケーだよ!』というだけの話なんだけども、やっぱり国王夫妻的にはそう簡単に──


「お願い、パーチェからも説得して!」


「え?」

 いきなり王妃に、懇願されるように言われて何のことか分からなかった。

「おいエイリー。今回のことは仕方がないじゃないか。奇襲だったしな」

 国王が、な? な? と苦笑いしている。

 ん? 何だ?

 これってまさか──

「いえ、奇襲だろうと何だろうと、命に代えても我が君主をお守りする……それが私の務めです」

 エイリーは、しっかりとした口調でそう言って、

「けれども、それが私にはできなかった……この城に置いていただく価値は、私にはもうありません」

 自嘲気味に、いや、確かに自嘲してそう言った。

 そっちか……。

 国王夫妻が、役割を果たせなかったエイリーを追い出そうとしているのではない。

 むしろ逆で、エイリーが自責の念で自ら出ていこうとしているのだ。

 国王夫妻は、エイリーを引き留めたいらしい。

「エイリー、お前がいてくれないと困るんだよ。国の法律とかお前が出てったらもうどうしようもないぞ。だから出ていくなんて言わないでくれよ。な? ほ、ほらプリート、お前も何かあるだろ」

「え? えっと……えっとぉ……あ、ほら、お料理とかもエイリーちゃんの仕事でしょう? 私、エイリーちゃんの作ってくれるスープ、好きよ?」

「それにだエイリー! お前はまだ若い! 将来、能力の質は落ちても経験を積めば俺より強くなるかもしれないだろ? な?」

「それにエイリーちゃんは、ナインでしょ? だから、きっともっと強くなるわ」

 呼び止め方が必死すぎるだろ……。

 というかこの夫妻どれだけエイリーに生活を頼ってたんだ……。

 エイリー、本当に愛されてるんだな。

 だけど、エイリーはその愛に対してゆるゆると首を振る。

「もったいないお言葉です。ですが私の一番の任務は、皆様をお守りすることです。その務めもまるでこなせず、姫を危険な目に遭わせてしまうなど、この城に仕える者として決してあってはならないことです」

 エイリーはうつむいて、そして、言った。

「どうか、私の首をはねてください」

 何言ってんだ! と国王が机を叩く。

「エイリー、馬鹿なことを言うんじゃない! 今回の件は、無防備にも外で城の内情を話していた俺達が悪い。仕方がなかったんだよ」

 あぁ、やっぱり。俺が無能力者って外で話してたのを盗聴されたんだな。

「仕方がないで済むのなら、あの盗賊集団の行った悪事も仕方がないで済むではありませんか。お願いです。王のその手で、その剣で、私を斬ってください。それがダメなら、私はこの城を出ます」

「お前……」

 国王と王妃が、困ったように──いや、悲しそうにエイリーを見つめた。

 何だろう。


 ──すごく、羨ましい。


 エイリーは、娘であるパーチェちゃんと同じぐらい、無条件で愛してもらっている。

 なのにエイリーはその愛に耳を傾けずに、自分の意思を押し通そうとしている。

 俺は今まで、物心付いた時からずっといじめられていた。誰からも──親からも期待はされず、どこか冷めた目で見られていた。

 愛されず。だけど愛を渇望して。

 いや、愛されるという感覚すら分からずに。

 この世界にきてまだ二日目だけど、国王夫妻やエイリー、他のメイドさん達の愛情に包まれて、俺は本当に幸せを感じている。

 俺が姫だからエイリーやメイドさん達は優しくしてくれているのかもしれない。国王夫妻も、自分の子どもに月並みの愛情を注いでいるだけなのかもしれない。

 だけど、そのすべてが、俺にとっては宝物のようなものなのだ。


 なのに。

 だというのに、エイリーは──


「お父様、」

 俺は口を開く。

「どうした、パーチェ」

 国王は視線で俺に救いを求めていた。

 俺はその視線を受け取って、笑顔で答えた。


「もういいではありませんか。首、切ろう?」


 その場にいた全員が目を見開いて驚く。

「お、おい、お前、なんてことを……!」

 国王が驚いて、王妃は口を押さえている。

「あ、斬首するってことじゃなくて、えぇっと……解雇、そう、解雇しましょうってことですよ」

 俺が慌てて訂正すると、

「ありがとうございます、姫」

 エイリーが頭を深く下げて立ち上がる。

「姫からいただいたこのご慈悲、一生忘れま──」


「誰が立っていいと言いましたか?」


 エイリーがびくっと肩をすくめた。国王も同じようにびくっとした。

「続きがあります。お座りなさい」

 俺が椅子を指差すと、エイリーは黙って座る。

「あなたは今日を以て、この王国の従者としての任を解きます」

「し、しかしだなパーチェー──」

「ーーお父様。確かにエイリーがいなくては、この城は大変でしょう。ですが、エイリーは、お父様の愛も、お母様の愛も、すべていらないと言うのですよ?」

「そんなことは──」

「──そんなことは? ないと言うのですか? エイリー、あなたは、お父様やお母様から与えられる愛に、耳を傾けていますか? 私にはとてもそうは見えません」

 うつむいたまま、何も言わないエイリーに語り続ける。

 だんだん、元の俺の素性が出てきている。

 危ないけど、もう止められない。

「エイリー、いいですか? 愛されるということが……無条件で愛してもらえるということが、どんなに幸せなことか分かりますか?」

「理解しているつもりです」

 低く小さな声で、エイリーは答える。

「理解していますか? 本当に? じゃああなたは、理解している上で、それを突っぱねて、今までの恩もすべて投げ出して出ていこうとしているのですか? 死のうとしているのですか? ましてや国王の手を汚させようとしているのですか?」

 エイリーは、何も言わなかった。

「イジめられて虐げられて、物か空気か汚物のように扱われて、両親にすら期待されずに愛されずに生きている人間が、今のあなたの立場をどれだけ渇望しているか分かっているのですか?」

「私は……」

 低い声で、呟くように言葉を続ける。

「私は、自分がどれだけ愛されていたのか、幸せだったのか理解しているつもりです。この城にお仕えさせていただいたことを誇りに、幸せに思います……だけど!」

 いきなり、ばっと顔を上げた。とても悲痛な表情だった。

「私は、今まで受けてきたご恩を返すことができなかったんです! 大口を叩いたくせに、姫を守るどころか! 守られてしまって! そんな失態をさらした私がここでのうのうと生き続けるということがどれだけ恥さらしなのか……姫! あなたに分かるのですか!?」

 エイリーは一瞬、言葉を考えるように黙った後、ぽろぽろと涙を流しながら言葉を続ける。

「私だって姫や国王ご夫妻を慕っています……でも、その愛に報えなかった自分が許せないんです!」

 あぁ、羨ましいな。

 俺は、この子が羨ましい。

 そして、好きだ。


 好きで好きで──だからこそ憎い。


「それ、全部あなたの都合でしょう」

「そうですよ、私の都合ですよ!」

「あなた、私達のことを……この城のことをちゃんと考えてるの?」

「考えてます!」

「考えてたら、出ていくとか死ぬとか、そんな答えになるわけないじゃない」

「私みたいな能力もまともに使えない能無しは、いなくなった方がいいんです! 死んだ方が──」

「──エイリーはさ、今朝まで私のこと、そんな風に思ってたの?」

 あっ、とエイリーが傷付いた顔をした。

「いえ、決してそんなことは──」

「いいよ。私も自分のこと無能だと思うし。きっと、王族の子どもじゃなかったらとっくに絞められてると思うよ」

「ど、どうしてそんなに話が飛躍するんですか! あなたは昔から暴論が多いんですよ!」

「今のエイリーの方がよっぽど暴論でしょ!」

 あぁ、何だよこれ。


 何で俺、今こんなに──嬉しいんだろう。


 昔から俺は、人の悪口を言うことができなかった。

 言い争ったり簡単な討論をすることすらできなかった。

 その理由を、いつからか『人を否定するという、自分がやられて嫌なことは人にしない』というカッコ付けな中身がないものにして自分を律していた、けど。

 今、分かった。

 きっと俺は、誰も信用してなかったんだ。

 言ったら嫌われるから、無難な距離を保っていた。

 誰も愛していなかったし、誰にも興味がなかった。

 でもそれは悪口じゃない。相手のことを思うからこそ、厳しいことを言う。

 そして何より、どんなに酷いことを言っても、


 この『愛』は、絶対に壊れない。


 まだ、出会って数時間しか経ってないのに。

 それが分かっているから──

「姫……この際すべて言わせてもらいます。私は幼い頃からあなたの世話に手を焼いてきました」

「おい、エイリー! お前──」

「──お父様、」

 焦って口を挟んできた国王を、睨む。

「どうか、お静かに」

 国王は、今度こそ完全に沈黙した。

「エイリー、続けなさい」

「えぇ、これで私へ愛想を尽かしてもらえれば幸いです……幼い頃から言うことを聞かないあなたには本当に苦労させられましたよ。お稽古も勉強もまるでしないで、外では『あんな遊び』をして──」

 ──国王夫妻がはっと目を見開いたような気がした。

「──そのくせ、勉強も運動もお稽古も、一通りそつなくこなしているあなたがどれだけ憎かったことか! あなたなんて──大っ嫌いなんですよ、私は!」

 嫌い、か。

 意外にも、あまり言われたことがない。

 なぜなら俺は『嫌われて当然の対象』だったからだ。

 分かりきったことを、改めて口に出す必要はなかったからだ。

 もっと言えば、幼い女の子以外の誰に対しても興味がなかった俺に対して、誰も興味を持たなかった──好きでも、嫌いでもなかった。

 そこにいないのと同じだった。

 でも、エイリーは俺を『嫌い』と言う。

「ねぇ、エイリー」

「何ですか!」

「私のこと、嫌い?」

「えぇ、嫌いですよ!」


「じゃあさ、何でそんなに辛そうな顔するの?」


 見開かれたエイリーの両目から、ぽろぽろと涙が溢れていた。

「私のことが嫌いなのは、仕方がないよ。今までエイリーに酷いこといっぱいしたかもしれないし、いっぱい言ったと思う。だから、嫌われても仕方がないと思うよ」

 いったい、パーチェちゃんはどんな子だったんだろうか。いつかエイリーからそれを聞ける日がくるのだろうか。

 エイリーがパーチェちゃんを嫌う理由……出会ってすぐ、俺がこの世界で目を覚ました直後辺りのエイリーの目。あの視線から感じた嫌いという感情と、今の嫌いという言葉は、何かが、根本的に違う気がする。

 最初の視線は、本当に嫌いというか、苦手な相手に向けられるものだった。

 だけど、今の言葉は──

「でもね、エイリー。嫌いって言うたびに辛そうな顔しないでよ。こっちまで、辛くなるよ」

 ──とても、辛い。

 エイリーが、わっと崩れ落ちるように泣き出した。

「お願いです! 私の首を切ってください! この城から追放してください! 私を罰してください!」

 あー、もう完全にパニックになってるなこれ……。

「お父様、お母様、提案があります」

 困り果てていた国王夫妻が、この際何でもいいから助けてくれ、と視線を送ってくる。

「お父様とお母様の『エイリーをこの城の従者として置いておきたい』という願いと、エイリーの『この城から追放されたい、罰してほしい』という願いが、どちらも叶うと思うのですが」

「ほう。どんな方法だ?」


「エイリー、私は旅に出ます。あなたは、私のお付きとして付いてきなさい」


 しばらくの沈黙の後、

「……あ?」

 国王が変な声を出した。

 エイリーが、ぽかんと口を開けている。その、間の抜けた顔にもう一言付け加えた。

 可愛いパーチェちゃんの顔の、とびきり可愛い笑顔で。


「大嫌いな私と旅だなんて、立派な罰でしょう?」


続く

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