3『この世界のこと』
【あらすじ】一国のお姫様(だが男)になった上に、ここが剣と魔法の世界だと分かった主人公。果たしてロリコンに与えられた能力とは。
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俺の能力は、いったい何なのか。
それを調べるために城の庭までやってきた。
質素ながらもこういうところは一応城としての体裁を保っていて、周囲を高い塀が囲っている。
色んなところに色とりどりの花が植えられた花壇があって、こじんまりとはしているものの、しっかりと手入れをされているようだ。
そんなのどかな風景の中に、固い顔をしたエイリーがいる。
エイリーはメイド服のままだったけど、俺は動きやすい服に着替えていた。
もう少しフリフリの可愛い服を着ると思っていたら、渡されたのは意外にも軍服というか、ぴしっと決まった印象の服だった。
紺を基調としてところどころ金のラインが入っていてかっこいい。
そして、肩の飾り……こういうの、フリンジっていうんだろうか。ところどころ赤のワンポインが入っていて、豪華さもある。
下は黒の短いパンツスタイルで、そこから我ながら目も眩むような、すらりとした健康的な太ももが伸びている。
その太ももの白さのすぐ下から、オーバーニーの靴下が伸びている。絶対領域というやつだ。自分で触ってみると、そのすべすべぷにぷにっぷりに、ちょっとドキドキする。男の太ももなのに。
靴は黒っぽいショートブーツで、少しだけヒールがあった。だけど動きづらくはない。
もちろん履くのは初めてだけど、何とか動けそうだ。
それにしても何だか、服装に関してはあまり時代を感じない。こういう服とかって、俺はまったく知らないけど機械とかで一気に大量に作ってるんじゃないだろうか。
でもこの世界、機械とかあるんだろうか。少なくとも、この世界で目を覚ましてから数時間経つけどそれらしきものは見ていない。
と、なるとタイツとかも手作りしてるんだろうか……まぁ能力とかある世界だしな。何があってもおかしくはないか。
「さて、姫の能力が何かをお調べする前に、まずはこの世界の能力について勉強を致しましょう」
城の庭の、大きな木の木陰で、エイリーは俺に紙を渡してきた。
仰々しくシートを敷いて『お掛けください』というので座ると、エイリーは何もない草の上、俺の正面に座った。
実践の前にまずは座学。
どの世界でもこれは変わらないんだなぁ。
まぁ、いっちょ頑張って勉強しよう。
そう意気込んで、渡された紙に視線を落として──
「ん……!?」
──固まった。
「ど、どうされました、姫」
「あー、いや、えっと……おぉ……?」
首をかしげる俺に、
「まぁ、何が書いてあるのか、少し難しいと思いますが、一緒に勉強して参りましょう」
と、優しく言ってくれているエイリーの言葉も入ってこない。
今、紙を渡される直前に、俺には一つの不安が生まれた。
『この世界の字、読めるんだろうか』と。
能力のことは知らないにしても、これぐらいの歳だったら字の読み書きぐらい教わっているはずだ。
それが読めなかったら、さすがに不審なことこの上ない。
ところが、その不安は一瞬で消え去った。
なぜなら読めるからだ。読める、読めるぞ!
だけど何で読めるんだ?
何で、日本語と英語が入り交じっているんだ?
目の前の紙には、どう考えても日本語と英語が並んでいる。
でも、広大な山々が遠くに連なっている大地は間違いなく日本ではない。
と、なると……。
「あー……」
これは、『俺は実は夢の世界にいる説』が濃厚になってきてしまった……。
夢っていうのは、記憶の整理だ。要は、自分が知りうる情報しか出てこないはずなのだ。
普通、剣と魔法の世界っていったら、意味の分からない言語がたくさん書かれていて、その文章が怪しく光輝いて能力が発動したりするじゃん。
だけどこれ、完全に日本語だもんな……『フレア』とか書いてあるもん……でも『Flare』自体は英語だしな……。
「えっとこれ……何語?」
思わず聞いてしまう。
怪しまれることを覚悟の上というか、怪しまれてもいいからこの言語の名前が知りたい。
「えっ……」
エイリーはなぜか傷付いた顔をして、
「申し訳ありません。私の字、そんなに汚いでしょうか……?」
と、紙を見つめる。
あ、そう受け取っちゃう!?
「い、いや、ちがっ、そうじゃなくて! あの、その……ク、クイズ! クイズ! これは何語でしょうか!? みたいな! いえーい!」
かなり苦しい返しになってしまったけど、もう仕方がない。どうにでもなれ。
「えぇ……?」
エイリーは、無表情に少しだけ『訝しげ』のエッセンスを混ぜたような、とにかく決して好意的ではない顔をして俺を見る。でも幸いなことにものすごく真面目に、
「ウルー語とトライカ語、つまりコルトゥーラの公用語です」
と答えてくれた。
「せ、せいかーい……」
ぱちぱちぱち、と力なく拍手するも、訝しげな視線はあまり変わらない。
というか、ウルー語? トライカ語?
どっちが英語でどっちが日本語だ?
それともまったく別言語なのか?
というかそもそも今普通に日本語だと思って喋ってる言語は、この世界では何語なんだ? ウルー語か? トライカ語か?
「姫……?」
紙一枚渡されただけでこんなに混乱するとは思わなんだ。
とりあえず、読み書きと会話には困らなさそうだし、言語のことはひとまず置いておこう。
今、どれだけ考えたって答えは出ないしな。
だけど、『ウルー』という国と『トライカ』という国があるってことぐらいは覚えておいた方がいいかもしれない。
さて。
改めて紙に視線を落とす。
渡された紙は、この世界でどうやって作られているか謎だけど、ごくごく普通の白い紙だ。そこに、色々と図や文字が書かれている。
「姫、最初にお断りしておきますが、稽古はちゃんと致しますよ。こればかりは今までのように『飽きた』では許されませんからね。これからのこの国の威信に関わるんですからね」
と、少しだけ早口でそう捲し立てた。
どうやらパーチェちゃんは、『飽きた』とか連発しちゃうかなりのワガママガール(だが男)だったらしい。
「大丈夫だよ、ちゃんと稽古する!」
とりあえず可愛く答えてごまかしておく。たぶん、ごまかせてない。
「姫がお着替えを済まされている間に書いたので、あまりできのいい資料ではありませんが……今日はこちらで説明をします」
エイリーは紙に書かれた図を指差した。そこには九つの丸が書かれていて、中には様々な図形が書かれている。
「この世界には、グラス、フレア、アクア、シャドー、ホーリー、ウィンド、サンダー、グランド、と呼ばれる八つの『タイプ』が存在します」
おぉ……!
出ました、剣と魔法の世界の鉄板、属性!
やっぱ能力には属性が存在してるんだな! やっぱこうでなくっちゃね!
「グラスは植物を操り、フレアは炎を操り、アクアは水を操り、シャドーは闇を操り、ホーリーは光を操り、ウィンドは風を操り、サンダーは雷を操り、グランドは大地を操ります」
うん、そこら辺はだいたい分かる。俺がどれだけ現実逃避のためにゲームをして育ってきたと思ってるんだ。
というか、イメージ通りで安心した。これなら簡単に覚えられそうだ。
だけど、ゲームだと闇属性って影を操ったり紫色の恐ろしいビーム出したりしてて、光属性って味方を回復したり光の剣を出したり……っていうイメージぐらいしかない。
現実世界にもこの属性がいるとなると、どんな感じになるんだろう。
「今のが『タイプ』でして、『クラス』というものも存在します」
ほうほう! いわゆるジョブか!
ヤバい、テンション上がってきた。
「『クラス』は、パワー、ソルジャー、ウィザード、サモンの四つが存在します」
えっと、パワーが肉体強化の肉弾戦士、ソルジャーが剣士、ウィザードが魔法使い、サモンが召喚術師ってことかな。今のところはついていけてるぞ。
「『タイプ』は基本的に一人一つ、『クラス』は必ず一つ、生まれもった性質で決まります。なのでほぼ全員が、一人一人の『タイプ』と『クラス』を持っている。ことになりますね」
「『タイプ』や『クラス』は自分では選べないの?」
「はい。自分の生まれた日が変えられないのと同じで、どちらも変えることはできません」
なるほど。血液型みたいなもんか。
「ですが、」
とエイリーは続ける。
「ですが、パワータイプが剣を使えばソルジャーより強くなるケースもありますし、ウィザードが自分に肉体強化の魔法をかけて、パワータイプのような攻撃をするケースもあります」
ゲームとは違って、能力の使い方次第でかなり応用が効くんだな。
「この、八つの『タイプ』と四つの『クラス』が合わさって、アクアのウィザードであったり、グラスのサモンであったり、様々な組み合わせが生まれます。能力者達は、自分が神から与えられた能力の組み合わせを駆使して戦っているのです」
おぉ! ということはあれか!
闇の魔法使いとか、光の召喚術師とかいるってことか!
炎の剣士でファイヤーソード! とか光の剣でエクスカリバー! とか風の剣でウィンドブレード! とかできるってことか!
テンション上がるな! 風の剣とかかっこよ過ぎだろ!
「ちなみに国王はウィンドのソルジャー……つまり風の剣士ですね」
「あー……」
テンション下がった。
何だよ……あのおっさん、風の剣士なのかよ……あー、でもそういえばさっきもパンを剣みたいに振り回してたしな……。
「さらにこの世界には、例外もいます」
「例外?」
「はい。先ほど、タイプにはグラス、フレア、アクア、シャドー、ホーリー、ウィンド、サンダー、グランドの八つがあると申し上げましたが、それはあくまでも『この世界の大半を占める能力』という意味で、能力は他にもたくさんあります」
「へぇ!」
やっぱそうこなくっちゃね! 『な、何だアイツの能力は……!』みたいなね! やりたいしね!
「その、基本的な八つに含まれない、突然変異とも言える能力のことを、九つ目の能力ということで『ナイン』と呼びます」
えらい分かりやすいな……。
「ナインか……そのナインは世界にどれぐらいいるの?」
「そうですね……正確な数は分かりませんが、この世界の能力者の1%にも満たないと言われています」
百人に一人か……。
「じゃあナインはレアなんだね」
「はい。非常にレアですし、非常に強力です」
あ、やっぱり強いんだ。レア能力って時点でかっこいいのに、さらに強いなんて反則だろナイン。
「強力といっても、ナインの能力自体はピンキリです。国家を脅かすものもあれば、何に使えるか分からないようなものまで……ですが、ナインの強さはそこにはありません」
「どういうこと?」
「どんな能力か分からない相手と戦うというのは、恐ろしいことなんです」
……確かにそれはある。
例えば水系統の能力者なら、パワーとかウィザードとかクラスが四つあるとはいえ、何をしてくるかはだいたい予測が付くしな。
「では姫、簡単なテストをしましょう。例えばフレアの能力者が出てきたとして、姫でしたらどう対抗しますか?」
「えぇっと……」
フレアは炎の能力者なんだろ? だから……。
今まで頭の中で繰り広げてきた恥ずかしい妄想や、やってきた数多くのゲームのことを思い出しながら答える。
それは、そんなに難しいことじゃなかった。
「水とか砂をかけます。もしくは水を被ったり、水分を多く含む木の陰に隠れます」
あとはあとは……と妄想を続けていると、
「……あまりに模範解答過ぎて驚いています」
「ふふん」
あっけにとられているエイリーに、ない胸を張る。
当然だ。友達がいない俺がどれだけゲーム世界と妄想世界を駆け巡ったことか。
「その通りです。フレア系の能力者が相手なら、今姫が仰ったような対処法が理想的です」
ということはあれか、物理法則とか自然現象とかは俺の元いた世界と同じなんだな。
「まぁ、そういった戦術も、こちらが妖精級で相手が聖霊王級だったら通用しませんが……」
「妖精級? 聖霊王級?」
何かまた知らない単語が飛び出したな。
「あぁ、すみません。能力者のランクのことです。この世界で能力者は、神の世界に住んでいる神々から力を借りて能力を使っています」
あ、やっぱりいるんだ、神。
しれっと出てきた単語だけど、この場面で聞くと凄みがあるな。
「ランクは下から順に、妖精級、霊獣級、聖霊級、聖霊王級、属性神王級となります」
……とりあえず、五階級に分かれていると覚えておこう。
「例えば妖精級なら、神の世界に住んでいる妖精の力を借りて能力を使う人間ということになります。階級が上の神々から力を借りるほど、能力者自身の力も強くなります」
こりゃますますゲームみたいだな。
「属性神王級っていうのが一番強いの?」
「えぇ。グラスの樹神、フレアの炎神、アクアの水神、シャドーの闇神、ホーリーの光神、ウィンドの風神、サンダーの雷神、グランドの土神。そしてナインの異神……これらの神々から能力を借りることのできる人間は、いつの時代も九人しかいません」
「この世界に? 九人しかいないの?」
神のごとき力を持った九人……いいじゃない。いいじゃない! テンション上がるぜ。
「はい。各神々の子として、この世界で神のごとき力を奮うことのできる九人が、属性神王級能力者と呼ばれます。彼らは『八皇一鬼』と呼ばれ、それぞれの国や組織を統括しています」
ん?
「一鬼っていうのは?」
「『八皇』はグラス、フレア、アクア、シャドー、ホーリー、ウィンド、サンダー、グランドのそれぞれの属性神王級能力者を指し、『一鬼』はナインの属性神王級能力者を指します」
何でそのナインの属性神王級能力者だけ鬼呼ばわりされているんだろうか。
……あんまり考えない方がいいのかもしれない。
「その人達はやっぱり強いの?」
「参考になるか分かりませんが、例を一つ。『魚の雨』というお話があります」
何だろう、名前からあまり内容が想像できないけど……昔話とか童話みたいなものかな。
「今から200年ほど前に大きな戦争が起こったのですが、水神王級能力者が、海を操作しました」
水神王級って、アクア属性で一番強いってことだよな。やっぱりそのクラスになると海とか操作できるのか。
「へぇ。波を起こして町ごとざっぱーん、とか?」
「それぐらいなら、聖霊級でも可能ですね」
「お、おおう……」
マジかよ。精霊級って下から三つ目のランクだろ。この世界の能力者、インフレしてないか。大丈夫か。
俺の心配をよそに、エイリーは恐ろしいことを言った。
童話のように。
「水神王級能力者は、世界中の海水を、一滴残らず根こそぎ全世界に降らせました」
どく、と、心臓が脈を打つ。
全世界の、海水を?
一滴残らず?
……いや、もしかするとこの世界の海ってものすごく小さいのかもしれないし──
「その『魚の雨』の影響で、全世界の小さな島国は陸地ごと消滅し、押し流された大量の土砂……建物や動物、人の死骸を含むおびただしい量の塊が、この世界を再編成しました」
この、世界を。
もう一度小さく呟きながら、エイリーは自分の足元を見た。黙祷しているようにも見えた。
とても、信じられる話じゃない。
海水を、一滴残らず操作するってどういうことだ。
それが、神の力を得る、ってことなのか。
その話が本当なら、この大地の下には、数えきれないほどの死体が埋まっていることになる。
「能力の恐ろしい力で、その時海上にいた人間はもちろん、小さな島国にいた人間もすべて洗い流されました」
まぁ、そりゃそうだろう。
海水が一滴残らず、雨のように降り注いだりしたら、魚の雨どころの騒ぎじゃなかったはずだ。
騒ぎというか、自分が死んだことにすら気付かないぐらい一瞬で死んでしまった人も、それこそ数えきれないぐらいいただろう。
エイリーは真面目な顔をさらに固くして続ける。
「この時点で数多くの国に……いえ、世界に、大打撃だったのですが、被害はそれだけに留まりません。海がごっそりなくなったわけですから、全世界にそれらが降り注ぎます。魚はもちろん、深海に生息していた未発見生物や船の残骸まで」
地球っていうごちゃごちゃしたおもちゃ箱に、大量の水を流し込んだ感じか。すべてがぐっちゃぐちゃになったんだろうな。
「多くの人は大洪水に見舞われて死にました。生き残った人も、家畜が死に、魚もほとんどが死に、農作物が塩害でやられた後では生きていくことができずに死んでいきました」
エイリーは、辛そうな顔をしていた。他人のことなのに、ここまで感情移入できるというのは、優しい証拠なのかもしれない。
「その結果、世界の人口が一万分の一まで減ったと言われています。もっとも、事態が事態で正確な数も分からなかったため、実際はもう少し多いとも言われていますが……」
まぁ、塩害とか火事場泥棒とか、混乱に乗じた復讐とか快楽殺人とか、そういう二次災害で死んだ人もたくさんいるんだろうな……。
何だか気分の滅入る話だ。それより、この大地におびただしい死体が埋まっているという事実がなかなかに怖い。
俺が何となく暗い表情をしていることに気が付いたのか、「ですが、」とエイリーは話題を変える。
「『魚の雨』の大災害後に生き残ったのは聖霊級以上の能力者だったため、みんなで力を合わせ、世界を復興させつつあります」
少し明るい口調で言っているものの、それは裏を返せば、強い人しか生き残れなかったということだもんな……。
もう一度同じことが起きたら、この国はどうなるんだろうか。
あ、というか……。
「その、『魚の雨』をやった人と国はどうなったの?」
きっと、永久戦犯どころの話じゃないだろう。
「強力な能力を使った代償にしばらく動けなくなったその能力者は、殺されました」
それは、まぁ、そうですよねぇ……。
エイリーは、その辺りを伏せて説明したりする気はないらしい。分かりやすくて助かる。
「そして、能力者のいた国も、徹底的に破壊されました」
徹底的に、破壊、か。
どこの世界にも戦争ってあるんだなぁ、とぼんやり思う。
『魚の雨』の場合は、どんなきっかけで戦争になったのか分からないけど、宗教のための戦争、って本当にバカらしいと思う。
あなた達の信仰する神は人殺しを推奨するんですか? って訊きたい。
「世界中には、国王が仰ったように、いい人も悪い人もいます。属性神王級能力者にも、悪い人間はいると聞きます」
そういえばあのおっさん、パンをもりもり食べながら言ってたな……。
いい人と悪い人。
ここは剣と魔法の世界だというのに、本当にどこにでもいるんだな。嫌になる。
「たとえば?」
軽い気持ちで訊いたら、
「……」
エイリーが口を閉ざした。
「エイリー……?」
「……属性神王級能力者というのは、神そのものの力を持っています。詳しい能力は分かっていませんが、滅多なことを言うものではないのです。この世界のどこにいても、私一人を殺すことなど造作もないでしょう」
エイリーは心なしか震えて、
「属性神王級能力者の方々は、皆様素晴らしい、人格者ですよ」
と、付け足しました、と言わんばかりにゆっくりと言った。
まるで、どこかの神様に祈るように。
……本人が目の前にいなくても、決して悪口を言ってはいけない相手か。
それじゃあ、本当に『神』じゃないか。
まぁ、とりあえず属性神王級能力者っていうののすごさは何となく伝わった。
あとは、その怖そうな神様達と出会わないようにしつつ、剣と魔法の世界をロリメイドさんと満喫しよう。
元いた世界の、誰一人味方のいない腐った環境を飛び出して、能力者としての人生をレッツエンジョイだ!
そうと決まれば、さっそく確認しないといけないことがある。
「ねぇねぇ、それでエイリーはどれぐらい強いの? 私はどれぐらい強いの? というか私は何の能力なの?」
無邪気な子どもを装って聞いてみる。というか無邪気な子ども並に訊きたいことがたくさんある。
国王は『お前の能力は分からない』と言っていた。パーチェちゃんは能力を使っていないどころか、能力の話をすることすら嫌がっていたようだ。そりゃ、誰も分からないに決まっている。
その、誰も分からない能力を見極める方法があるんだろうか。俺今『能力出してみろ』って言われても何にも出せる気しないぞ?
「何だか、やけに興味津々ですね……」
エイリーはやはり訝しげに俺を見て、
「……まぁ、それはいいことですよね。かしこまりました。今、同時に、教えて差し上げます」
と、立ち上がった。そして木陰に入る。
「同時?」
エイリーは俺の言葉を無視し、目を閉じて何かを呟く。そして最後に俺の目を見て──
汝の体は岩より固く
汝の爪は大地を切り裂く
無機の体に勇気を灯せ
鋼の体に命を供せ
──詠唱?
と、その時だった。
エイリーの両手に、突如巨大な歯車が展開した。
金色を基調にして、眩しい。二枚の歯車がギチギチギチと空気を振動させている。
な、何だあれ。
グラス? フレア? アクア? え?
ナイン……ってやつか?
「え、何? エイリー──」
「姫。ご自分の身は、ご自分でお守りくださいませ」
そしてエイリーは、微笑んだ。
柔らかく、天使みたいに。
その笑顔に思わず息を飲んだ次の瞬間、
「精霊のご加護あれ! 『操獣機巧!」
いきなり目の前が金色になって──
続く