第七話『機械は語る』
世界が水に沈む。
僕があの時見たものは、やはり……。
『彼は、天才的な発明家だった』
『そして彼の発明の集大成、時空を超える技術の開発……』
文明が発展している世界だとは思っていたが、時空を超える、とは。
この世界でも、ソフォスって人はかなりの天才だったようだ。
『実験は失敗した。でも、ほんの一瞬だけ、彼は時空の狭間を見た』
『そこに映っていたのが、未来の、海底に沈んだ都市だった、らしい』
ソフォスは、未来を観測する事は出来たのか。
流石に時空間移動なんて真似は出来なかったようだが。
そして、最悪の未来を予知できた、という訳か。
『彼は、その事を学会で発表した。でも……』
『彼の言葉は、妄言だと切り捨てられた』
そんな、予感はしていた。
何時だって、偉大な発見者は詐欺師呼ばわりされるものだ。
『彼の才能を妬んでいた者も学会には大勢いた。それも要因だったかもしれない』
「……未来観測の、再現とかは出来なかったのか?」
『そもそも、運よく未来に繋がっただけの代物。それに、失敗の時に装置は破損してしまった』
どうにもならなかったんだろうな、彼は。
ここまで来れば、僕だって話の結末は見えてくる。
『誰にも信じられなかった彼は、自分一人でも生き延びようと決意した』
『そして、このシェルターを作った』
この場所は、水に沈む世界を予知して作られたって訳か。
水に浮くシェルター、まさにうってつけだ。
『此処が完成してから、彼は此処で暮らし始めた』
『人間が、完全に生きていく為の設備を内蔵した、この場所で』
この島、スピティは、元より海の上に作られたんだな。
ソフォスは、来たる崩壊の日に備えて、此処で暮らしていたのか。
『他の人間にちょっかいを出されない為に、この島は擬装されている』
『彼は、人間不信になっていた』
なるほど、島の草木にあった違和感はこれか。
しかし、ソフォスも悲しい人だな。
人を信じられなくなって、一人で生きていくなんて。
『そして、その日がやってきた』
『……彼は、此処に籠っていたから、詳しくは知らなかったみたいだけど』
『世界中に出現した空間の穴から、大量の水が流れ込んだらしい』
意外、だと思った。
てっきり、海面上昇とか、そういったものが原因かと思ったのに。
そんな突飛な理由だとは。
『原因不明。世界は瞬く間に水に飲み込まれた』
『これが、これまでの経緯』
「有難う。ソフォスさんは……」
『約百年前に死亡した』
百年前!?
つまり、この世界がこうなったのは……。
「その、滅亡の日って、今からだいたい何年前?」
『およそ、百五十年前』
……どうやら、僕の想像以上の時間が経過していたようだ。
という事は、この島って築百五十年以上……?
『前管理者が死亡してから、彼の最期の命令を受け、私は待機し続けた』
「最期の、命令?」
『……此処に人が訪れるまで、スピティを管理し、状態を保つ事』
『そして、その人に、全権を与える事』
ソフォスは、それを言い残して、亡くなったらしい。
彼女の説明内容も、大体はソフォスが語った話だという事だった。
『……確信、した』
「えっ? 何をだ?」
いきなり何を言い出すんだ。
確信……?
『貴方は、記憶喪失か、この世界の人間では無い、という事を』
「っ!?」
別にやましい事でもないのに、ドキリとした。
何故、僕の事が解ったんだ!?
『この世界を滅ぼした災厄。これについて知らなっかったというのに違和感』
『そもそも、貴方の様な年齢の人間が、一人で此処に来たことも謎』
『服装も妙。人工知能の存在も知らない。そして』
『世界共用語についての質問、あれも変だった』
……思い返せば違和感丸出しだな、僕。
まあ演技する必要も無かった、というかそんな余裕無かったというか。
『真実を語れとは言わない。ただ……』
「いや、話すよ。君にだけ話させといてこっちが喋らないってのは不誠実だしね」
『……人工知能に対して、誠実を語る? 変な人』
一度に情報が入り過ぎて、頭がパンクしそうだった。
ちょっと落ち着いて、僕の事を話ながら、頭を整理する事にしたのだった。