第六話『人工の島、人工の知能』
人工知能。
今、彼女は、そう言ったのか?
衝撃的な事態に、思考がままならない。
「貴方は……何をしているんですか」
漠然とした、意味の良く解らない質問。
そんなものがつい口から出てしまうほど、僕は混乱しているのだ。
『……此処の管理、及び運営のサポートを行っている』
さっき言ってた事だ。
落ち着け自分。
相手は人工知能と言っていた。
それが本当なのかどうかは、今はどうでもいい。
真実を確かめる手段は、僕にはないからだ。
いま確かなのは、この声の主は僕と会話をする意思がある、という事。
謎だらけの僕に、答えをくれるかもしれない人物だという事だ。
「あ、えっと、僕の名前は、蒼嶋優希と言いまして……」
『口調。それでは不適切』
「え……?」
『此処の管理者となる貴方が、私に対して使う口調ではない』
丁寧語を指摘されてしまった。
ていうか、管理者だって!?
「ちょっと待って、管理者って!?」
『その口調は適切。管理者とは、言葉通りの意味』
相変わらず無感情というか、そんな声で返されてしまう。
言葉通り、管理者。
つまり、この島、この場所を管理する者。
それが、僕?
「そんな事いきなり言われても、何が何だか……」
『最初から説明する。良く聴いて』
ちゃんと説明できるのか。
ちょっとだけ落ち着きを取り戻し始める。
……いや、待てよ。
おかしいぞ。
今までまったく意識してなかったけど、決定的におかしい事が起きているぞ。
「説明の前に、質問いいか?」
『……了解。ご自由に』
「さっきから使ってる言葉って、何語だ?」
これだ。
明らかにおかしい事。
それは、このフィリアと名乗る人工知能が日本語を使っていることだ。
ここは僕の常識外の世界。
つまりは僕の元居た世界ではない、異世界だ。
なのに、日本語を話している。
どういうことだ。
『……私が使用している言語は、全世界共用かつ、最も広く使われる言葉、クラトリア語』
「く、クラトリア語!?」
『?……驚く意味が不明。貴方も使っている言語』
ますますおかしいことになってきた。
クラトリア語、聞いたこともない言語だ。
どうも日本語とこの言語は同じものらしい。
常識が通用しないとは分かっていたが、ここまで奇妙だとは。
こうなってくると、この世界はもしかしたら……。
『質問は以上? であれば説明に入る』
「あ、ああ。大丈夫だ、続けてくれ」
いけない。
どうにも考え事をすると止まらない節があるな、僕は。
今求められる情報に、耳を傾ける事にしよう。
『この島は、人の手によって作られた。所謂人口島』
『正確には、海に浮くように設計された、大型のシェルター』
僕は、近くにあった手頃な椅子を持ってきて、それに座って聴いていた。
しかし、まさかこの島その物が人工物だったとは、考えもしなかった。
『この浮島型シェルター、名称はスピティ。着工から約三年で完成した』
こんなものを作り上げるなんて、かなりの技術だろう。
そもそもこんな人工知能が存在する時点で、この世界の科学技術は凄まじく進んでいる事になる。
『設備の詳細については省略する。此処スピティは、前管理者が、自身の為に作った物』
前管理者。
ここを作った人であり、ここを管理していた人。
一体、何のためにこんな物を?
『前管理者、名をソフォス・バルクゲヌアと言う。彼は、世界の崩壊から生き延びるために此処を作った』
世界の、崩壊。
漫画やゲームでよく聞く、非現実的な単語だった。
そんな馬鹿な、と思い、ハッとする。
この島に漂着して、海の中に見た物。
水の底に沈む、建物の数々。
まるで、人が暮らしていた町が、そっくりそのまま浸かってしまったような光景。
あれは……。
『ソフォスは、世界の崩壊を予知していた。だから此処を作った』
「ちょ、ちょっと待って! 世界崩壊は分かった、でも、予知って一体!?」
つい話を遮ってしまう。
しかし、未来予知なんて、どういうことだ?
予知できても、対策する事は出来なかったのか?
『……全て説明する。彼は、見てしまった』
『世界が、水底に沈む光景を』
少女の声で、淡々と。
人工知能フィリアは、恐ろしい事を口にした。