第四話『深まる謎』
何かがおかしい。
林に入って、まず僕が感じた事、それは違和感だった。
草木が茂る、一見普通の林。
しかし、何処か変だ。
余りにも、そう、余りにも静かすぎる。
こんなにも自然があるというのに、何だこの静寂は。
こんなところ、普通は虫がいるものだろう。
なにかしらの生物がいるべきだろう。
でも、何もいないのだ。
それに、よく観察すると、草や木の植物もおかしい。
何というか、生気が感じられない。
手に取って、葉っぱを触ってみる。
確かにそれは本物の葉っぱと同じ手触りだったが、何かおかしい。
表現できないが、確かに違うのだ。
そしてそれは、木も同じだった。
この島のこの場所、いや、この島自体が。
まるで、自然に思えなくなっていた。
いや、僕の考え過ぎだ。
此処は僕の知る世界じゃあない。
であれば、今までの常識と比べる事が無意味だ。
冷静になれ、自分。
今は、どうにかして人の痕跡を見つける、それだけなんだ。
何とか邪念を振り払って、道を進む。
そして、ふと気付く。
僕が今まで林に入ってから歩いてきた道。
なんというか、とても、歩き易かった。
まるで、人間が通る事を想定していたかのように。
結局、再度噴出して来る疑念に頭を抱えながら、僕は進まざるを得なかったのだった。
疑惑は、確信に変わった。
しかしこの事実を喜べばいいのか、それとも恐怖すべきなのか。
僕は、一本の大木を眺めながら迷っていた。
暫く歩いて見つけた、比較的大きめの木。
周囲に生えている木とは幹の太さが明らかに違った。
まぁやはりと言うべきか、違和感しかなかった。
これまで見ていた全ての木は、全く同じ大きさをしていたのに。
これだけ差があれば、気になってしまうだろう。
まるで、この木だけ特別な何かがある、そんな気がしたのだ。
僕はそれに近寄ると、何の気なしに、コンと幹を叩いてみた。
そして返ってきたのは、予想出来なかった音。
カン
まるで、金属の板を叩いた時の様な、そんな音がした。
見た目は完全に木なのに、金属音。
もう、調べるしかなかった。
それから、やたらめったらにその木?を触りまくって、観察した結果。
何か、取っ手の様なものが突き出しているを見つけて。
恐る恐る手に取り、手前に引くと。
扉が、開いたのだった。
ここまでが、僕の疑念が確信に変わるまでの経緯。
そして、真の問題はこれからだ。
木に出現した、謎の入り口。
中は暗く、何も見えない。
手前に開いた扉を見ると、外側は本当に木と同じ見た目だった。
内側は、何やら灰色の金属で出来ている。
なるほど、秘密の扉を、木にカモフラージュさせていたんだな。
いやいや、少し待ってくれ。
何だ、これは。
この世界に来てから、正体不明の事態が起こり過ぎている。
ちょっと落ち着いて、考えてみる。
今までの経験から、どうやら此処で起こる事にいちいち疑問を抱いていたらキリが無いようだ。
そういうものと割り切って、サッと決断した方がいい気がしてきた。
明らかに人為的な木の扉、それがなんだ。
誰がどうやって作ったかとか、今はどうでもいい。
この中に人がいて、その人が僕に対して友好的なのか、それだけだ。
気持ちを新たに、僕は木に侵入する。
外から見た時は分からなかったが、中は思ったよりも狭かった。
そして、すぐに階段があった。
地下へと続く、階段が。
思わず、足が竦んでしまう。
暗く、目を凝らさないと見えないような階段。
その先は完全な暗闇へと続いている。
そういえば僕が昔やってたTVゲームに、地下迷宮を攻略するというイベントがあったっけ。
そんな、どうでもいい事が頭に浮かぶ。
ゲームの主人公は、こんなに怖い思いをしていたのか。
未知への恐怖とは、こんなにも凄まじいものなのか。
僕は、普通の人間だ。
ゲームや漫画の主人公の様に、勇敢にはなれない。
ただ、ただ生きていく為に。
僕は壁を手で探りながら、階段を降りて行った。