第三話『生存への道』
毎日7時頃に投稿していく予定です。
ずぶ濡れになった衣服に不快感を感じながら、僕は再度陸地に上がった。
あの後、ぼんやりと海を眺めていたが、不意に、強い不安感が襲ってきたのだ。
この恐怖の正体は、はっきりとは解らない。
透明過ぎる海に感じたのか。
異形の生物に感じたのか。
僕自身にも解らないが、何とも言えない恐怖を抱いたのは、事実だった。
思わず身震いし、急いで上陸した。
海岸沿いを、歩いていく。
決して水には浸からないように、海から一定の距離を空けながら。
どうやら僕は、僕の思っている以上に臆病になってしまっているようだ。
暫く歩いて、足を止める。
まだそれ程歩いてはいないが、こうも景色が変わらないと不安になる。
この世界、僕の知らない世界なので、異世界とでも言うべきか。
この世界に、僕と同じ人間がいる事は望めないだろう。
何が原因で僕が異世界に来てしまったか解らないが、ここでは僕の常識は通用しなさそうだ。
人に会って助けてもらおうなんて、希望的すぎる観測はやめておこう。
歩みを進めていく。
同じ場所に居ても、展望は無い。
この状況を打破するべく、僕は移動するのだ。
現状、僕には解決すべき課題が二つある。
一つは、生存するための策を見出す事。
人間が生活できる環境を、何とかして見つけ出さなければならない。
食べる物も、水も、家も無い。
このまま時間だけが経てば、僕は遠からず死ぬだろう。
折角溺死を逃れたのだ、こんな所で死んでたまるか。
二つ目の課題は、ここが何なのか情報を集める事。
これは一つ目の課題が達成され、安定してから行うべきことだ。
ここは一体何なのか、何故僕は此処に来たのか。
そして、僕は元の世界に帰る事が出来るのか。
結局、現状最優先されるのは、僕の命を繋ぐ事だけだ。
それだけを考えて歩く。
そして……。
「……冗談、だろ?」
つい口から言葉が漏れてしまう。
そうでもしないと、やってられなかったから。
僕の目の前にある、ごちゃっと纏められた海草の塊。
陸地に上げられ、まだ湿っている。
これは、僕がさっき置いたものだ。
歩き始める前、僕は浅瀬の海草を拾って、置いておいたのだ。
此処が初めての上陸地点だと、解るように。
それが今、僕の目の前にある。
僕は、決して後退などしていない。
ずっと、真っ直ぐ進み続けたのだ。
つまり、これらから導き出される答えは一つ。
僕は、一周したのだ。
つまりこの地は、島なのだ。
それも、もの凄く小さい島。
想定外の事態だ。
いや、想像していたが、考えたくなかった事態か。
この陸地が、一つの小さい島である事が確定した事。
そして、島を一周して、何も見つけられなかった事。
この事実が、僕から希望を奪っていく。
海岸には、何も無かった。
漂着物等があってもよさそうだが、何も落ちてはいなかった。
人が住む痕跡も無く、本当に、土と海草と海だけだった。
しかし、僕にはまだ探索していない場所がある。
林の中だ。
そこまで木が多く茂っている訳でもなく、草も低いので、入る事は簡単そうだ。
しかし、余りにも危険で、勇気のいる事だった。
僕の現在の格好は、白のワイシャツに黒いズボン、これだけだ。
長袖長ズボンだからまだマシだった。
林に入るのに肌の露出は極力避けたい。
今、僕の身体を守る物は、この服しかないのだから。
僕に、選択肢は無い。
この林に突入する、これしかないのだ。
ぐるりと回ってみて、この島はさほど大きくない事が解っている。
ならば林も、そこまで広くはないはずだ。
それが良い事なのか、悪い事かは判断できないが。
少なくとも、迷って出られないなんて事はない、はずだ。
意を決して、林に向かっていく。
ここは、僕にとって未知の世界。
この林を形成する草木も、住んでいるであろう生物も、きっと未知の物。
何が起こるか解らない。
不安で、怖い。
でも、それ以上に。
何も知らぬまま、諦めて死んでいく方が、僕には怖かった。