最終話『水没異世界の楽園』
「嘘だろ……こんなことって」
体が、震える。
強い絶望を感じ、僕は崩れ落ちた。
柊さんが何か言っている気がする。
一週間後、目的地にて。
結果は、何も無かった。
本当に、何にも無かった。
凪いだ海は、いつも通りで。
陸地なんて、何処にもなかったのだ。
終わりだ。
目の前が真っ暗になる感覚。
「優希さん! 優希さん!!」
柊さんが僕の肩を揺すっている。
もう、終わりなんだから。
やめてくれ。
「フィリアさんから、何か……」
そういって、無線機を渡してくる。
フィリアが?
『……報告。スピティの真下、海底付近から強い信号を感じる』
「……真下だって?」
海底。
まさか海の下に何かあるのか?
急いで浅瀬に入る。
そして島のギリギリまで行き、相変わらず透明な海を覗き込んだ。
水に沈む、街並み。
しかし、動くものがある。
底の方で、何か光る物体が、あった。
まるで火の玉の様なそれは、ゆらゆらと移動していた。
生き物、か?
『……何か見える? 信号は依然発せられている』
フィリアが何か言っているが、それどころではなかった。
火の玉らしきものが、急速に速度を上げて上昇してきたのだ。
猛スピードで浮上してくる、それ。
それは、明らかに僕たちの方へ向かっていた。
「危ない!」
思わず、柊さんを押し倒す形で、身を躱してしまった。
水柱。
轟音と共に、目の前に水の柱が出現した。
続いて、光の球。
水中から出現した何かは、空高く舞い上がると、再び海に落下した。
海面に浮かぶそれは。
人の、顔だった。
「貴方達誰?新しい人?」
顔、いや、その人は、にこにこながら話しかけてきた。
「いや、僕たちは……」
「あー、自己紹介しないと。私ローレライ! よろしくね」
そういって彼女はばしゃりと跳ねた。
下半身には、魚の姿が。
ローレライは、人魚だった。
人魚たちは、この海で暮らしているらしかった。
いつの間にか、この世界に来ていたそうだ。
恐らく、次元の穴からだろう。
彼女たちはこの海の底の街に住んでいるらしい。
そして、驚くべきか、彼女たちは独自の技術を持っていたのだ。
すなわち、魔法。
最初は信じられなかったけど、実際に目にして驚いた。
あの日から、僕たちの生活は一変した。
スピティは此処に停泊し、拠点になった。
人魚たちは面白がって、よく島に遊びに来る。
何でも、ヒレのない者が珍しい様だった。
魔法で、色々助けてもらった。
食料問題も、何やかんやで解決した。
魔法ってすごい、改めてそう思った。
海を泳ぎ、彼女たちの街へ行ったりもした。
綺麗な海を泳ぐ、人魚たち。
皆良い人魚で、楽しくやっている。
帰ることは、出来ないだろう。
ローレライと話す柊さんを見て、思う。
でも、別にいい。
この世界の皆で、生きていこう。
『……諦めた?』
フィリアが尋ねてくる。
そんな言い方は無いだろうに。
「いいや、チャンスがあったら帰るさ」
「それまでは、まぁ、この世界に落ち着こうってね」
今日も、海は光る。
太陽を反射し、月明かりを反射し。
世界は、水没しているのだった。
早々と最終回です。
短い作品でしたが、有難うございました。