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第十四話『異世界の日本人対談』

「異世界……ですか」


「ええ。信じられない事だと思いますが」


 僕は、色々とこの世界について話した。

 今までの事や、フィリアの事。

 彼女、希望ヶ丘柊(きぼうがおかひいらぎ)さんは、黙って話を聞いていた。

 そして、話終わると、静かに口を開いた。


「……確かに、信じられません」


 やっぱりか。

 僕だって、確かな証拠を見せられなかったら、そう信じることは出来ない。

 と、なると。


『……提案。彼女には外を見てもらえば良い』


「そうだな。それが一番確実で手っ取り早いか」


 あの光景を、見てもらうのがいいだろう。





 エレベーターを使い、地上に上がる。

 希望ヶ丘さんは、僕と少し距離を取って歩いていた。

 警戒されているな、僕。

 しょうがない話ではあるのだけども。

 

 暫く歩いて、浜辺に着く。

 ズボンの裾を捲り、浅瀬に入っていく。

 希望ヶ丘さんは少し躊躇っていたが、後を着いて来た。

 そして、あの光景を見せる。

 

 沈んだ町、透明な海、謎の生き物。

 希望ヶ丘さんは暫し呆けた後、俯いて何かを考え込んでいるようだった。

 意外に、驚いていない感じがする。

 僕は、腰を抜かしてしまったけどなぁ。

 

 希望ヶ丘さんの精神力に関心しつつ、待つ。

 何と無く手持ち無沙汰だったので、岸に上がって待つ事にした。

 

 時間にして、数分か。

 希望ヶ丘さんは岸に戻ってくると、神妙な顔で話しかけてきた。


「……これは、信じざるを得ませんね」


「良かった、信じてもらえて」


 どうやら疑いは晴れた様だ。

 あんな物見れば、そうなるだろうが。


「あの、私って、これからどうすればいいでしょうか」


 不安そうにこっちを見る彼女。

 僕も、フィリアに対してこんな感じだったな。

 何も解らない世界に怯えて、不安でしょうがなかった。

 ……僕、たった一日で適応し過ぎな気がする。


「元の世界に帰る方法も解りません。だから、お互いに協力していきましょう」


「協力、ですか?」


 彼女は不安でしょうがないはずだ。

 なるべくその気持ちを取り去ってあげたかった。


「はい。この世界に人間は僕らしかいません。人工知能、フィリアもいるけど」


「人手は多い方が、生活し易いと思うんです。あー、助け合い、と言いますか」


 僕って、こんなに口下手だっただろうか。

 長い間人と会っていなかった、そんな錯覚に陥っているのかも。


「……そうですね。それじゃあ、お世話になります」


 希望ヶ丘さんは頭を下げる。

 了承してくれて良かった。

 パニックも起こしていないし、冷静な人のようだ。


「こちらこそ、お世話になります」


 そういって、僕は手を出す。

 希望ヶ丘さんもそれに気づき、微笑みながら握手を交わした。


 彼女の手は、とても冷たかった。





 地下に戻って、設備の説明をして回る。

 主にフィリアが、だけど。

 僕も昨日知ったばかりだし、おさらいも兼ねた。


 柊さんは、この世界の技術力に驚いていた。

 僕だって、今でも驚くからなぁ。

 

「凄いですね。こんなに充実しているなんて」


「うん。此処なら安定して生活できると思うよ」


 柊さんに言われて、喋り方を変えた。

 これから生活していく中で、敬語は止めてもらいたかったらしい。

 柊さんは敬語のままだったけど、それはそれ、との事。


『……質問。彼女は何処で睡眠をとる? 寝室は一人用』


「それなら僕が研究室のソファで寝ればいいよ」


「えっ!? いや、悪いですよ!」


 幾らなんでも女性をソファで寝かせて自分だけベッドで寝られない。

 一緒にベッドで寝るなんてもってのほかだ。


「大丈夫だよ。ソファも結構大きいし」


「……すみません。お言葉に甘えます」


 少し申し訳無さそうだけど、了承してくれた。


 さて、これからどうするか。

 一人のメンバーを加えて、今後の予定について話し合う事となった。





『……食料について。現状、約五年分の備蓄がある状態』


「五年間、その間に元の世界に帰る方法か、食糧確保の方法を確立しないといけないのか」


 柊さんが居る分、食糧は半分になって五年分だ。

 一気に食糧不足が心配される。

 どうにかしなければいけない。


「あの、本当にごめんなさい……」


 俯き、謝る柊さん。

 自分のせいだと感じてしまっているようだ。


「謝る事じゃないよ。遅かれ早かれ、食糧について考えなきゃいけなかったんだ」


『……事実。現状を理解し、それに最適な方法を見つけるのが最良。謝罪は不要』


 フィリアは事実を言っているだけだと思うが、いい感じに励ます結果になった。

 

「……そうですね。 私に手伝える事なら、何でも言ってください!」


 どうやら効果はあったようだ。

 ……しかし、実際どうすればいいんだ。


「やっぱり、漁をするしかないのか」


『……設備的に、その場しのぎにもならないと思われる。安定した供給は不可能』


「そんな……何も方法が無いんですか?」


 このシェルターは、ソフォスが一人で生きる為に作ったものだ。

 そこに人間二人が来て、長期間生活できるはずがなかったのだ。


 今までの楽観的な思考から、切り替えさせられる。

 何もしなければ、五年後には飢え死にが待っているのだ。

 しかし、解決策が……。


『……方法は、ある』


 フィリアの声が、室内に響く。

 気のせいだろうか。

 いつもより、一層、冷たい声のような気がした。

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