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第十二話『浮島探索記~地上編~』

「なんだこれ?」


 僕の目の前にある、一つの扉。

 開いてみると、中は何も無い、ただ狭い空間があるだけだった。

 

『地上まで通る、移動用の昇降機』


 つまり、エレベーターという事か。

 確かに此処は地下だから、あれば便利か。

 いや、ちょっと待て、確か……。


「僕が此処に来たときは、階段を使ったんだが……」


『……あれは非常用の階段。本当の出入り口はこれ』


 そうだったのか。

 偶々僕が発見したのが非常口だっただけか。

 確かに外に出るたびにあの階段を上り下りするのは骨が折れるからなぁ。

 しかし、エレベーターか。


「なあフィリア。これ使ってみてもいいか?」


『……問題ない。動力も通っているから、いつでも使用できる』


 フィリアがそう言うのなら、安全は大丈夫だろう。

 早速乗り込み、ボタンを押そうとする。

 そして、気が付いた。

 このエレベーター、スイッチも何もついていない。

 

 フィリア、と声をかけようとした時、ガコン、という音と共に、エレベーターは動き出した。

 どうやら完全に自動らしい。

 

 そして、あっというまに到着。

 本当に、あっ、というまだった。


 扉に手を掛け、開く。

 暗い空間。

 あのときの階段を思い出した。

 

『ここから、私はナビゲーション出来ない。注意して行動して欲しい』


「ああ。……無線機とかないの?」


『……存在する。もしかして、怖くなった?』


 怖くない、と言えば嘘になる。

 今まではフィリアのサポートがあったからだ。

 でも、フィリアと出会うまでは、僕は一人でこの島を探索したじゃないか。

 地図もある。

 何か起きても、すぐ此処に戻ってくれば良い。

 

「馬鹿言え。すぐに戻ってくるから、それじゃあ」


 少し強がって、僕は前に進んだ。

 目の前の壁を、ゆっくり押す。

 そして、強い光。

 僕は外に、再び出たのだった。

 




 外に出て、振り返ってみると、やはりと言うか、木だった。

 一本の木に偽装した、地下研究所への入り口。

 何と無く、秘密基地という感じがして、ワクワクする。


 林の中を、歩く。

 この林に生えている草木は全て、人工の物だ。

 そして、これらがスピティの電力を作り出す、大切な役割。

 地面の草を触るが、まったく偽物だとは解らない。

 本当に、どういった仕組みなんだろうか。


 真っ直ぐ歩いて、海岸に出た。

 スピティの表面部は、大した物が無い。

 林と、海岸部。これだけだ。

 生きている動植物すら見当たらない。

 

 それにしても。

 この島が本当に人工物で、しかも浮島だなんて。

 全く感じられないし、以前の僕だったら信じられそうも無い。


 海岸線を歩きながら、思考する。

 この世界は、完全に水没してしまっている。

 人間は、生き残っているのだろうか。

 この海の何処かに、まだ生きている人が暮らす場所があるのか。

 ソフォス、そしてフィリアの考えでは、もう生き残りはいないというが。

 ……僕は、この世界にたった独りの人間なのか。


 太陽は、元の世界と変わらずに輝き、海に反射している。

 フィリアと話している間はよかったが、こうなると孤独感が凄まじい。


 何もない、島の表層。

 折角こんなにスペースがあるのだから、何か作ればいいのに。

 ……太陽光発電に支障が出るのかもしれない。


 ぼーっと考えながら、散歩する。

 そろそろ島を半周する頃だろうか。

 一応、林から出た直後の地面に目印を置いてきたから、帰られなくなったりはしない。


 ふと、地面に、海草の塊が落ちているのが目に入る。

 これは、僕が此処に漂着した時の……。

 となると、ここは僕の最初の遭難地点か。

 ここから林にはいいって、あの扉を見つけたんだったな。

 

 つい昨日の事なのに、随分時間が経ったように感じる。

 それほど、多くの事が起こりすぎたという事だろう。

 

 足を止め、海を眺める。

 僕は、この広い海の何処から流れてきたんだろうか。

 よく、死なずにすんだものだ。

 運よく流れ着き、運よく意識が回復した。

 本当に、不幸なんだか、幸運なんだか。

 自分の今の境遇に、自嘲気味に笑みを浮かべた。


 昨日は、黄色い大海蛇が見えたんだっけ。

 僕は思い返しながら、海の遠くを見ようとする。

 ……あれは一体なんだ?

 遠くでは無い。

 いや、あれはすでにこの島に着いている。

 海草だれけの浅瀬、僕が最初に目覚めた場所。

 何かが、いる。

 

 その何かを、良く確かめようと近づく。

 そして、僕は気が付いてしまった。


 それは、人、だった。

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