第十一話『浮島探索記~地下編~』
訪れたばかりの、浮島スピティ。
朝食を終えた僕は、早速色々見て回ることにした。
探検なんて大仰に言ったが、別にたいした事じゃない。
フィリアの案内を聞きながら、散策するだけ。
昨日行ったのは、シャワー室、倉庫、寝室、トイレ。
他にも様々な設備があるだろう。
動きやすそうな服に着替え、準備する。
この世界の服は、僕の世界の物とあまり変わらないな。
しかし技術力の違いを考えると、大分物が良いんだろうな。
……この服って、ソフォスの物だったんだろうか。
僕が今生きていられるのは彼のおかげだ。
故人に感謝して、生きていこう。
『……意外。思っていたよりも筋肉質だった』
「えっ」
フィリアの声。
そういえば、このシェルター内は全てフィリアの監視下だった。
つまり僕の着替えも全て見られていた訳で。
……何だか恥ずかしいぞ。
「冷静に身体分析しないでくれ。恥ずかしい」
『人工知能相手に羞恥を感じる? やっぱり貴方、変』
『……貴方の健康状態の確認。気にしないで欲しい』
幾ら人工知能相手だからって、気になるものは気になる。
これで声がおっさんとかだったらまだいいが、フィリアは少女の声なのだ。
人工知能という物が身近に無かった身としては、慣れないものもある。
『……異常無し。体調は?』
「すこぶる元気だよ。よく眠れたしね」
本当にフィリアがいて良かった。
話し相手がいる、というのは、大切だ。
孤独で生きていく事は、僕には出来ない。
研究室に戻り、椅子に掛ける。
昨日、机の上に見つけた、スピティ内部地図。
それを広げ、見ながら話す。
「という事で、今日は探索だ。案内頼むよ」
『……了解。まだ説明していない設備もある』
地図を小さく折り畳み、服の胸ポケットに入れる。
それ以外特に持ち物も無いので、僕は研究室から移動すべく、歩き出した。
「この部屋は……調理室、か」
『……食材を加工するために作られた。ソフォスは一度も使わなかったけど』
扉を開けて、中に入る。
寝室よりも少し広い部屋。
台所が、そこにはあった。
僕の知っている台所と少し違うのは、その設備だろう。
流しがあり、調理台がある点は変わらない。
しかし、包丁やまな板などの調理器具は何処にも見当たらなかった。
引き出し等も無い。
代わりに目に付くのは、調理台上部から伸びる、三本のアームだった。
自動車工場にあるような、機械の腕。
先端はゴチャゴチャとしていて、用途がよく判らない。
「あー、この機械は?」
『高速電光調理機。台に食材を置けば、自動で調理を行う』
いかにも未来技術って感じの代物だった。
自動調理か。
中々凄い物だな。
『……これまで一度も使われたことは無い。ソフォスは料理をしなかった』
「そうなのか? こんなのがあれば料理下手もなにもないと思うけど」
『……そもそも調理する必要のある食材が無かった。ソフォスは保存食を使っていた』
『緊急時の為の物だったけど、その時は訪れなかった』
保存食だけ食べて生きていたのか。
確かに、美味しくて、腹も膨れて、手軽だからなぁ。
しかし……。
「保存食、だけじゃなぁ」
そうなのだった。
幾ら美味しくても、元の世界での食生活とは大きく異なる。
色々な物が食べたい、と思うのだ。
『……一応、ソフォスは周囲の生物について調査していた。食べる事の出来る生物も、いる』
「それって、あの大海蛇じゃないだろうな」
周囲が海なのだから、水生生物という事になるだろう。
気持ち悪い外観じゃなければいいが。
取りあえず、食材さえあれば調理できる事は分かったので、此処を出る。
手元の地図を見つつ、隣の部屋に向かう。
「次の部屋は……栽培室?」
『……植物の栽培を行う部屋。今も稼動している』
少し厳重な扉を開けて、中に進む。
そこは、研究室ほどではないが、かなり広い空間だった。
そして、何よりも一番に目に飛び込んできたのは、床一面に広がる、地面だった。
まるで、外をそのまま室内に運んできたかのような、そんな場所。
土は綺麗に区画分けされており、幾多の植物が生えている。
天井からは青色の光が降り注いでいる。
「凄い場所だな……此処の役割は?」
『……各種植物の保存と栽培。食用になる物も育成している』
管理は全てフィリアが行っているらしく、それで今まで維持してきたそうだ。
僕に出来る事は無いし、食事事情がまた一つ解決したな。
野菜に関して問題は無さそうだ。
「それにしても、こんなに沢山の設備、よく動かす電力があるな」
気になっていたことだ。
ソフィアや、この島全体を動かす動力。
一体どうやって確保しているのか。
『……太陽光を使って発電している。それだけで全体の動力を賄っている』
衝撃の事実だった。
太陽光発電は元の世界にもあったが、これほどの電力を生み出せるとは。
『島の表面にある、擬似植物等が発電用の装置。言ってしまえば、外側全てが発電装置』
僕が見た林や地面。
あれが全てソーラーパネルの役割だったのか。
本当に、凄い技術だ。
「じゃあ電気に困る事は無いんだな」
『……それでも、現状の機能維持が限界。スピティの機能を超える電力消費は出来ない』
まあ、問題ないだろう。
ぎりぎりでも、それで足りているのなら、それでいい。
色々な生活課題を着実に解消しつつ、僕は次の部屋へと向かうのだった。