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翌日。日が明けてみればどうということはない。ヴォルメ3機撃破の実績など無かったかのように、いつも通りの一日が始まっただけだった。昨夜の出来事は、結果から言えば部屋のプラモが数個壊れただけの現象だったのだ。
それが証拠に、俺は今日もこうしてバイト先のスーパーに来て、荷物の詰まったコンテナを台車に載せて運んでいる。台車の車輪がゴトゴトと退屈な音を立てる。
売り場の棚とバックヤードを何度も行き来している。売り場に出るたび、暇そうなバイトが何人も目に付くのだが、バックヤードで荷物運びをしているのは俺1人だ。
はっきり言ってこのスーパーは人員の配置が上手く行っていない。残念ながら俺はそれに文句を言える立場ではない。
「祐樹君、速く頼むよ」
肉売り場の担当チーフに急かされ、早足になる。
こうして延々と荷物を運び続けていると、俺は一体何のために働いているのだろうという疑問が首をもたげる。大して辛くはないが、心が腐っていく。バイト代も決して割が良い方ではない。
何のためって、もちろんゲームをするためだ。そう自分に言い聞かせて台車を押す。
「はぁ……」
コンテナ置き場に着いた時、ポケットでスマホが震えた。無視しようと思ったが、コールがあまりにも長く続くので流石に気になった。周囲を見回してみると、幸いにして誰も居ない。とりあえずスマホをポケットから引っ張り出して着信相手を確認した。
画面には『スクリロ商会』と表示されていた。電話帳にそんな名前を登録した覚えが無い。
仕事中に携帯をいじってはいけないという倫理観よりも好奇心の方が勝って、通話ボタンを押した。
「ようやく出たね。2コールで出る決まりでしょ。守ってる人、あまりいないけど」
聞き覚えのある声。力の抜けた独特のしゃべり方。たぶん昨日、無線で話した女だ。
「今、アルバイトの最中だ」
「また? ほどほどにしないと主任に目を付けられるよ」
「どこで働こうと俺の自由だ」
「確かに副業は許されてるけど、限度はあると思うよ。今使ってるSRが商会から提供された機体だってことを忘れないで」
「どうしてそこでSRが出てくる?」
「アルバイトにSRは必需品でしょ」
どうやら彼女は『アルバイト』という言葉を何かしら物騒な意味として受け止めているらしい。
「コンテナを運んでるだけだ」
「ふぅん。で、中身は何?」
俺はチラッとコンテナの中身に目をやった。店の規定時間を過ぎて廃棄されることになっている生鮮食品数種類が詰まっている。なぜか集積先は廃棄品置き場ではなくパッケージ作業場に程近い一角に儲けられていて、俺はこれからそれほど痛んでいないと思われる食品を選り分けて再度パッケージするという作業を行うことになっている。
「中身は単なる廃棄品さ。それを再利用して商品価値をつけるのが俺の仕事」
「核廃棄物?」
思わず笑いそうになった。いくらなんでも受け取り方がずれ過ぎている。
「そんな大層な物じゃないよ」
「まぁいいわ。で、アルバイトはいつ頃終わるの?」
俺は壁の時計を見た。
「あと3時間というところだ」
「なら、今夜の作戦には問題なく参加できるわね」
「作戦?」
「アルバイトが終わり次第、座標60-23-36に集合。よろしくね」
電話は一方的に切られた。梱包主任のおばちゃんが部屋に入ってきて、スマホを手にしている俺をじろりと見た。俺は肩をすくめて見せ、さっさと廃棄品の選別作業を始めた。