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 座席に座ると同時にハッチが自動で閉まり、コクピット内に明かりがともった。目の前のディスプレイに様々な数字や文字が表示され、起動準備が整っていく。ここへ来て俺はようやく気付いた。

「どうやって動かすんだこれ?」

 ゲームならばプレイヤーは当然コントローラーを使ってロボットを操作しているが、本来ならロボットの制御には操縦桿を引いたりペダルを踏んだりという動作が必要になるだろう。場合によってはもっと複雑なことまで要求されるかもしれない。いやもちろん、それはそれでアリなのだが今の俺にそれができるかというと、いや、ロボットを動かすためなら多少の苦労はいとわないつもりだが、しかし。

 どうしたものかとコンソールを見回すと、右の隅に見慣れた端子があった。これはまさか?

『北西から敵接近。速くコントローラーを挿して』

 それでいいのかよ! まぁ、今はF1マシンのハンドルもゲームのコントローラーみたいだって言うしね。なんて自分を納得させながら俺はコントローラーを端子に接続した

 振動パックが機敏に反応し、ブルブルという震えが両手に伝わる。べつにそういう演出はいいから。と思った瞬間、座席が揺れ始めた。

 地の底からわきあがるような騒々しいエンジンの駆動音。気付けばディスプレイには「起動完了」と表示されていた。

 俺はゴクリとつばを飲み込んだ。

 そっと、左のアナログスティックを前に倒してみる。

 機体は当たり前のように反応した。脚部の油圧がうなり、姿勢を保つために上半身の傾きが自動で調節される。いくつもの細かなモーターが、小鳥がかすかにさえずるような心地よい音を立てる。そして穴の空いた隔壁を押しのけ、格納庫の外に一歩を踏み出したのだ。

 まとわり付いていた瓦礫がなだれ落ち、砂煙が上がる。

「あぁ、このために生まれてきた気がする」

『どうしたのユウキ? さっきからおかしよ』

「ちょっと感動しちゃって」

 十字キーを押してディスプレイにメニューを呼び出した。メニューのレイアウトもゲームと変わらない。さすがにメニュー操作中に時間が一時停止してくれるような親切な機能は無いようだが。

 現在の自機の装備を確認した。対SRライフル1丁、残弾200発。近接戦闘用のプラズマダガーが1本、使用残数12回。胴体左右の発射装置に小型ミサイルが1発ずつ。

 うーん、決め手にかけるな。でも最初ならこんなもんだろうか。

『敵影3機、上空から接近中』

 見上げれば満月が空に浮かんでいた。細い雲が幾筋か月光に青く浮かび上がっている。

 あちらこちらから火の手が上がってやたらと明るいせいで、星はほとんど見えないが。それでもなかなか良い夜だ。SRにも乗れたし。

 なんて考えている俺を尻目にSRのセンサーは夜空の中に敵の姿を見つけ出した。赤い六角形の照準が3つ、満月の下に表示される。

 スラスターで飛行するヴォルメが3機。

『残念だけど、友軍は別のエリアに向かってる。ここはユウキが押さえるしかなさそう』

 ヴォルメ3機なら楽勝だ。俺は方向キーで視点を操作し、3つの照準の内、最も近い一つに向かって対SRライフルを向けた。ライフルの有効射程に入ると同時に引き金を引く。

「あれ?」

 弾が出なかった。状況が飲み込めないまま棒立ちする俺に向かって上空から敵の砲弾が降り注ぐ。慌てて機体を後退させる。

「ちょっ、弾が出ないんだけど。どうなってるんだこれ?」

『故障? とにかく回避を優先して。その機体にはスラスターが付いてるから回避に集中すれば被弾することは……』

 スラスター起動ボタンを押す。ライフルと同じで何の反応も無い。

「この機体、大丈夫なのか?」

 ヴォルメ3機は低空飛行に入った。市街地の建物を盾にしながら接近してくるつもりだろう。こちらのライフルが役立たずなのを悟られなかったのは幸いというところか。

『ダガーはどう?』

 俺はプラズマダガーを選択してボタンを押した。

「駄目だ。これも反応が無いぞ」

『うーん……参ったな。基地に戻って診断プログラムを走らせれば原因が分かるんだけど』

 さっきから思っていたが、この無線の向こうの女はなんて暢気なんだろう。

「今そんなことしてる場合かよ。って、来ちまった」

 わき道からヴォルメが飛び出してきた。右腕の拳が発光しながらモニターいっぱいに迫る。

--レーザーナックル!

 とっさに左スティックを素早く右に入力する。入力ついでに人差し指が別のボタンに引っかかり、ミサイルが発射された。俺の機体は右にステップを踏んで殴打の軌道上から逃れ、ミサイルはヴォルメの右腕をあっけなく根元から吹き飛ばす。

 レーザーを発動したまま千切れ飛んだ右腕は、熱したナイフでバターを抉るように、ビルの外壁を軽々と突き破り、それでも収まらずに建物を丸ごと溶解させた。今作でもナックルの凶悪さは健在か。それにしても。

『ミサイルは反応した? 火器管制ソフトの設定ミスじゃなかったのかな』

 もやもやとしたものが頭の隅っこに沸きあがった。機体の不調の原因に心当たりがある気がする。

『残りの2機が接近中。損傷した敵も、まだ動くよ』

「こんなことが前にもあったような」

 そう、あれは前作『THE 装甲ロボ4 アドバンス』を買ってさっそく遊ぼうとコントローラーを構えたあの時。もう4年前か。あの頃は良かったなぁ……じゃなくて! あの時も操作が上手く行かずにチュートリアルステージで10分ほど堂々巡りを繰り返したのだった。それでどうしたかというと。

「あっ」

 あまりに間の抜けた答えだった。

「そういうことか」

 素早く十時キーを押してメニュー画面を開く。オプションから『キーコンフィグ』を選択。もちろんその間も敵は動きを止めてはくれない。

 左右のビル影から現れたヴォルメが、破損した1機をかばうように立ちふさがった。

 2機とも両腕で大型ガトリングを保持している。ザコといえど重武装。最初からこれだったら、初心者は泣くだろう。俺は初心者じゃないが。少しだけ泣いて良いかな。


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