彼女5
一人暮れなずむ街を見ながら、一人、行き交う人々の流れを眺める。
夕暮れ時は、とても懐かしいような、それでもって寂しいような、そんな気分になる。
暮れなずむ夕日が、ビルの隙間に見え隠れしながら、沈んでいく。
疲れた体をソファーに沈めながら、甘めのコーヒーを頼んだ。
ホイップしたミルクの中にキャラメルで花が描かれていた。
「美味しそう」
女の子は、幾つになっても、甘いものに目がない。
お酒が入る前に、ちょっとつまみ食いをしたかったが、時間もなさそうなので、コーヒーだけで、我慢することにした。
暗くなるにつれて、先ほどよりは、人通りが多くなってきたようだ。
行き交う人々は、早足で過ぎていく。
もう外は、夜の帳が落ちそうなほど、空も紫色から暗い夜の闇へと変わりつつあった。
ゆっくりとした夕暮れ時は、またそれも 好きな時間だった。
時間を気にせず、過ごす至福の時間。
世の中が忙しなく動いていても、自分の周りだけは、異空間のようにゆっくりと時間が流れていく。
―まるで、デートの待ち合わせのような気分。―
そう思うと、頬がうっすらと上気する。
―こんな時に、彼が来たら…―
ソファーに沈んだ体を、なお一層、深く沈めながら、コーヒーカップに手をかけた。
携帯電話の時計を見ると、6時50分、そろそろ来てもよい頃あいだった。
彼の影が、カフェの鏡に映ったのが、ちらりと見えた。
ひと呼吸おくと、彼が扉を開けた。
鏡に映った彼が、迷わず、私の方へ真っ直ぐ歩いてくる。
心臓の鼓動が激しくなる。
彼の手が、肩に置かれ、私は振り向いた。
【彼5】へつづく