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片 恋  作者: 由卯
8/12

彼 4

  「ごめん。今、聞いてなかったんだけど、主任、何、言ってたの?」 と

申しわけなさそうに尋ねる。


  「今夜、 飲みに行きましょうって。隣のカフェに7時みたいよ」 と

素っ気なく言って、彼女は俺の前から立ち去った。


 ―何か、気に触る事、言ったかな?―


 もやもやとした気持ちを抱えながら、エスプレッソのボタンを押した。

エスプレッソの香りが、深く、胸の底に沁み込む。

高ぶった心を鎮めるてくれるのを感じながら、俺は静かな午後の一時を楽しんだ。



 オフィスへ戻る途中に、課長と何やら会議をしている主任を見かけ、


 ―いつもと、全然、表情が違いすぎる。―


 と、真剣な面持ちの主任の顔が、変に可笑しかった。

噴き出しそうになるのを必死でこらえ、オフィスへ入った。


 彼女の姿が見えるように、わざと遠回りをして 自分の席に向かう。

土曜のオフィスはしんと、静まりかえっていた。

出勤している社員も、いつもの半分ぐらいだろうか。


  「こんな良い天気の日に、仕事なんて、つまんねえな」


と、独り言を言いながら、壁に寄りかかって、窓の下を眺めた。

車も人通りも、寂しくなるほど少なかった。


 腕時計を見ると、4時17分。


 ―正味、2時間弱というところか。

  早く、今日の報告書を書き上げないとな。―


 デートの約束をしたような、そんなくすぐったい気持ちになりながら、俺は黙々と仕事を始めた。



 仕事が思ったよりも長びき、気づいたら、オフィスには自分一人しか居なかった。

時計を見ると、6時45分だった。


  「やっべぇ」


 帰り支度もそこそこに、鞄に手当たり次第物を投げこんで、廊下を走る。

カツカツと靴の音だけが、暗い廊下に響いた。

遠くでエレベーターの明かりだけが、妙に明るく光っていた。


 短距離のゴールのテープを切るように、エレベーターに飛び乗った。

小さな箱の中でかけ足をすると、ケーブルが切れてしまいそうなので、足の動きを止めた。


  「危ない、危ない」


 焦る気持ちを抑えながら、エレベーターの階を数える。


  「6、 5、 4…」


 エレベーターのベルと同時に表へ走り出した。


 ―何、 焦ってんだろう?…―


 急いでいる自分が可笑しくなり、急に立ち止まった。

【彼女5】へつづく

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