彼女4
目の前を遮られ、動揺を隠せない私は、思わず、
「何か御用ですか」 と、
少しきつい口調で、主任の顔を睨んだ。
そんな私の気持ちなどお構いなしに、主任は、
「あんた、 暇でしょう?
今夜つき合いなさいよ」 と、
いつもの口調で、突拍子もない言葉を発した。
びっくりした私は、
「主任と二人きりでは、嫌です」 と、強く言い切った。
「あんたも言うわね。
皆で行くのよ、もちろんあんたも」 と、
彼の胸元を軽く小突いた。
彼の胸元に置いた主任の手を見ながら、胸が高鳴るのを感じた。
「じゃ、そういう事で、隣のカフェラウンジに7時ね」
そう言うと、主任は楽しそうに休憩室から出ていった。
そんな主任の後ろ姿を見送り、休憩室から出ていこうとした時、今度は彼の方から話しかけてきた。
私の心臓は高鳴るどころか、その激しい鼓動で破裂寸前だった。
小走りに、半端逃げるように、休憩室を後にした私は、息を荒だてながら、自分の席についた。
赤くなった頬を冷ますように、両手で頬を包む。
―暑い。口から火が出そうだ。―
そんなことを思いながら、頭を机にうっ伏したまま、暫くじっとしていた。
右の頬を机につけた状態で、オフィスの一番端にある窓から、遠く、空を眺めた。
机の冷やりとした感触が、気持ち良い。
緊張の余り、彼と何を話したのかさえ、思い出す事は容易ではなかった。
それほど、私の思考は錯誤していたらしい。
ただ、顔を合わせるのが恥ずかしくて、素っ気ない態度をとったことだけは、脳裏から離れなかった。
―気を悪くしたかな…―
色々と考えるたびに、次第に自己嫌悪に陥っていく。
ため息をつきながら、顔を上げると、壁の時計の針は4時を指していた。
―あと、 三時間。
こんなことなら、もっとお洒落な格好してくれば良かったな。―
隣の席の子は、いつの間にか帰ったらしい。
改めて、静まり返ったオフィスを一望してみると、出勤している社員は普段の半分もいないことに、初めて気づいた。
―そういえば、デートだって、言ってたわね。
5年後、10年後も今のような自分が居たとしたら…―
そう思うだけで、一抹の寂しさに襲われるのだった。
【彼4】へつづく




